東和薬品の吉田逸郎代表取締役社長は本誌インタビューに応じ、医薬品の安定供給に向けて“バックアップ生産体制”構築を急ぐ姿勢を強調した。平時だけでなく、地震など有事の際にも製薬企業が安定供給責任を果たす必要性を強調。このためには、「企業が安定供給責任を果たすためには、生産効率を上げて、製造時間、製造能力に余裕を持たせることが必要だ」と話す。さらに、生産拠点を日本各地に分散させることでリスクが減少できるとして、新たな生産体制構築の必要性を強調する。これにより、「地域で雇用も生まれ、地域経済の活性化にもつながる。医薬品産業の活性化にもつながる」と産業としての姿も描いた。（望月 英梨）

◎主要医薬品は２か所で製造販売承認を取得　「長期的には他社とのアライアンスも」

同社の描く“バックアップ生産体制”は、現在の製造ライン以外でも製造を補完できるよう、複数拠点で製造できる体制のこと。３工場体制（大阪、岡山、山形）に整備後、取組みをスタートさせた。主要な医薬品について２か所で製造販売承認を取得できるよう体制整備を進めてきた。「それぞれの工場で許可を得る必要があることから、データバリデーションなどにハードルがあり、難しい面もあるが、有事であっても医薬品を安定供給できる体制を構築している」と強調する。「長期的には他社とのアライアンスによるバックアップ生産体制の構築により供給の安定性を回復させ、堅牢な生産体制の構築に努めていきたい」と今後の姿を描く。

こうした体制構築を急ぐ背景には、吉田社長の“安定供給”への熱い想いがある。「安定供給という言葉には、平時だけでなく、地震などの天災や火災、事故などの有事であっても、製薬企業が供給責任を果たすという意味が含まれている。企業としては安定供給責任をどこまで果たせるかが重要だ」と強調する。このためには、「生産効率を上げて、製造時間、製造能力に余裕を持たせることが必要だ」と説明する。

◎「技術やノウハウが国内にあるうちに手を打つ必要がある」

医薬品産業像を見据えた危機感もある。現在は、医薬品製造の設備やノウハウは国内にある。ただ、技術がアジア諸国に流出した半導体を引き合いに、「医薬品も安さだけを追い求めれば、中国やインドからの輸入に頼ることになり、工場を閉鎖したら、半導体と同じ状況になってしまう」と指摘。「産業のあるべき姿を考えたときに、医薬品の国内製造の自給率90～95％を目指し、企業がそれぞれの役割を果たす必要がある。日本国内に工場を持ち、技術やノウハウを生かしていく姿が理想的だ。国内に製造技術や設備、ノウハウがあるいま、手を打つ必要がある。一度、人が散らばり、ノウハウが継承されなくなってからでは遅い」と危機感を露にする。

「先発医薬品も含めて、日本各地に工場は点在している。地震の多い日本を考えたときに、リスク管理の観点からも、日本各所に点在していたほうがいいのではないかと思っている。地域で雇用も生まれ、地域経済の活性化にもつながる。医薬品産業の活性化にもつながると考えている」と述べ、生産拠点を１か所に集約するのではなく、複数の生産拠点を構えるメリットを強調する。

一方で、他社と連携するうえで、「製造ラインの機械や設備が異なる場合、技術的に同品質の製品を製造するのが難しい面はある。処方設計を合わせることには時間もかかる。新たに機械や設備の導入を進める際には、ここまで想いを馳せる必要もある。バックアップ生産体制をあらかじめ考えておく必要があり、そこには一つ、ハードルがあると感じている」との認識も語った。

◎「生産余力」に薬価上の評価を　ジェネリックの企業指標も視野

こうした取組みを後押しする薬価制度が必要との考えも示した。「安定供給体制の構築に向け、国内製造の自給率をもっと大事にし、品質の担保された医薬品を供給することがジェネリック医薬品メーカーに求められる役割だと思っている。それに伴った薬価制度にしていただきたい」と強調する。具体的には、「生産余力の部分を薬価上で評価していただけないか」と要望。ジェネリック医薬品の企業指標には、「ジェネリック医薬品の安定供給のための予備対応力の確保」という項目があることに触れ、「そうしたことも要望していきたい」と語った。