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薬価制度改革の論点を探る 加重平均を用いる現行制度そのものへの疑念深まる 制度による市場の歪も

公開日時 2022/04/13 04:53
現行の加重平均を用いた薬価制度による市場の歪みを指摘する声が、業界内外からあがっている。院外処方が増加し、大手調剤チェーン薬局や医療機関、ボランタリーチェーンの台頭など、流通をめぐる環境や取引状況が大きく変化している。こうしたなかで、かつて縮小傾向だった薬価差は、むしろ拡大する傾向にある。21年度から導入された毎年薬価改定(中間年改定)や調整幅圧縮の議論はさらにこの歪みを大きくする可能性があり、医薬品の安定供給に支障を来す懸念さえある。日本の薬価制度は、市場実勢価格主義を貫いてきた。しかし、納入価のバラツキの大きさが指摘されるなかで、加重平均を用いる現行の薬価制度そのものに疑念の声もある。流通実態を踏まえて、薬価制度改革の議論をする必要性が高まっている。(望月英梨)

◎現行の医薬品流通や価格交渉の仕組みは限界 あるべき姿を議論すべき くすり未来塾


「現行薬価制度、制度に起因する現行医薬品流通や価格交渉の仕組みは限界。一旦、現行制度を前提とせず、あるべき姿を議論する必要があるのではないか」-。薬価流通政策研究会・くすり未来塾が4月にまとめた「薬価流通改革提言Ⅱ」で、提案された「医薬品流通安定化戦略の概要(骨子)」ではこう指摘している。

現行の薬価制度では、卸の医療機関・薬局に対する販売価格の加重平均値(税抜きの市場実勢価格)に消費税を加え、さらに調整幅(改定前薬価の2%)を加えた額が新薬価とされる。一方で、薬価を決める納入価のバラツキが大きく、公定価格である薬価が全国一律であることによる弊害もある。医薬品の価値を適正に反映しているかも課題と言える。

◎病院、診療所、保険薬局、都市部、地方、へき地・離島 卸の利益率バラツキ顕著に

医薬品卸にとっては、病院・診療所、薬局の密集する都市部と、地方の中核都市、へき地・離島では当然、流通コストも異なる。しかし、川下取引では、規模を背景としたバイイングパワーが強く働く傾向にある。例えば、「病院(20床以上)」、「診療所(19床以下)」、「保険薬局(20店舗以上)」、「保険薬局(19店舗以下)」にわけ、さらに取引条件の異なる「都市部」、「代表的な地方」、「代表的なへき地・離島」を掛け合わせて、医薬品卸の利益率を見てみると、医療機関・保険薬局でバラツキがあることがわかる。

診療所(19床以下)での赤字受注(軒数ベース)はいずれも20%以下。これに対し、保険薬局(20床以上)では赤字の受注が60%を超える。金額ベースで見ても、同様の傾向を示している。特に、保険薬局(20店舗以上)については、離島・へき地では軒数ベース、金額ベースともにすべてで赤字となるなど、赤字傾向が強い。保険薬局でも店舗数の多いチェーンでこの傾向が強くなる。薬価差は平均で見ると解消されるように見えるが、実際には小規模な薬局・医療機関の薬価差を広く解消する一方で、大きな薬価差を得ている大手チェーン薬局や医療機関グループの薬価差を温存することにつながる。医療機関の実購入償還価格でも、多数の医療機関の購入価保証でもなく、薬価差も解消することができない。

こうした傾向は、今後弱まるどころか強まることが想定される。特に、調剤報酬が厳しさを増すなかで、チェーン薬局の大型化が進み、小規模チェーン薬局や個店ではボランタリーチェーンを通じた価格交渉が広まるなど、環境変化も起きている。医療機関・薬局は当然、逆ザヤでは購入せず、薬価は下落傾向にあるが、こうした規模の経済の影響を受け、改定のたびに価格はサイクル的に下落する傾向に陥る。

◎地域卸が役割と機能を維持できる仕組みが大前提

すでにこうした弊害は、表に出始めている。先述のデータが示すように、医薬品卸が赤字でも配送することが増加。価格圧力が強まるなかで、地域医療機能推進機構(JCHO)の取引をめぐる四大卸の談合事件も起きた。さらに、こうした状況が続けば、医薬品卸と医療機関・薬局との交渉が打ち切られ、医薬品が医療現場に届かなくなることが起きるリスクもはらむ。毛細血管型の流通網を構築し、全国津々浦々に医薬品を運ぶことを使命とする医薬品卸だが、特に、小口で売上も伸びず、取引条件の悪い、へき地・離島に医薬品を実際に届ける役割・機能は地域卸が担っている。こうした地域卸が役割と機能を維持できる仕組みが必要ではないか。

◎技術料とセットで見直す必要性の検討 一方で特例的な事業者の数字は除くなど

薬価差の縮小に向けて、診療報酬の技術料とセットでの見直しを検討する必要性もある。昨年改訂された、厚労省の流通改善ガイドラインでは、「医薬品の価値を無視した過大な値引き交渉及び不当廉売の禁止」が盛り込まれている。ボランタリーチェーンや、医業経営コンサルなどのベンチマークを用いた値引き交渉を慎むことも求めている。こうしたなかで、技術料とセットで見直すのであれば、過大な薬価差を享受する大口取引の事業者群を特定し、例えば、向精神病薬の多剤併用では減算措置が設けられているのと同様な特例措置の設定や、新薬価の設定ではこうした特例的な事業者の数値は除くなどの対応が必要との意見もある。

◎毎年薬価改定(中間年改定)の導入や調整幅縮小の議論でさらに拍車も

こうした傾向は、毎年薬価改定(中間年改定)の導入や調整幅縮小の議論で、さらに拍車をかけることが想定される。薬価調査による平均乖離率は19年度、20年度は8.0%、21年度は7.6%で、毎年薬価改定導入後も、8%前後で推移している。財務省の財政制度等審議会は、調整幅が2%で20年間維持されていることを問題視。昨年12月に鈴木財務相に手渡した建議には、調整幅について「水準の合理的な根拠の説明もないままに、薬価改定の効果を目減りさせ、保険料負担・患者負担・公費負担を嵩かさ上げしていることは、大きな問題と言わざるを得ない」と主張した。22年度薬価改定では、「調整幅の廃止に向けたロードマップを示しつつ、段階的縮小を実現すべき」とも主張している。一方で、薬価差が縮小しないのは、薬価差を国民に還元することを目的にするのであれば、政策目標と効果が合致していないとの見方も厚労省内にはある。

◎業界として先発・後発品の特性に応じた検討も必要では

医薬品卸への公定マージンなども考えられるが、薬価が公定である以上、効率化の働くインセンティブが消え、かえって保険料負担、患者負担、財政負担の軽減を阻害することも指摘される。医薬品の性質上、上市からの期間や競合品の存在、ポートフォリオなどにより、製品の位置づけも変化するため、カテゴリー別に考慮することの難しさもある。

ただ、安定供給に支障が出た後発医薬品などは、本来であれば需要と供給の関係から価格が引きあがるのが合理的だが、実際には価格が引き下がっている。ジェネリックメーカーの取引状況を指摘する声もあるが、他の製品のしわ寄せを受けているとの見方もある。後発品80%時代に入るなかで、製品カテゴリーに合致した制度へと変革する必要もあるのではないか。厚労省の「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会(流改懇)」では、土屋直和委員(日本製薬工業協会流通適正化委員会委員長)は、「民間調査会社の定義を参考に団体内で検討を進めてきたが、業界団体としてスペシャリティ医薬品を線引きすることは市場における取引に影響を及ぼすことが想定され、なかなか難しいと判断した」と述べたが、業界として、先発・後発品の特性に応じた意見を提示することも必要ではないか。

◎約20年間2%で据え置かれた「調整幅」 まずは議論の俎上にのせることが何より重要


調整幅については、約20年間2%で据え置かれ、具体的な議論はなされてこなかった。制度創設からの環境変化も踏まえ、薬価制度全体の議論を今こそすべきだ。業界外からは、過去5年間、「製薬業界は薬価制度改革の議論の俎上にさえ、上っていない」という厳しい指摘を耳にすることは多い。まずは、薬価制度改革を議論する必要性をステークホルダーに理解してもらい、議論の俎上にのせることが何より重要だ。

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