日本製薬工業協会（製薬協）の中山讓治会長は3月23日、定例会見に臨み、新型コロナウイルスの感染拡大や、それに伴うＤＸの加速、財政悪化など、製薬産業を取り巻く環境変化を踏まえて策定した「政策提言2021」を紹介した。製薬産業が目指す姿では、イノベーションと国民皆保険の持続性が予見性をもって両立できる仕組みの構築を強調。医療保険制度の抜本改革に理解を示し、製薬業界として協力する姿勢を示した。一方、年々財政圧力が強まる薬価制度に対しては、「もはや限界」と強調。新薬の多様な価値を反映する評価体系の再編や、評価プロセスの改善など、次期改定に向け、バリューベースで薬価の透明性を向上する評価システムの構築を求めた。

◎国内外のワクチン開発の差はどこにあるのか？

「国内外のワクチン開発の差はどこにあるのか？」－。中山会長は会見の冒頭で、新型コロナを終息させる切り札と言えるワクチン開発の日米間格差に言及した。中山会長は、「米国では国防の観点から平時より新技術への投資を積極的に進められていた」と述べ、「要は開発のスタート時点が全然違っていた。国防という別目的で開発したワクチンが、今回転用された」と強調した。実際に、モデルナ社は国防総省傘下の防衛先端技術研究計画局（DARPA）から2013年段階でmRNAワクチン等の開発補助を受けている。一方で、日本では、基盤研や東大医科研がMERSのmRNAワクチン研究を行っていたが、緊急感染症対策におけるmRNAワクチンの臨床試験の予算カットにより2018年にプロジェクトは凍結になっていた。

中山会長は「パンデミックへの迅速な対応を可能とする平時からの感染症対策の推進が必要だ」と訴え、国産のワクチン・治療薬の創出のためには、国内製薬産業の健全な成長が不可欠であり、製薬産業を国の基盤産業・基幹産業と位置付け、産業政策を推進することが必要だと強調した。産業政策の観点からは、「ポストCOVID-19の経済復興を担うのはデジタル、グリーン+ライフサイエンス」と述べ、DX投資を含めた国の産業振興に強い期待感を示した。

◎財源を薬価に求めるこれまでの手法は“もはや限界”　医療システム全体の改革を

一方で国内医薬品市場については、「2018年の薬価制度の抜本改革、2021年度の中間年改定により、日本市場の魅力が著しく低下した」と批判した。中山会長は「政策提言2021」を説明する中で、「必要な財源を薬価改定・薬価差に求めるこれまでの手法は“もはや限界”だ」と訴えた。その上で、「国民的な議論を経た上で、医療システムの改革を推進することが必要だ」と強調した。政策提言2021では、持続可能な医療保険制度実現に向けた改革の視点として、負担構造、給付範囲、イノベーションの適切な評価―を提案し、製薬業界の役割として、医薬品の適正使用の推進に協力する姿勢を打ち出している。ただ、製薬業界として国の改革工程表の着実な実行を求めているものの、製薬業界が国民から支持されるような「評価システム」としてコンセンサスを得られるような骨太提案かといえば、現時点でそこまでは至っていない。

政策提言2021では、国民に分かり易い評価システムの確立として、「原価計算方式による算定事例を低減するなど透明化につなげる」や、「薬価算定のブラックボックス性を解消する」などの書き込みは見られたものの、医療システム全体から薬剤の価値評価（バリューベースドメディシン）を論ずるロジックとしては弱い。製薬業界が訴えるイノベーション評価と患者が求める治療満足度や治療アウトカムとの整合性をどう図るかなど、今後の議論が待たれるところだ。

◎価値の適切な反映、国民が納得する薬価算定のプロセスの透明化が必要

中山会長はまた、2018年以降の薬価制度抜本改革で失った市場の魅力を取り戻すための改善策として、①薬価収載後に得られたエビデンス、②追加された効能、③革新的新薬が持つ多様な価値－などが反映される仕組みを求めた。さらに、「薬価が維持される仕組み・引き下がらない仕組みが機能すること」に触れ、国民が納得する薬価算定のプロセスの透明化が必要とした。

さらに「政策提言2021」で製薬業界が目指す姿として、市販後に新たに構築されるエビデンスや市場環境の変化に基づき医薬品の価値の妥当性が適切に見直される仕組みや、医薬品の価値を最も理解する「企業が主体的に価値を説明し、社会から理解を得る仕組み」などに注力する考えを示した。