財政審建議 製薬産業に注文「費用構造の見直しと業界再編求む」 薬剤費抑制は手綱緩めず
公開日時 2019/06/20 03:52
財務省の財政制度等審議会(会長・榊原定征東レ特別顧問)は6月19日、「令和時代の財政のあり方に関する建議」を麻生財務相に手渡した。建議は、2040年に向けた人口構造の変化などから公費負担も一層増加するとし、「社会保障改革の手綱を緩めてはならない」と強調。社会保障の伸びの抑制や負担の見直しに引き続き取り組む姿勢を鮮明にした。一方、製薬産業への注文として、「創薬コストの低減、費用構造の見直しや業界再編に取り組むべき」との一文を刻んだ。財政当局として18年度薬価制度抜本改革を着実に実現する方針を明示すると同時に、製薬業界に対しては、今後の社会構造の変化に見合う産業構造への転換を促した。
今回の建議では、伸び続ける社会保障費を抑制する目的で、各種制度や負担の見直しに取り組む姿勢を鮮明にした。なかでも医療技術の高度化で医療費増加の要因の一つと指摘される薬価については、「毎年薬価調査・毎年薬価改定の実施など薬価抜本改革の残された課題をスケジュールに沿って着実に進める」と明記した。
◎費用構造で製薬産業を再び狙い撃ち
さらに製薬産業に対し、費用構造の見直しや業界再編に取り組むよう促した。製薬企業の費用構造をめぐっては、前回2018年度薬価改定を議論した財政審財政制度分科会でも「MRの生産性の低さ」が指摘された経緯がある。MR業務における‟待ち時間“が全産業平均に比べて倍近くあるとのデータを示し、薬価の大幅引き下げを主張した。当時は、長期収載品の薬価が高止まる原因の一つに製薬企業のMR活動があると財務省が指摘し、結果的に18年度薬価制度抜本改革において長期収載品の薬価を引き下げる新たなルールが導入されている。
今回の建議取りまとめの過程においては、今年4月23日の財政審財政制度分科会で財務省主計局が医薬品産業の営業コスト構造に関する資料を提出し、「他業種に比べて営業費用など販管費の比率が高い」と指摘している。この時は、日本政策投資銀行の産業別データハンドブックを引用し、2016年度の全産業の販売費・一般管理費の構成比18.4%に対し、製薬産業(大手8社)は50.8%に及ぶと説明。研究開発費の31.4%に対し、宣伝費・営業費用等は64.6%と「研究開発費以外の販管費の比率が高い」ことを印象づけた。前回18年度改定の時と同じ手法がまた使われたわけで、再び製薬産業が狙い撃ちされた格好だ。
◎薬剤師は対物業務から対人業務へ 業務範囲の明確化を
このほか薬剤費関連では、調剤報酬にも言及し、「薬局の多様なあり方や経営環境を踏まえた見直しを実施すべき」と明記した。具体的には、PTP包装の一般化、全自動錠剤分包機の普及など調剤業務の機械化などといった、今日の業務の実態や技術進歩、薬剤師以外の者が実施できる業務範囲の明確化などを踏まえ、「薬剤師の業務を対物業務から対人業務にシフトさせていくといった視点が必要」とした。
◎少額受診における追加負担「定額負担に差など誘導策も」
建議では、医療保険の給付範囲のあり方にも触れ、①薬剤自己負担の引き上げについては、医薬品の種類に応じた保険給付率を設定、②OTC医薬品と同一の有効成分を含む医療用医薬品の給付範囲のあり方の見直し-が盛り込まれた。さらに少額受診等における一定程度の追加負担の考え方も示し、「かかりつけ医・かかりつけ薬局等への誘導策として定額負担に差を設定することも、検討を進めるべき」とした。