日本医薬品卸売業連合会（卸連）の宮田浩美会長は３月28日の記者会見で、改訂された流通改善ガイドラインに医療上の必要性の高い医薬品を価格交渉の段階から“別枠”として個々に単品単価交渉すると明記されたことについて、「安定供給との御旗のもと、古い商慣習を改善する大きな転換点になる」との認識を示した。卸連は、別枠交渉を求められた医療上必要性の高い品目を明確にするデータベースを構築。価格交渉に携わる流通当事者全員にアクセスしてもらうことで、「共通の理解の下で別枠とされた品目の単品単価交渉に取り組める」と強調。結果として医療上必要性の高い品目で価値を踏まえた交渉が実現し、安定供給につながるとの見方を示した。

宮田会長は、総価取引や一次売差マイナスといった商慣習の改善が30年間進まなかったと振り返りながら、「（流通改善に向けて）一歩前に進む実効性を高めるということで、流通改善ガイドラインは非常に重要。これからの取引慣行に影響する」と述べた。特に医療上必要性の高い品目の別枠での単品単価交渉が、流通改善への「肝の部分」だと強調した。

３月１日に改訂された流通改善ガイドラインでは、「“医薬品の安定供給”を確保する観点から、特に医療上の必要性の高い医薬品として基礎的医薬品、安定確保医薬品（カテゴリーＡ）、不採算品再算定品、血液製剤、麻薬、覚醒剤及び覚醒剤原料については、価格交渉の段階から別枠とし、個々の医薬品の価値を踏まえた単品単価交渉とすること」と明記された。

安定確保医薬品や不採算品再算定品などは医療上の必要性が高いにもかかわらず、総価取引が行われて価格の調整弁とされ、乖離率が大きいことが指摘されていた。結果として製造コストがまかなえず、安定供給にも支障をきたす事態となっている。一方で、医療現場や医薬品卸からは、不採算品目に該当する品目がわからず、価格交渉にも影響しているとして、品目の開示を求める声があがっていた。

◎「別枠品マスターデータベース」の運用開始　約１万品目弱を掲載

卸連は、医療上必要性の高い品目について、厚労省の公開資料などを基にJANコード単位で特定した「別枠品マスターデータベース」を構築し、３月下旬から運用を開始した。データベースには別枠品約１万品目弱を掲載。医療用医薬品売上全体の７～８％を占める。

データベースは卸連加盟企業のほか、日本医師会や日本薬剤師会などの医療関係団体、病院団体・グループ、健保連、日米欧の製薬団体など約40の団体の傘下会員が無料で利用できる。各団体の傘下会員らからの利用申請を受け付けた後、当該会員に１つのログインＩＤを付与する。

卸連によると、例えば医薬品卸の場合は、企業内の製品マスターを管理する担当者が随時、本データベースにアクセスして別枠品のデータをダウンロードし、製品マスターに別枠品のフラグを立てることで、当該企業の社員が別枠品を認識できるようになる。医療機関側も同様の運用であったり、Excelファイルや紙媒体で別枠品が認識されるとみている。卸連は、別枠品を見える化することで、流通当事者の「共通の理解」の下で単品単価交渉に取り組める環境を整備したとしている。

◎令和６年度事業計画　会員の流通改善ガイドラインの理解向上、周知徹底に取り組む

卸連はこの日の理事会で令和６年度事業計画を了承した。「流通改善ガイドライン（改訂版）への対応」を盛り込み、取り組むことの１番手に、会員を対象とした説明会の開催などを通じて「ＧＬの理解向上を図りながら、周知徹底に取り組む」ことを記載した。別枠品マスターデータベースを適切に運用するなどして「個々の医薬品の価値を踏まえた単品単価交渉の実効性が高まるよう取り組む」ことも明示した。また、不適切な返品等の事例について、独占禁止法に抵触しないよう留意しつつ、「情報共有の在り方について検討を行う」ことも盛り込んだ。

インボイス制度対応によって過重となっている業務負荷の緩和や配送プロセスの最適化を見据えて、医薬品卸各社毎に異なる請求書や納品伝票等のフォーマットの標準化を図るとし、「業界全体の業務効率化を推進する」とした。

このほか、１月の能登半島地震などこれまでに経験した大規模災害・パンデミックへの対応に関する知見や教訓、課題などを整理・検討することも行う。例えば被災地における必要な医薬品の配送に関することや被災状況等の情報の収集・提供等が適時適切に行えるよう、発災直後からの卸連における業務手順等を取りまとめ、関係者と共有する考え。被災地に向けた支援が迅速かつ円滑にできるように、平時から課題等を整理し対応するとしている。