【FOCUS】小林化工が引鉄を引いた業界再編への流れ あぶり出された後発品業界に潜む構造的課題
公開日時 2021/04/26 04:52
「売上中心で出荷優先の意識が全社にあった」―― 。小林化工の小林広幸社長は4月16日、福井県あわら市の本社で会見に臨み、こう語った。生産部門だけでなく、研究開発部門でも横行した不正の数々には目を覆いたくなるものがあるが、根底にはジェネリックビジネス特有の構造的課題が見え隠れする。後発品80%目標に近づいたタイミングで明るみになった問題は、品質や安定供給の重要性をこれまで以上に浮き彫りにした。“業界再編”の必要性も指摘されるなかで、特許切れ後のマーケットを考えたい。(望月 英梨)
◎出荷優先主義の先に浮かぶ課題とは
「小林化工の製造現場において、何よりも優先されていたのは、スケジュールどおりの出荷であった」、「薬事分析部の従業員が、最も早いタイミングで承認申請を行うことを優先させ、承認申請に関わるルールを安易に逸脱している」―― 。4月16日の記者会見で公表された特別調査委員会による調査報告書(概要版)に繰り返し明記されているのが、“スケジュール通りの出荷”を最優先する小林化工の企業姿勢だ。そして、この背景にジェネリックビジネスが抱える特有の構造的課題がある。
最近になって後発品の市場浸透スピードがあがっていることが指摘されている。参入企業が多い大型品の切り替えは特に早く、上市から4か月ほどで8割が後発品に切り替わった製品もある。後発品は先発品と異なり、決まったパイを複数の企業で分かち合うマーケットとなっている。このため、大型品などでは当然、競争は激しさを増し、浸透スピードの速さにもつながっている。
小林社長は会見で、「有望なジェネリック製剤については、多くのメーカーが製造販売に向けて開発に凌ぎを削るなかで、特許切れ後すぐに承認をとろうとしたことがこうした不適切行為の背景にあった」と語った。年に2回(2月、8月)ある後発品の薬価申請のタイミングを逃がせば、他社に市場シェアを奪われる。ジェネリックメーカーでは、先発品の特許切れ、もしくは再審査期間終了のタイミングを見据え、開発スケジュールや生産体制拡充のタイミングなどのタイムラインを線引きする。スケジュールの厳守は何よりも重要だった。
共同開発などが多く生まれる状況も、こうした影響がある。「共同開発先との関係を考えると、安定性試験が終了しないので一番早い承認申請を諦めるという選択肢は取り得なかった」 と総括製造販売責任者が語ったことも報告書には記されている。上市への焦りが、研究開発部門の改ざんを生み、さらに生産部門の不正を生む負のサイクルに陥った。
不正ではないが、近年、疼痛治療薬・リリカや骨粗鬆症治療薬・エディロールなど大型品をめぐる特許権侵害訴訟も頻発しているが、ここにも大型品は“他社に先んじて上市を”、という姿勢の一端がうかがえる。
もう一つ、ジェネリック特有と言えるのが、市場を圧倒する武器が薬価差であることだ。先発品は作用機序など製品特性などで差別化が図れるが、同一成分である後発品では他社との差別化は難しい。ひとたび採用が決まれば市場を覆すことは難しい。“最も早いタイミングで、安く”というのがジェネリックメーカーとしての強みとなっていた。低薬価であることが安定供給の足かせになることを指摘する声もあるが、市場実勢価で薬価改定がなされることを踏まえれば、薬価差を武器とした売り方を進めてきた製薬企業が原因の端緒であるのは事実だろう。
◎特許後市場の捉え方が変わる!
これまで特許後のマーケットは、長期収載品、後発品、オーソライズドジェネリック(AG)などにわけて議論がなされてきた。先発品は特許切れ後に撤退し、後発品に道を譲るという路線が貫かれてきた。こうした施策は、医療費抑制に一定の効果を示したが、後発品上市後に安全性情報が蓄積されていないなどの課題も指摘されている。今後は、こうしたことに注力する企業に対しては一定のインセンティブも必要かもしれない。後発品80%をきっかけに、特許後の市場を一つのマーケットとして捉え、業界再編を考えることも必要と言えるのではないか。