塩野義製薬の手代木功代表取締役社長は11月1日、決算会見に臨み、国内事業強化に向けて、営業体制を見直す考えを示し、「正直に申し上げると、少し人数的にも減らす方向で動くのではないか」と述べた。同社の2022年3月期(21年度)第2四半期の営業利益は、前年同期比26.8%減の426億6400万円。クレストールのロイヤリティー収入消滅が響いた。主力品のサインバルタの後発品参入も影響した。21年度通期予想売上高は、新型コロナのワクチン、治療薬の開発が進展するなかで、40億円上方修正し、2940億円と見通した。19年度決算から2年連続で減収減益となるなかで、手代木社長は「何とか増収増益の基調のスタート点にしたい」と語った。
◎コア営業利益 21.4%減
2021年度第2四半期決算は、売上高前年同期比2.3%減の1451億円。コア営業利益は前年同期比21.4%減の439億円だった。アストラゼネカのクレストールのロイヤリティーは、契約に基づき、20年度四半期連結会計期間から受領額が減少。対前年同期比111億円減となり、大きな影響となった。同社のトップ製品であるサインバルタは14.9%減の115億円。安定供給への懸念などから後発品の市場参入が後れたこともあり、二桁減となったものの、計画を上回った。手代木社長は、「私どもの製品、ブランドが非常に強かった」と述べた。ADHD治療薬インチュニブは26.5%増の76億円を売り上げた。クレストールのロイヤリティー減少などは期初の予定に織り込まれており、「上期の予想からすると、少しプラスで着地した」と説明した。
◎連結業績予想「最低限ここは必ず守るという数字」
通期予想売上高は40億円上方修正し、2940億円とした。インフルエンザの流行予測も見通せないなかで、「COVIDを含めて下期をどう見るのか、変数が非常に多いところが悩ましいところだ」、「私どもが考えていることが全部うまくいけば大きな伸びになると考えているが読みづらい」との見方を表明。「2年連続でアンダーパフォームしてしまったので、最低限ここは必ず守るという数字を現時点では出させていただいている」と説明した。
一方で、21年度下期は、新型コロナ治療薬やワクチンを「どう製品化、商品化していくのかという勝負の時を迎えている」と説明。「研究開発費を含めた販管費は抑えるところは抑えながら、投資すべきところには積極的に投資しなければならないフェーズ」と述べた。研究開発費については国からの補助金もあるなかで、明確な数字を示すことの難しさも指摘した。
◎「正直に申し上げると、少し人数的にも減らす方向で動く」手代木社長
ビジネスの強化が喫緊の課題となるなかで、事業強化の柱のひとつに、「疾患戦略の実行に向けた取り組み」をあげた。病院専門MRによる、地域・全国への製品と疾患全般の情報の普及に加え、「医薬事業本部とヘルスケア戦略本部の連携」をあげた。手代木社長は、「COVIDの後、各病院がMRを受ける、受けないというのも含めて少し販売方法に変化が訪れている。これを何とか柔らかく対応できるような体制。正直に申し上げると、少し人数的にも減らす方向で動くのではないか」と述べた。
そのうえで、「ヘルスケア戦略本部とどのように組み合わせるのか考えて参りたい」と述べた。同社は、強みである創薬力を核に、診断や予防、未病・ケアなど多様なアプローチで疾患のトータルケアを実現する“HaaS企業”を目指す。ヘルスケア戦略本部は、製品軸だけでなく疾患軸で治療情報を広く提供する新たな取り組みを進める。こうしたなかで、ヘルスケア戦略本部にも、医薬事業本部と同様にマーケティング部門があり、デジタルの活用も視野に連携を強化することで、シナジー効果を狙う。
◎新型コロナワクチン 治験への患者登録4日で2000例超 「プレゼントサプライズだ」
「プレゼントサプライズだ」-。手代木社長は、開発を進める新型コロナワクチンの開発についての進捗状況をこう説明した。10月20日からスタートした国内フェーズ2/3には、開始4日目で2000例超が登録した。手代木社長は、「私どもが考えていなかったくらいのスピード」として、「非常に大きな期待をいただいているというのを感じ、責任も重いと思っている」と述べた。11月中に、フェーズ2/3(安全性・免疫原性評価)、フェーズ3(実薬対照中和抗体価比較試験)、ブースター試験(追加接種)、フェーズ3(プラセボ対照発症予防試験)を開始。22年3月までの申請を目指す。アプリを活用し、日本人を対象に追加接種時のmRNAワクチンと比較した安全性情報など、リアルワールドでの安全性情報収集にも力を入れる。
このほか、経口治療薬の「S-217622」については、国内の新型コロナ患者数の減少を踏まえ、韓国やシンガポール、ベトナム、イギリスなどで海外での治験を開始する方針を示した。「年内の承認申請というタイムスケジュールは崩さずにいく」と述べた。手代木社長は、「安全性については全く問題がないと思っている。有効性はプラセボ、低用量、高用量もあるのでわからないが、我々が測っている範囲ではウイルス減少が出ている症例もあり、予定通り有効性はあるのではないかと思っている」とも述べた。
【21年度第2四半期連結業績 (前年同期比) 21年度通期予想(前年同期比)】
売上高 1450億8500万円(2.3%減) 2940億円(1.1%減)
営業利益 426億6400万円(26.8%減) 900億円(23.4%減)
親会社帰属純利益 531億3100万円(1.5%増) 1000億円(10.6%減)
【21年度第2四半期の国内主要製品売上高(前年同期実績) 21年度通期予想、億円】
サインバルタ 115(135) 171
インチュニブ 76(60)166
ビバンセ 3 (1) 10
感染症薬 58 (49)166
オキシコンチン類 25 (28)50
スインプロイク 13(11)31
アシテア 2 (1) 4
ムルプレタ 1(1) 1
ピレスパ 20(28) 35
その他 159(158) 308
うちクレストール 31(37) 57
うちイルベタン類 15(17) 31
ロイヤリティー収入 654 (773)1320
うちHIVフランチャイズ 612 (639)1252
うちクレストール - (111) ―
うち「その他」 41(23)67
感染症薬の構成製品は以下
ゾフルーザ、ラピアクタ、ブライトポックFlu・Neo、フィニバックス、フルマリン、フロモックス、シオマリン、 バンコマイシン、バクタ、フラジール、フルコナゾール、イソジン