日医・中川会長 後期高齢者の窓口負担引上げ「高齢者に追い打ちをかけるべきでない」 対象者は「限定的に」
公開日時 2020/10/29 04:51
日本医師会の中川俊男会長は10月28日、75歳以上の後期高齢者の窓口負担2割への引き上げについて、対象は「限定的にしか認められない」と強く求めた。後期高齢者は1人当たり医療費が高く、年収に対する患者の一部負担割合が「十分に高い」として、「受診控えの恐れがある」と牽制した。特に、新型コロナウイルス感染症の影響で受診控えが起きるなかで、「さらなる受診控えを生じさせかねない政策をとり、高齢者に追い打ちをかけるべきではない」と強調した。政府は、年末までに窓口負担を2割に引き上げる所得の線引きについて、結論を得る方針。
後期高齢者の窓口負担は、現役並み所得者(年収約383万円以上)では3割負担で、それ以外は1割とされている。全世代型社会保障検討会議は昨年末に、一定所得以上の患者では窓口負担を2割に引き上げることを決めた。菅首相も所信表明演説で、「これまでの方針に基づいて高齢者医療制度の見直しを行う」と明言しており、焦点は、窓口負担2割引き上げの対象範囲となっている。
◎年収に対する患者一部負担割合「すでに十分高い」
高齢化が進み、社会保障費が膨らむなかで、財務省は、患者負担の応能負担を「可能な限り広範囲」に設定することを求めている。これに対して、中川会長はこの日の会見で懸念をあらわにした。後期高齢者は1人当たり医療費が高く、年収に対する患者一部負担の割合は「すでに十分高い」との見解を示した。日本医師会が行った患者の窓口負担が収入に占める比率の粗い試算では、「75~79歳」で3.7%、「80~84歳」で4.4%、「85歳以上」で5.7%と年齢とともに上昇している。こうしたデータを示したうえで、「高齢者の受診回数は格段に多い。負担が増えると、若年世代と比べ物にならないほどの受診控えに追い打ちをかける」と説明。「たとえ受診したとしても、患者負担が重荷となり、必要な医療を遠慮される懸念がある」と牽制した。
窓口負担引上げにより、過剰な医療が抑制できるとの声もあるが、入院外受診回数のなかには在宅医療も含まれているとして、「後期高齢者が過剰な受診をしているとは言えない」と強調した。
◎公明党・石田副代表の「少なくとも半分以上が1割に」に中川会長も「方向性は同じ」
焦点になっている窓口負担引き上げの対象範囲について中川会長は明言を避けたが、現状で、現役並み所得の高齢者は7%。現在1割負担となっているなかでも、「一般(年収156~383万円、53%)」、「低所得者Ⅱ(年収約80~156万円)、23%」で、世代内格差があると指摘。「これを是正するとしても、限定的にとどめ、かつ同時に低所得者の負担に配慮する必要がある」とした。
公明党の石田祝稔副代表が10月23日の党会合で、窓口負担2割への引上げに触れ、「少なくとも半分以上が1割にならなければならない」と述べたことに触れ、「日本医師会の考え方も方向性は同じだ」とも述べた。さらに、「後期高齢者の自己負担割合を例えば全員に2割に引き上げなければ、公的医療保険がもたないという議論は拙速だ。色々な工夫、財政バランス、社会保障の財源の在り方などの議論のなかで考えていくべきだ。財政当局は何十年も、負担を上げて給付を狭めるという一貫した方策だが、日本医師会としては、公的医療保険制度は色々な工夫で維持できると思っている」との考えも表明。日医として、改革案を提言する姿勢も鮮明にした。
なお、患者の窓口負担割合については、「高齢者の医療の確保に関する法律」に明記されており、法改正も必要になる。このため、中川会長は、「国民の納得と合意は絶対に必要だ」と強調。社会保障審議会などの関連審議会で丁寧な議論を行うよう求めた。
◎オンライン診療 解決困難な要因でアクセス制限された場合に「補完」
この日の会見では、菅内閣が恒久化を掲げるオンライン診療について日医の考え方を改めて説明した。基本的スタンスとして、「ICT、デジタル技術など技術革新の成果をもって、医療の安全性、有効性、生産性を高める方向を目指す」として、菅政権との方向性の一致を強調した。そのうえで、オンライン診療は、「解決困難な要因で医療機関へのアクセスが制限されている場合、オンライン診療で補完していくことを支援する」とした。
◎オンライン診療の対象患者 「受診歴やかかりつけ医から情報提供のない新患」は不可
具体的には、かかりつけ医が定期的な医学管理を行っている患者に対して、オンライン診療を組み合わせることを原則との考えを示した。対象患者については、「受診歴がなく、かつかかりつけ医からの情報提供もない新患は不可」とした。ただし、現行でも禁煙外来では対面診療が困難で研修を積んだ医師がオンライン診療を実施しており、「明確な判断基準の策定・合意の下で可とするケースもありうる」と注釈もつけた。
一方で、受診歴のある、“広い意味でのかかりつけの患者”に対しては、「対面診療と同等以上の安全性・信頼性が確認される場合に、医師の判断により、一時的にオンライン診療で補完する」との考えを示した。コロナ禍で初診を含めたオンライン診療が時限的・特例的に解禁されているが、対応終了後に「対面診療における安全性・信頼性との比較検証が必要」とした。
自由診療については、オンライン診療指針などの規定で厳格に運用することを求めた。オンライン服薬指導との一気通貫モデルの構築も議論にあがるが、「オンライン服薬指導を組み合わせるかどうかは個別に判断する」とするにとどめた。
また、「かかりつけ医の不安を取り除き、支援する環境整備」の必要性にも言及。医療訴訟や、医師のプライバシー流出、オンライン診療システム利活用などへの不安を取り除く必要性も指摘した。