PwC 医療・ヘルスケア領域の生成AI「停滞傾向」 アイデア出しで期待高く 業界構造の変革チャンスも
公開日時 2024/06/18 04:51
PwCコンサルティング合同会社執行役員パートナーの三善心平氏は6月17日の記者会見で「生成AIに関する実態調査2024春」の結果を発表した。調査は日本の全産業を対象に、生成AIに関する認知、興味、関心、活用状況などを調べたもの。医療・ヘルスケア・医薬品・医療機器業界の生成AI活用については、急激に期待値が拡大した前回調査(23年秋)に比べると「停滞傾向」とし、ユースケースの実証に至っていない状況を指摘した。一方で生成AIの活用効果については、「ブレインストーミングやアイデア出し」への期待値が高くでたほか、「業界構造を根本から変革するチャンス」と捉えている企業が25%占めていた。
調査は、日本国内の企業・組織に所属する従業員(課長職以上)でAI導入に何らか関与(意思決定、企画検討等)する912人からWebで回答を得た。調査期間は、24年4月3日~4月8日。なお、今回の調査は3回目で、23年春、23年秋の各調査に続くもの。
生成AIへの期待度合(チャンス)について三善氏は、「50%前後の企業が、既存ビジネスの効率化や競合への対応など、足元の効果創出が生成AIへの期待のボリュームゾーンになっている」と分析した。一方で業界別の傾向をみると、医療・ヘルスケア・医薬品・医療機器業界については、「一つはフィジカルなオペレーション伴うような業務であることに加えて、ハルシネーション(AIの幻覚)みたいなところに対し、制度面で100%担保できないと言った話もよく出ている」と指摘。「(業界として)生成AIを推進してはいるものの、試行錯誤から活用・実用化に至るまで、少し時間を要している業界だ」との見方を示した。
◎生成AIの活用効果に対する期待との差分で「2極化」の兆し
三善氏はまた、今回の調査結果から生成AIの活用効果に対する期待との差分で「2極化」の兆しがうかがえると指摘した。調査では生成AIが「期待通りの効果があった」との回答が全体の49%だったのに対し、「まだ効果を期待できていない」が25%を占めた。この背景を分析したところ、「期待通りの効果があった」との回答の多くが、「報告書やメールなどの文章執筆」、「文章の添削や校正」など“テキスト系”のユースケースに集中。さらに、「生成AIを組み込んだ新たなサービスの提供」など開発/新規ビジネス系のユースケースで効果を実感していた。
一方で、「まだ効果を期待できていない」との回答者のユースケースをみると、テキスト系の活用事例が多かったが、その内容をみると、「利用がテキスト系のみで、要約や資料検索といった基本的な利用にとどまっている」との状況も浮かびあがっていた。また、生成AIの捉え方について、「期待通りの効果があった」との回答では、「業界構造を根本から変える可能性のある技術だと認識し、経営アジェンダとして取り組んでいる」との傾向が見えたのに対し、「まだ効果を期待できていない」との回答者は、「足元の業務効率化を実現する技術に過ぎないと認識している」と分析しており、双方の違いが見えていた。
この傾向について三善氏は、「期待通りの効果を実感する背景には、社内データ連携(RAG)を使った社内情報検索のみならず、より意思決定や施策検討みたいなところまで踏み込み、テキスト系以外の生成AIを使ったユースケースを既に検討している」と強調した。