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財政審建議 費用対効果の本格活用で「革新性で差別化した価格を」 薬価改定は既収載品ルール全て適用を

公開日時 2024/05/22 05:00
財務省の財政制度等審議会(十倉雅和会長・住友化学代表取締役会長)は5月21日、建議を取りまとめ、鈴木俊一財務相に手渡した。建議では、「真に革新的な新薬とそうでないものを区分し差別化した価格設定を行うことは、国民の革新的な医薬品へのアクセスを改善することにつながる」として、費用対効果評価の本格活用の必要性を指摘。費用対効果評価を実施する薬剤の範囲や価格調整対象範囲の拡大などを提案した。25年度に予定される診療報酬のない年の薬価改定については、新薬創出等加算の控除など、「既収載品の算定ルールについて、全て適用すべき」と主張した。(写真提供:財務省)

◎費用対効果評価 薬剤の範囲や価格調整対象範囲を拡大、保険償還の可否の判断など検討を

日本では薬事承認された医薬品は事実上すべて公的保険で収載されており、費用対効果評価の適用も限定的であることから、財政審では費用対効果評価の本格活用を提案した。

イギリスでは費用対効果分析、フランスやドイツでは追加的有用性評価を幅広く適用しているが、「費用対効果評価と追加的有用性評価のいずれの方法にせよ、統一的な手法により真に革新的な新薬とそうでないものを区分し、差別化した価格設定を行っている」と指摘した。

一方、日本では費用対効果評価の活用が一部にとどまっていることから、「真に革新的な新薬とそうでないものを区分し差別化した価格設定を行うことは、国民の革新的な医薬品へのアクセスを改善することにつながる」と本格活用の意義を強調。「我が国で既に一部導入されている費用対効果評価を実施する薬剤の範囲や価格調整対象範囲を拡大するとともに、費用対効果評価を実施している他国の例も踏まえ、費用対効果評価の結果を保険償還の可否の判断にも用いることも検討すべき」と提案した。検討に際しては、「革新的な新薬を適切に評価することを含め他国における運用上の工夫や国際的な議論の動向にも配意することが重要」とした。

日本の医薬品市場では、日本でしか流通しない“カントリードラッグ”があることなどから、「薬剤費の配に問題があると考えられる」とも指摘。「費用対効果評価を徹底した上で、真に革新的な医薬品と費用対効果が低い医薬品を区分して評価し、小児用・希少疾患用医薬品を適切に評価することを含め、薬価配分にメリハリをつけることは、我が国の医薬品市場の魅力を高め、ドラッグラグ・ドラッグロスの課題に対応するとともに、製薬企業の国際競争力の強化にもつながると考えられる」としている。

◎25年度薬価改定 新薬創出等加算の控除など「既収載品の算定ルールについて、全て適用すべき」

薬剤費については、既存薬価の改定率はマイナスとなっているが、薬剤使用量の増加や新規医薬品の保険収載等により、薬剤費総額は年2%程度増加していると指摘。「今後、高齢化の進展に伴い、さらなる薬剤費の増加が見込まれる中、国民負担の軽減の観点から、毎年薬価改定を着実に実施していく必要がある」と指摘した。

23年度薬価改定では、新薬創出等加算の累積額控除及び長期収載品に関する算定ルールが適用されなかったことに触れ、「毎年薬価改定が行われる中で、2年に1度しか適用されないルールがあるのは合理的な説明が困難」と指摘。「新薬創出等加算の控除等については、収載のタイミングによる不公平も生じる」として、「2025年度改定では、既収載品の算定ルールについて、全て適用すべき」としている。

◎医師の偏在是正へ 「当面の措置」として地域別診療報酬の節減効果活用の検討を

医療提供体制については、医師の偏在に問題意識を表明。「経済的インセンティブと規制的手法の双方を活用した強力な対策を講じる必要がある」と指摘した。経済的インセンティブとしては、診療所の報酬適正化に加え、地域別診療報酬を活用したインセンティブ措置の検討を求めた。「当面の措置」として、「診療所過剰地域における1点当たり単価(10 円)の引下げを先行させ、それによる公費の節減効果を活用して医師不足地域における対策を別途強化することも考えられる」と提案した。

◎社会保障費の増加 高齢化による増加相当分に収める方針を継続 25年度のPB黒字化は「一里塚」

建議では、現行の財政健全化目標である2025年度の国・地方のプライマリーバランス黒字化を「一里塚」と強調。実現に向けて、「規律ある“歳出の目安”の下で歳出改革の取組を継続すべき」とした。2025年以降も高齢化率が上昇し続けていることが見込まれる中で、社会保障関係費の実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びに収める方針を「今後も継続」しつつ、メリハリのある予算編成を行う必要性があるとしている。

「マクロの視点から医療・介護に係る保険料率の上昇を最大限抑制するため、効率的で質の高い医療・介護サービスを確保しつつ、給付の適正化を図るべく、改革工程に記載されたミクロの改革項目を着実に実施していく必要がある」ことも指摘している。

増田寬也分科会長代理(日本郵政取締役兼代表執行役社長)は建議手交後の会見で、「社会保障の持続性を確保し、全世代型社会保障を構築する観点から、改革工程に基づき、医療・介護制度改革に取り組み、公費と保険料負担の抑制に努めることが重要」と明記したことが建議の柱のひとつに据えていることを説明。「現行の財政健全化に向けた取り組みは一歩も後退させてはならず、政府は高い緊張感を持って財政運営に臨むべき」と強調した。




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