中医協総会は9月27日、アルツハイマー病治療薬・レカネマブ(製品名:レケンビ)について、年間市場規模1500億円超が見込まれる高額医薬品に該当するとして、薬価算定方法や価格調整のあり方について議論することを了承した。同剤は、介護費用削減効果も期待されており、エーザイが薬価上の評価を求めている。現行薬価制度では評価されておらず、焦点となることが想定される。総会では、介護費用の取り扱いについては、2024年度制度改革に向けて議論が進められている費用対効果評価の結果も踏まえて検討することが了承された。介護費用の薬価への反映をめぐっては、まだ研究段階であることや、薬価収載時までに判断することが難しいとの指摘が飛び、収載時の薬価への反映は難しさをはらむ。診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)が「薬価収載の際ではなく、その後の費用対効果での話であると理解した」と述べる一幕もあった。
高額医薬品をめぐっては、2022年度薬価制度抜本改革の骨子で、年間1500億円超の市場規模と見込まれる品目について、薬価算定の手続きに先立ち薬価算定の議論を行うことが盛り込まれた。今年3月には新型コロナ治療薬・ゾコーバが高額医薬品に該当し、同剤に限る特別ルールが設定。保険上の留意事項通知により投与する患者を明確化したほか、“同剤に限った”市場拡大再算定の特例が導入されている。
◎承認から90日以内に薬価収載が行えるように議論へ
レカネマブは9月25日に承認されたが、年間1500億円超が見込まれる品目であることから、直ちに薬価算定や価格調整に向けた議論を開始した。同剤の承認から90日以内に薬価収載が行えるよう、議論を進めていくことも了承された。
◎最適使用推進GL策定で投与患者数は「収載時は限定的も、増大する余地」
同剤は、認知症に対する新規作用機序の医薬品であることに加え、アミロイド関連画像異常(ARIA)など重篤な副作用への迅速な対応が求められることから、最適使用推進ガイドラインが策定されることとなっている。最適使用推進GLでは、患者要件や医師・施設要件が定められる。このため、同剤の効能効果が該当する軽度アルツハイマー型認知症の161万人よりも「限定的」となる見通し。ただ、抗体医薬であり化学合成品よりも高額である傾向がある。厚労省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は、「薬価収載時点における予測投与対象患者数が限定的であったとしても、薬事承認された対象範囲の有病者数等を踏まえると、今後患者数が増大する余地があるのであれば、年間1500億円を超える可能性は十分ありうる」と説明した。
患者数の見通しについては、「実際使って使い始めてみないとわからない点があるので、どこまで精緻に現段階でシミュレーションするかというのは限界がある」と説明。最適使用推進ガイドラインの施設要件については、「当初の段階では安全性の担保が重要になってくるので、しっかりした施設で使ってもらうのが大前提。そういう意味では施設は限られてくるかと思うが、要件を満たす施設が増えてくれば、結果的には増加し得る」と述べ、今後の使用状況を検討する姿勢を示した。そのうえで、「そのために今の薬価制度の中では患者数などの増加によって様々なルール設定の中で判断している要素がある」と説明。高額医薬品となる可能性がある中で、「どのように価格調整や算定を考えるか、ご議論いただくというところ」と理解を求めた。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「年間1500億円の市場規模可能性が否定できず、保険財政の持続可能性に極めて大きな影響が考えられる。単価と患者数、さらには投与期間について適切な判断をする必要がある」と指摘した。
◎介護費削減の反映 診療側・長島委員「薬価収載後の話」 森委員「収載までの判断は難しい」
焦点となることが想定されるのが、介護費用の取り扱いだ。現行の薬価制度では評価されて
いないが、エーザイが薬価基準収載希望書で介護費用に基づく評価を求めている。2024年度制度改革に向けた議論が進められている費用対効果評価専門部会では、業界からの要望も踏まえ、取扱いについて議論が開始されているが、すでに「時期尚早」、「研究を進めるべき」などの声があがっている状況にある。
診療側の長島委員は、「費用対効果評価専門部会でも議論になっており、今後の研究という理解でいる。薬価収載の際ではなく、その後の費用対効果での話であると理解した」と述べた。
診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「現時点では、介護費用に関するデータの評価を薬価収載までに明確に判断することは難しい面もある。18か月以上の使用成績がないので、薬価専門部会や費用対効果専門部費費用対効果評価部会での議論とともに、今後も本剤の使用状況や有効性、安全性等を丁寧に見ながら、長期使用の有用性等についてもフォローすることにも留意しつつ、本剤を必要とする患者さんに適切に提供していけるよう、関係者で検討していく必要があるものと考えている」と述べた。
◎介護費用削減のプロスペクティブな検討求める声も「いささか難しいのではないか」
診療側の池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)は、「高額な医療費になる。国民の理解を得る意味でも、最終的に介護費用、介護負担がどれくらい減ったかが一番のアウトカムだと思うので、同時進行(プロスペクティブ)で分析できないか」と事務局に質した。これに対し、厚労省保険局医療課の木下栄作医療技術評価推進室長は、「すでに研究的要素が非常に強い部分かなと思うので、研究者との相談になろうかと思う。(結果に統計学的な有意差が出るまでに)相当程度の時間を要するデザインになろうかと思うので、すぐにさや影響が出るものを技術的に分析可能かというといささか難しいのではないか」と応じた。
◎安全性確保と医薬品アクセスの両立を 国の認知症対策含めた全体像踏まえた議論を
同剤をめぐっては、ARIAなど重篤な副作用が報告されていることから、安全性の確保と、医薬品アクセスの両立を求める声が複数あがった。
診療側の長島委員は、「アミロイド関連画像異常の診断と対応法が大変重要となるので、安全性がしっかりと担保されるようにしていただくことはもちろんのこと、本剤が有効な患者さんがきちんと本剤アクセスできるようにすることも重要であると考えている。その両面からご検討いただきたい」と述べた。また、「認知症の患者さんのうち、どのような患者さんが本剤にアクセスするべきなのかといった本剤の位置づけについて、国の認知症政策とも関連させながら、全体像をお示しいただくことが、薬価収載に向けた準備としても重要」と指摘した。
安川薬剤管理官も、「本剤の使用にあたっては、安全性の観点も含めて適正使用の観点も重要な要素になっている一方で、患者アクセスも必要になってくる。全体像がわかるような形で議論を進めていければ」と応じた。
◎診療・支払各側から 国から国民への周知求める声あがる 国民の”過度な期待”に警戒感
実際に投与できる患者が限定的であることを国民に周知することの重要性を指摘する声もあがった。支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は、「本剤は、アルツハイマー病に有効な新薬であるとして、広く国民が非常に期待している。あまり対象患者数を最初から多く発表すると、自分が対象患者から外れたときの残念な気持ちも非常に大きくなる。対応可能な人数を示していただき、それを国民全体で納得していただけるよう広報することも非常に大事だ」と述べた。
診療側の長島委員も、「国民の大変大きな期待があるのが現実だが、実態あるいは正確な情報に基づかない過度な期待というのは、マイナス面も極めて大きいと思う。厚労省においては、正しい情報をわかりやすく丁寧に国民にしっかりと周知するということも極めて重要かと思うので、よろしくお願いしたい」と述べた。
今後は、中医協薬価専門部会で検討し、その結果を基に総会で議論される。介護費用の取り扱いについては、薬価専門部会、費用対効果評価専門部会の議論を踏まえて総会で議論する。