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財政審建議 25年度薬価改定「実施」は既定路線 対象範囲0.625倍超でなく「全医薬品で実勢価改定を」

公開日時 2024/11/29 15:40
財務省の財政制度等審議会(十倉雅和会長・住友化学代表取締役会長)は11月29日、「令和7年度予算の編成等に関する建議」を取りまとめ、加藤勝信財務相に手渡した。予算編成の焦点となる25年度薬価改定については、「21年度以降、毎年改定が実施されており、本年度も実施される」と明記。「原則全ての医薬品を対象にして、市場実勢価格に合わせた改定を実施すべき」と主張した。今後は改定の対象範囲が焦点となる。24年度薬価制度改革で新薬創出等加算が見直される中で、「実質的な改定対象は長期収載品」に絞られると指摘。いわゆる中間年改定の21年度、23年度ともに、“平均乖離率の0.625倍超”が対象となったが、対象範囲を機械的に定めることについて建議では、「政策的合理性が乏しい」として、“全品目”を対象とすることを迫った。一方で、創薬力強化の重要性にも触れ、「メリハリのある改定とすべき」と強調している。(写真提供:財務省)

◎“完全実施”の表現あえて用いず 「全品目対象」、「既収載品の算定ルール全適用」

財政審では、診療報酬改定のない年の薬価改定について、これまで“完全実施”という表現を用いて改革を迫ってきた。しかし、今年の建議では完全実施は姿を消し、「原則全ての医薬品を対象にして、市場実勢価格に合わせた改定を実施すべき」、「既収載品の算定ルールについて、全て適用すべき」と明記した。

◎新薬創出等加算見直しで改定は「長期収載品等に限られる」 範囲設定は「政策的合理性乏しい」

表現を変更した背景には、24年度薬価制度改革で新薬創出等加算が見直され、特許期間中の薬価は維持されるようになったことがある。診療報酬改定のない21年度、23年度の薬価改定はともに、改定の対象範囲を、“平均乖離率の0.625倍超”とし、「平均乖離率に基づく機械的な計算で改定対象品目を限定」してきた格好だ。今回の建議では、「新薬創出等加算がある中では、実質的な改定対象は長期収載品等に限られることを踏まえれば、乖離率に基づき改定対象品目を限定することについては、国民負担軽減等の観点からも、長期収載品依存からの脱却等の観点からも、政策的合理性が乏しい」と指摘。「原則全ての医薬品を対象にして、市場実勢価格に合わせた改定を実施すべき」と迫った。

23年度、24年度薬価改定では2年連続で、企業から希望のあった全ての品目を対象に不採算品再算定が特例的に適用された。建議では、「仮に、一定の品目を除外するとしても、安定供給確保に資する医薬品や真に革新的な医薬品など、政策的対応の合理性があるものに限定すべき」としている。

◎「既収載品の算定ルール、全て適用すべき」 新創品の累積額控除、長期収載品の改定求める

適用ルールについては、「既収載品の算定ルールについて、全て適用すべき」と主張した。
「毎年薬価改定が行われる中で、このように2年に1度しか適用されないルールがあるのは合理的な説明が困難」と指摘。特に、「新薬創出等加算の累積額控除」や「長期収載品の薬価改定(G1・G2ルール)」をあげ、「失った医薬品の評価を適切に見直すルールであり、現役世代を含む国民負担軽減の観点や、収載のタイミングによる不公平の解消の観点から25年度改定では、既収載品の算定ルールについて、全て適用すべき」と主張した。

◎薬価改定が「革新的新薬生み出すインセンティブに」 創薬力強化へ「メリハリある改定を」

建議では、「我が国の創薬力の強化に目配せしながら、現役世代の保険料負担軽減を含めた、国民皆保険の持続可能性を確保することが重要であり、そうした観点からメリハリのある改定とすべき」と主張した。薬価制度改革では、新薬創出等加算の見直しなど、イノベーティブな医薬品への評価に重点化する報酬体系へ見直しが図られてきているとして、「こうした薬価制度上の対応は、製薬企業にとって、長期収載品依存から脱却し、革新的新薬を生み出すインセンティブにつながっていると考えられる」と指摘した。

薬価制度による医薬品への評価は「貴重な医療保険財源を原資として行われるもの」と指摘。「薬価制度上の評価のメリハリ付けを一層推進することで、革新的新薬を開発・製造する製薬企業の成長をより一層促すことにつなげていくことが必要。それとともに、製薬業界のあるべき将来像を視野に入れながら、革新性の低い新薬や長期収載品に依存する企業の再編を促していくべき」と主張した。

◎調整幅「価格や薬剤の種類によらず調整幅を一律に2%としていることの妥当性検討を」

調整幅についても年末に向けて議論を加速することを求めている。「価格や薬剤の種類によらず調整幅を一律に2%としていることの妥当性をはじめ、その在り方の見直しを検討すべき時期に来ている」と主張した。

◎創薬力強化へ 第3期健康・医療戦略スタートで「AMED調整費の柔軟な活用を」

建議では、「創薬力強化」の重要性についても言及した。イノベーションを重視した薬価改定が行われているものの、「我が国は創薬における国際的なプレゼンスが余り高くない」と指摘。新規モダリティへの対応の遅れや、創薬の担い手であるベンチャー企業の育成やエコシステムの構築が不十分であるとの指摘があるとした。

補助金などの予算措置を通じて、医療分野の研究開発の司令塔となる日本医療研究開発機構(AMED)を通じた創薬支援等が行われている。ただ、基礎研究から実用化までのフェーズで包括的、一貫的な支援がなされていることも指摘されている。このため、「創薬の事業化の各段階に対応した包括的なものとするとともに、財政規律の観点からも、民間企業にとっての予見可能性を高める観点からも、必要な財源を確保しながら、包括的な支援を継続的に実施していくべき」と指摘した。

25年4月から第3期健康・医療戦略がスタートするなかで、「AMED 調整費の柔軟な活用等により、各省補助等事業の間の連携を確保し切れ目ない支援を行うとともに、事業の検討段階から出口志向の研究開発マネジメントを行うことで、有望な創薬シーズの企業導出の加速を推進することが重要」とも指摘した。

◎後発品の産業構造改革へ 企業評価の完全実施など薬価改革や補助金活用など総合的対応を

供給不安が続くジェネリック業界の「産業構造改革」に向けて、薬価制度改革や補助金の活用などによる「総合的な対応」を実施する必要があると主張した。

ジェネリックビジネスをめぐり、少量多品目構造が指摘される中で、企業統合やコンソーシアム形成等により、品目統合を行い、効率的な生産体制を確保していく必要があると指摘した。「機運醸成やインセンティブ付けによる支援」だけでなく、薬価制度での対応の必要性も指摘した。「企業評価の完全実施や企業評価を活用した薬価改定を行う一方で、安定供給に貢献しない場合にはディスインセンティブ措置を設けるなど、業界再編において中心的な役割を担う企業を評価する」ことを提案した。

このほか、品目統合を促すための薬事規制の環境整備に加え、「法律に基づいて生産性向上に係る計画の認定を行い、当該計画に基づく施設整備への補助等を検討する」など、「総合的な対応」としていく必要があるとした。

バイオシミラーをめぐっては、10月からスタートした長期収載品の選定療養の対象から外れているが、「“バイオ先発品の一部選定療養化”も含めて、その推進に資する幅広い取組を強力に推進していくべき」と主張した。

◎費用対効果「薬剤範囲や価格調整対象範囲拡大の検討を」

費用対効果評価についても言及。「薬剤の範囲や価格調整対象範囲を拡大するとともに、他国における費用対効果評価制度や薬価制度の例も踏まえ、費用対効果評価の結果を保険償還の可否の判断に用いることも検討すべき」と主張した。建議では、“真に革新的な新薬”とそうでないものを区分して差別化した価格設定を行う重要性を強調。「我が国の医薬品市場の魅力を高め、製薬企業の国際競争力の強化にもつながるとともに、ひいては国民の革新的な医薬品へのアクセスを改善することにもつながると考えられる」とした。費用対効果評価を実施する体制の強化の必要性も指摘した。

◎OTC類似薬の自己負担「保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大あわせて検討すべき」

建議では、セルフケア・セルフメディケーションを推進する必要性を強調した。「国民の利便性向上」の観点から、スイッチOTC化を進め、「薬局で自ら購入できる医薬品の選択肢を増やすこと」を提案した。セルフメディケーションにあわせ、保険給付範囲の見直しも提言。「医薬品の有用性に応じた自己負担率の設定や、薬剤費の定額自己負担の導入、OTC類似薬に関する薬剤の自己負担の在り方を、保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大とあわせて検討すべき」と主張した。

◎社会保障費の歳出水準 25~27年度も高齢化の増加相当の伸びに抑制を

社会保障関係費の歳出水準についてはこれまで、「実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめることを目指す」方針で予算編成が行われてきた。骨太方針を引き合いに、「25~27年度までの3年間について、経済・物価動向等に配慮しつつ、こうした歳出改革努力を継続することとしている」とした。

特に、現役世代の負担する社会保険料に目を配る必要性を強調した。「社会保険料については、医療・介護の給付の伸びが雇用者報酬の伸びを上回っており、結果として保険料率は上昇してきている」と説明。今後も、医療・介護の保険料率は継続的に上昇することが見込まれていると指摘。賃上げの実現や若者・子育て世帯の可処分所得の増加などの観点からも、「マクロの観点から、医療・介護の保険料率の上昇を最大限抑制する必要がある」ことも指摘している。


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