IQVIAは2月22日、2020年(20年1~12月)の国内医療用医薬品市場が薬価ベースで10兆3717億円、前年比2.4%減だったと発表した。市場規模は6年連続で10兆円を超えたが、額では前年から約2530億円下回った。市場縮小は2年ぶり。20年4月の薬価改定で4.38%の引下げを受けたことに加え、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う受診抑制が市場全体に影響した。
文末の「関連ファイル」に20年の市場規模や売上上位10製品の売上データに加え、売上上位製品の四半期ごとの売上推移をまとめた資料を掲載しました(ミクスOnlineの有料会員のみ閲覧できます。2週間の無料トライアルはこちら)。
市場区分別にみると、100床以上の病院市場は4兆7103億円(前年比0.8%減)、100床未満の開業医市場は2兆146億円(5.8%減)、主に調剤薬局で構成する「薬局その他」市場は3兆6467億円(2.5%減)――だった。3市場とも前年を下回るのは17年以来となる。ちなみに17年は、C型肝炎薬ハーボニーが前年比約2300億円の減収となるなどして市場縮小に至った。
■病院、開業医、調剤薬局の全市場 四半期ベースで3期連続のマイナス成長
20年の市場成長率を四半期ベースでみると、コロナ禍の影響と思われる市場の動きがみられる。市場全体では第1四半期(1~3月)は前年同期比0.2%増だったが、第2四半期(4~6月)は同2.5%減、第3四半期(7~9月)は同5.1%減、第4四半期(10~12月)は同1.9%減――と推移し、第2四半期以降、3期連続のマイナス成長となった。特に第3四半期のマイナス幅は大きい。
20年4~5月に新型コロナの感染拡大に伴う初の緊急事態宣言が発令され、全国的に受診抑制が起こった。IQVIAデータは医薬品卸から医療機関への納入状況をまとめたものだが、医療機関での医薬品の回転が鈍化したことが第3四半期のマイナス幅に影響した可能性もありそうだ。
病院市場、開業医市場、薬局その他市場の3市場別に四半期ベースで見てみると、3市場全てが第2四半期以降、3期連続のマイナス成長となった。IQVIAによると、 “3市場全てで3期連続マイナス成長”は05年の市場データの公開以降、初めてとなる。
ただ、病院市場と薬局その他市場では、第3四半期を底に、第4四半期は回復基調にある。しかし、開業医市場は第1四半期が前年同期比5.1減、第2四半期は同6.9%減、第3四半期は同6.0減、第4四半期は同5.1%減――と厳しい状況が長期化している。風邪などの比較的軽い疾患ではあまり受診しなくなったことが背景にあると思われる。
■キイトルーダ、オプジーボ、アバスチン 売上1000億円超え
次に、20年の売上上位10製品を見てみる。1位のがん免疫療法薬キイトルーダ、2位のがん免疫療法薬オプジーボ、3位の抗がん剤アバスチンのトップ3製品が売上1000億円を超えた。
キイトルーダは2年連続の1位で、売上は1200億円だったが、前年比6.5%減となった。非小細胞肺がん(NSCLC)1次治療を中心に処方数量が伸びたものの、20年2月に特例拡大再算定で薬価が17.5%下がり、20年4月改定で2月の薬価からさらに20.9%下がったことが減収要因となる。
オプジーボは売上1076億円、9.5%増だった。前年は4位。オプジーボは薬価が18年4月から1.85%上がった一方で、競合品キイトルーダは前述の通り薬価が大きく下がった。それでも両剤の間に130億円の売上差がある。これはNSCLC1次治療の追加でキイトルーダの後手を踏んだことが主因だ。オプジーボは20年11月に、▽免疫療法薬ヤーボイとの併用▽ヤーボイ及びプラチナ製剤を含む2剤化学療法との併用▽プラチナ製剤を含む2剤化学療法との併用――の3つの用法でNSCLCの1次治療から使えるようになった。胃がんなどの消化器系のがんでも存在感をみせており、これらで巻き返しを図る考えだ。
アバスチンは売上1029億円、12.8%減だった。前年は2位。20年4月改定で後発品参入に伴う新薬加算累積下げを受けて、薬価が15.7%下がったことなどが減収理由となる。
■タケキャブ、タグリッソが2ケタ成長
4位は抗潰瘍薬タケキャブ(売上979億円、15.8%増、前年7位)、5位は抗潰瘍薬ネキシウム(937億円、0.3%増、5位)、6位は疼痛薬リリカ(932億円、8.1%減、3位)、7位は抗がん剤タグリッソ(925億円、13.0%増、8位)、8位は抗凝固薬リクシアナ(897億円、1.7%減、6位)、9位は降圧剤アジルバ(800億円、7.5%増、10位圏外)、10位は水利尿薬サムスカ(800億円、2.9%増、9位)――だった。
2ケタ成長のタケキャブは20年に、四半期ベースで4期連続の2ケタ成長を果たした。同じく2ケタ成長のタグリッソは、19年11月に市場拡大再算定により薬価が15%下がったが、NSCLCの1次治療に使えることが主な成長理由となる。
■リリカ 後発品参入の第4四半期に17%減収
20年4月に特例拡大再算定により薬価が25%下がったリクシアナは数量増により1.7%の減収にとどまった。市場拡大再算定で薬価が16.5%下がったサムスカは3%近くの増収とした。20年12月に22社80品目の後発品が参入したリリカは、20年第4四半期(10~12月)の売上が前年同期比17%減となった。
■上位10薬効 抗腫瘍薬、糖尿病薬、免疫抑制剤の3市場でプラス成長
上位10薬効をみると、1位の抗腫瘍薬、2位の糖尿病薬、3位の免疫抑制剤の上位3市場は前年比で成長する一方で、抗血栓症薬など4位以下の市場は全てマイナス成長となった。
抗腫瘍薬の市場規模は1兆4849億円、前年比5.6%増だった。薬効内トップのキイトルーダのほか、アバスチン、レブラミドは減収となったが、オプジーボ、タグリッソ、テセントリク、イミフィンジが売り上げを伸ばした。上位10薬効中で、抗腫瘍薬市場の伸び率が最も高かった。12年から年間1位を維持し、17年以降は1兆円超の市場規模となっている。
糖尿病薬の市場規模は6051億円、4.9%増だった。薬効内トップのDPP-4阻害薬ジャヌビアや2位の同阻害薬トラゼンタは減収となったが、GLP-1受容体作動薬トルリシティが17%増、SGLT2阻害薬ジャディアンス及び同阻害薬フォシーガが各22%増とするなどして糖尿病薬市場は成長した。前年も2位。
■免疫抑制剤市場 売上トップ製品がヒュミラに
免疫抑制剤の市場規模は4545億円、3.1%増だった。前年の4位から今回、順位を1つ上げた。薬効内トップ製品がレミケードに代わってヒュミラとなった。ヒュミラは5%増としたほか、シンポニー(ヤンセン分)やステラーラに加え、18年4月発売のデュピクセントが55%増となるなどし、免疫抑制剤市場の成長に貢献した。
■制酸剤、その他の中枢神経系用剤、喘息・COPD治療薬で薬効内トップが交代
4位は抗血栓症薬(4238億円、4.0%減、前年3位)、5位は眼科用剤(3520億円、0.6%減、5位)、6位は制酸剤、鼓腸及び潰瘍治療薬(3471億円、1.2%減、6位)、7位はその他の中枢神経系用剤(2963億円、2.7%減、9位)、8位はレニン-アンジオテンシン系作用薬(2952億円、7.3%減、7位)、9位は脂質調整剤及び動脈硬化用剤(2807億円、8.7%減、8位)、10位は喘息及びCOPD治療薬(2718億円、10.4%減、10位)――だった。
このうち3つの市場で薬効内トップが交代した。制酸剤、鼓腸及び潰瘍治療薬市場でトップ製品がネキシウムからタケキャブに交代。その他の中枢神経系用剤市場では、アルツハイマー型認知症薬メマリーから前年7位のTTR型アミロイドーシス治療薬ビンダケルにトップが入れ替わった。メマリーは41%減だった一方で、ビンダケルは168%増とした。喘息及びCOPD治療薬では、19年12月に後発品が参入したシムビコート(39%減)に代わって、レルベア(3%増)が薬効内トップに立った。
■販売会社ベースの売上ランク 1位が武田、2位が第一三共 6位まで順位変わらず
企業別の売上ランキング上位20社を見てみる。医薬品卸に製品を販売し、その代金を回収する機能を持つ「販売会社」ベースでは1位~6位までの順位に変動はなかった。トップ3は、1位が武田薬品(7215億円、0.9%増)、2位が第一三共(6322億円、6.0%減)、3位がファイザー(5130億円、1.2%減)――となる。
4位は中外製薬、5位はアステラス製薬、6位は大塚製薬。7位は前年8位の田辺三菱製薬、8位は前年7位のMSD、9位は前年11位の日本イーライリリー、10位は前年9位のグラクソ・スミスクラインだった。
上位20社のうち3社で2ケタ成長した。それは、15位のヤンセンファーマ(2054億円、16.5%増)、18位の大日本住友製薬(1964億円、21.4%増)、19位の日本ベーリンガーインゲルハイム(NBI、1907億円、14.2%増)――で、大日本住友とNBIは今回20位以内に入った。
■販促会社ベース ヴィアトリスが13位にランクイン
販促会社が2社以上の場合、製造販売を持っているなどオリジネーターにより近い企業に売上を計上する「販促会社」ベースでのランキングは、前年1位のファイザーが20年11月の分社化により、売上2698億円で11位となった。分社化したヴィアトリス製薬は今回、売上2523億円で13位にランクインした。なお、ファイザーの伸び率は2.0%減、ヴィアトリスは14.2%減で、これらは継続事業の前年売上と比較したものとなる。
販促会社ベースでも1位は武田薬品(5122億円、4.0%増)となった。前年は3位。2位は前年に引き続き中外製薬(4817億円、5.2%減)、3位は前年4位の第一三共(4012億円、10.1%減)だった。