財務省の財政制度等審議会(榊原定征会長)は11月25日午前、「令和2年度予算の編成等に関する建議」を取りまとめ、麻生太郎財務相に手渡した。2020年度診療報酬改定については、「2年間で▲2%半ば以上のマイナス改定とする必要がある」と指摘した。診療報酬本体についても、「賃金や物価の水準と比べて高い水準となっており、同様の観点からマイナス改定により是正していくべき」とした。日本医師会など医療関係団体が診療報酬のプラス改定を要望するなかで、年末に向けた予算編成の議論が熱を帯びることになりそうだ。
◎病院と診療の間で改定率に差を「配分の大枠示すべき」
建議では、診療報酬の考え方として、過去10年間で国民医療費が平均2.4%/年のペースで増加したと説明した。このうち高齢化等の要因による増加は平均1.1%/年で、残り半分は「人口増減や高齢化の影響とは関係のない要素」として、高齢化等の要因による増加の範囲に収めるために、「国民医療費の抑制を図るためには、診療報酬のマイナス改定は不可欠」とした。診療報酬▲1%当たり約4600億円の医療費の抑制でき、国民負担が軽減できるとした。診療報酬の配分についても言及。「医科・歯科・調剤」の各科の改定率だけでなく、「病院と診療所との間で改定率に差を設けるなど配分に当たって大枠を示すべき」とした。
◎調剤報酬「全体の水準を下げ、在り方の見直しを」
特に、調剤報酬改定については、「調剤報酬の増加により、増加し続ける薬剤師1人当たりの技術料が確保されている構図にある」と指摘。技術料に占める調剤基本料、調剤料及び薬学管理料の割合も過去10年間でほとんど変化がないとして、「対物業務から対人業務への構造転換を後押しする」ことを求めた。そのうえで、「全体として水準を下げつつ、調剤報酬全体の在り方について見直しが必要」と指摘。調剤料については、「剤数や日数に比例した算定方法を適正化し、大胆に縮減すべき」とした。
◎給付と負担の乖離の拡大を押しとどめ「バランスを回復させることが不可欠」
建議では、消費税10%への引上げを「財政と社会保障制度の持続可能性の確保に向けた長い道のりの一里塚」と位置付けた。そのうえで、財政健全化に向けた歳出・歳入の改革を求めた。少子高齢化と現役世代の減少が最大の課題となるなかで、「負担の在り方の見直しと給付の伸びの抑制に真正面から取り組むことが不可欠」と言及した。給付と負担の乖離の拡大を押しとどめ、そのバランスを回復させることが不可欠と指摘した。そのうえで、団塊世代が後期高齢者となっていく2022年度以降を見据え、速やかな改革実行を求めた。
社会保障分野では、①給付・サービス範囲の見直し、②給付・サービスの効率的な提供、③時代に即した公平な給付と負担―の方向性を示した。
医薬品関連では、薬剤費の自己負担引き上げを盛り込んだ。OTC医薬品と同一の有効成分を含む医療用医薬品について、「保険給付の在り方の見直し、薬剤の種類に応じた自己負担割合の設定、薬剤費の一定額までの全額自己負担」などの手法を列挙し、検討を求めた。具体的には、薬剤に応じた自己負担割合の設定を行うフランスを例示。抗がん剤など代替薬のない高額医薬品は自己負担がない一方で、軽度医療などでは自己負担割合を引き上げているとした。一方、スウェーデンでは年間の薬剤費で全額自己負担の枠を決め、それを超えた場合に公費が投入される仕組みという。
財政審は、革新的新薬が医療保険財政に及ぼす影響を懸念。最重症の花粉症患者を対象とした適応拡大を取得した、ゾレアを引き合いに「単価が高額で患者数が非常に多い医薬品」が登場すると指摘した。そのうえで、これらの保険給付範囲の見直しについては、「新たな類型の創設も含めた保険外併用療養費制度」の活用を求めた。具体的には、OTCが発売されている医薬品を医療機関で処方する場合に、技術料は保険適用のままで医薬品だけ全額自己負担とする枠組みの導入などを提案した。このほか、外来受診時の定額負担や、新たに75歳を迎える後期高齢者の窓口負担2割維持などを盛り込んだ。
◎榊原会長「着実な財政健全化を」
会見に臨んだ榊原会長は、令和最初の予算編成であることに触れ、財政規律を緩めることない改革を求めたことを説明した。そのうえで、「令和の時代に着実に財政健全化を進めていくためにも人口減少を踏まえ、潜在成長率の引上げ、社会保障制度の持続可能性に資するためのものかどうか、質の高い予算にするとともに着実に財政健全化を続けてほしいとお願いした」と述べた。
【資料】令和2年度予算の編成等に関する建議(概要・一部抜粋)
(総論)
・令和の時代に着実に財政健全化を進めていくためにも、令和2年度予算編成では厳しい財政規律を土台とした質の高い予算作りが必要。
・低金利の恩恵を享受できるのは日本の財政への信認が大前提であり、低金利環境に安住せず歳出改革を進めるべき。プライマリーバランスの黒字化は財政健全化目標として堅持すべき。
・消費税率の10%への引上げは、財政と社会保障制度の持続可能性の確保に向けた長い道のりの一里塚。引き続き、財政健全化に向けて歳出と歳入の両面の改革が求められることについて国民の理解を得ることが重要。国民的な議論を喚起する上で、長期推計についてのシンクタンクの取り組みを今後も期待。
・令和2年度予算編成では、新経済・財政計画における歳出改革の「目安」に沿って予算編成を行い、着実に財政健全化を進め、2025年度のプライマリーバランス黒字化という目標の達成につなげるべき。
1. 社会保障
・財政と社会保障両方の持続可能性を確保するため、給付と負担の乖離の拡大を押しとどめ、そのバランスを回復させていくことが不可欠。団塊の世代が後期高齢者となっていく2022年度以降を見据え、これまでも幾度となく議論されてきた改革を、速やかに実行していくべき。
(改革の方向① 給付・サービス範囲の見直し)
・受診時定額負担の導入や、薬剤自己負担の引上げなど、小さなリスクへの保険給付の在り方を見直すべき。
・介護のケアマネジメントの利用者負担の導入等、利用者が自立した日常生活を営むために真に必要な保険給付範囲とするべき。
(改革の方向② 給付・サービスの効率的な提供)
・診療報酬本体は、賃金や物価の水準と比べ高い水準となっており、マイナス改定により是正していくべき。改定率を決定する際、病院と診療所との間で改定率に差を設けるなど配分の大枠を示すべき。
・地域医療構想の実現に向け、厚生労働省は公立・公的医療機関等に対する具体的な対応方針の再検証を要請したが、KPIを設けて中間的な達成状況を評価しつつ、都道府県知事の権限の在り方を含むより実効性が担保される方策を検討するべき。
・都道府県内の国保の保険料水準の統一や、保険者における適正化のインセンティブ強化により、医療・介護の提供体制を改革すべき。
(改革の方向③ 時代に即した公平な給付と負担)
・世代間の公平性を確保するため、新たに75歳を迎える後期高齢者の窓口負担について2割を維持するべき。
・年金については、働き方の多様化や就労期の長期化に対応するため、被用者保険の更なる適用拡大や、繰り下げ受給の利用促進・柔軟化を進めるべき。
※以下、地方財政、文教・科学技術、社会資本整備、農林水産、エネルギー・環境、中小企業、外交関係、情報システム、防衛については「略」