厚労省 ファイザーの経口新型コロナ治療薬パキロビッドを特例承認 段階的に医療現場に提供
公開日時 2022/02/10 23:30
厚生労働省は2月10日、ファイザーの経口新型コロナ治療薬パキロビッドパック(一般名:ニルマトレルビル/リトナビル)を特例承認した。同剤は併用禁忌として医薬品38成分と食品1つがあるため、処方・調剤にあたっては、医師・薬剤師は患者が服薬中の全ての薬剤の確認が必要となる。このため、2月27日までは全国約2000の医療機関の院内処方と一部薬局でのみ使用可能とし、適正使用に向けた患者へのより良い説明方法や併用薬の確認方法の実績を積み上げることになった。必要に応じて添付文書や説明資材を改訂し、28日以降、全国の入院や外来で使用できるようにする。
同日に開催された薬食審・医薬品第二部会で特例承認が了承されたことを受けて、厚労省は即日、特例承認した。同剤は新型コロナに対する経口抗ウイルス薬として、2021年12月24日付で特例承認されたMSDのラゲブリオカプセル(モルヌピラビル)に続く2剤目となる。
パキロビッドの効能・効果は「SARS-CoV-2による感染症」。主な投与対象はラゲブリオと同様、重症化リスク因子を有する軽症~中等症Ⅰの患者となる。パキロビッドの投与対象をさらに明確にするため、日本感染症学会の作成するガイドライン「COVID-19 に対する薬物治療の考え方」を改訂して規定する。
パキロビッドの用法・用量は、「通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、ニルマトレルビルとして1回300mg及びリトナビルとして1回100mgを同時に1日2回、5日間経口投与する」となった。用法・用量に関連する注意で、「SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始すること。臨床試験において、症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない」と明記。5日以内の投与を推奨する内容になっている。
また、中等度の腎機能障害患者(eGFR[推算糸球体ろ過量]30mL/min以上60mL/min未満)には、ニルマトレルビルとして1回150mgに減薬するほか、重度の腎機能障害患者(eGFR 30mL/min未満)への投与は推奨しないとされた。
臨床試験では、日本も参加している国際共同第2/3相EPIC-HR試験で、外来治療の対象となる重症化リスクの高い新型コロナ患者において、プラセボと比較して入院または死亡のリスクを89%(症状発現から3日以内)および88%(症状発現から5日以内)減少させた。有害事象の発現割合は23%とプラセボ(24%)と同程度であり、おおむね軽度だったとしている。
◎降圧剤、高脂血症治療薬、抗凝固薬などが併用禁忌
パキロビッドを構成するニルマトレルビルは、ウイルスの増殖に必要な酵素であるSARS-CoV-2 のメインプロテアーゼ阻害薬。ポリタンパク質の切断を阻止することにより、ウイルス複製を抑制する。リトナビルは、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性を示さないが、ニルマトレルビルの主要代謝酵素であるCYP3Aの阻害作用を有するため、ニルマトレルビルの血漿中濃度を維持する目的で使用する。
リトナビルは単剤や配合剤が抗HIV薬として既に承認され、使用されているが、他の薬剤との相互作用が知られ、多くの併用禁忌の薬剤がある。パキロビッドも降圧剤、高脂血症治療薬、抗凝固薬など38成分が併用禁忌とされ、セイヨウオトギリソウ(St.John’s Wort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品も併用禁忌とされた。
具体的に併用禁忌の薬剤は、▽アンピロキシカム、▽ピロキシカム、▽エレトリプタン臭化水素酸塩、▽アゼルニジピン、▽オルメサルタン メドキソミル・アゼルニジピン、▽アミオダロン塩酸塩、▽ベプリジル塩酸塩水和物、▽フレカイニド酢酸塩、▽プロパフェノン塩酸塩、▽キニジン硫酸塩水和物、▽リバーロキサバン、▽リファブチン、▽ブロナンセリン、▽ルラシドン塩酸塩、▽ピモジド、▽エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン・イソプロピルアンチピリン、▽エルゴメトリンマレイン酸塩、▽ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、▽メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、▽シルデナフィルクエン酸塩(レバチオ)、▽タダラフィル(アドシルカ)、▽バルデナフィル塩酸塩水和物、▽ロミタピドメシル酸塩、▽ベネトクラクス〈再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の用量漸増期〉、▽ジアゼパム、▽クロラゼプ酸二カリウム、▽エスタゾラム、▽フルラゼパム塩酸塩、▽トリアゾラム、▽ミダゾラム、▽リオシグアト、▽ボリコナゾール、▽アパルタミド、▽カルバマゼピン、▽フェノバルビタール、▽フェニトイン、▽ホスフェニトインナトリウム水和物、▽リファンピシン――となる。
◎「パイロット的に併用薬の確認方法や患者への説明方法などの実績を積み上げたい」
この日の部会でも、複数の委員からパキロビッドの適正使用をどのように確保するのかとの意見があり、同剤は段階的に医療現場に提供することが確認された。
厚労省によると、早ければ2月14日から同剤の供給が開始されるが、2月27日までは都道府県の病床確保計画に基づき報告されている、新型コロナ患者受入確保病床を有する医療機関(=新型コロナ病床確保医療機関)約2000施設の院内処方と、一部の地域の薬局でのみ使用できるようにし、適正使用のための患者説明方法などを検証することになった。
この「地域の薬局」には、新型コロナ病床確保医療機関と連携できることを求める。厚労省の吉田易範・医薬品審査管理課長は部会後の記者説明会で、「28日以降の(全国での)院外処方を念頭に、コロナ患者受入確保病床を有する医療機関と連携可能な地域の薬局にも協力いただき、パイロット的に、併用薬の確認方法や患者への説明方法などの実績を積み上げていきたい」とねらいを語った。そして必要に応じて添付文書などを改訂し、「28日以降の全国の入院、外来でも使用できるようにしたい」と話した。
◎在庫配置は最大5人分まで
ファイザーは厚労省との間で、パキロビッドについて、2022年に200万人分を供給することで最終合意している。厚労省によると、4万人分は既に国内にあり、厚労省が買い上げた上で、ファイザーに供給を委託する
投与対象の医療機関は、ファイザーが設置する登録センターに登録した上で、同センターを通じて配分依頼する。在庫配置は最大5人分まで認めるが、患者が発生した場合は5人以上の配分を依頼できる。なお、厚労省によると、ラゲブリオの在庫配置は最大3人分までだが、現在も患者が発生している場合は3人以上の配分が依頼できるとしている。