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京都第二赤十字病院に見る医療ICTの取り組み  (1/2)

公開日時 2015/08/31 00:00
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マルチチャネル3.0研究所
主宰 佐藤 正晃

 

電子カルテシステムと地域医療連携ネットワークとを結び、診療情報を地域・エリア内の医療機関や医療職種間で共有する動きが活発化している。地域包括ケアの到来を睨んだこの取り組みは、急性期医療から在宅医療をシームレスに結ぶ環境整備に役立つと期待されている。こうした連携システムが各地で構築されようとするなか、製薬企業による医薬品情報の提供にも少なからず影響を及ぼすと見られる。本連載では、今後製薬企業に求められる情報提供のあり方や、MR活動の方向性について、京都第二赤十字病院医療情報室の田中聖人室長と、マルチチャネル3.0研究所の佐藤正晃氏が対談した。(取材・記事 沼田 佳之)

 

 

地域連携のデータシステムを作成

 

佐藤 国が提唱する「地域包括ケア」の推進に伴い、今後の医療提供体制は施設完結型から地域完結型への転換が急速に進むものと想像している。これに伴い、製薬企業側のアプローチも、これまでの「点」(施設)でなく、「面」(地域・エリア)で捉えるような取り組みが求められるだろう。そこで我々は地域医療連携ネットワークサービス(ID-Link)のように医療機関同士を診療情報でつなぐところに何ができるか考えてみた。製薬企業のMRが提供する情報や、MRの活動そのものにも変化が生じてくるのではないだろうか。

 

田中 確かに製薬企業は医療者が日常診療で使用する情報システムについて何も知らない。すでに多くの医療施設が自院の電子カルテシステムと地域医療連携ネットワークサービスとをつなぐ仕組みの導入に取り組んでいる。これにより施設同士や職種間で様々な情報を共有できるようになった。

 

いま大阪商工会議所と連携して、地域連携のデータシステムを作成している。例えば脳梗塞を発症した患者さんが急性期病院で治療を行う。その後、回復期のリハビリを終えると在宅でのケアが必要になる。こうした状況を想定し、訪問看護師が在宅患者をチェックできるような仕組みを作る。具体的には、訪問看護師が在宅患者を訪問した際に、タブレット端末に血圧などの検査値を入力し、それを持ち帰るだけで、グラフなどのデータが完成する。その情報を我々のような急性期病院やかかりつけ医と共有できるというものだ。

 

その架け橋は地域と病院をつなぐこと。ナレッジの差を埋めることが求められる。病院で行うのと同じような環境を在宅医療でもできるようにする。我々の地域連携のデータシステムは、病名をセットすると、そこに携わる医療者が在宅での観察ポイントを理解できるような仕組みだ。タイムテーブルに指示が出て、そのデータを主治医と共有する。仮に病態が悪化するようなことがあれば、データや処方薬を写真で撮ってJpegで送付してもらうような対応も可能だ。こうした地域単位での活動を可能にするシステムを現在構築している。

 

 

開業医のネット環境にバラつきが

 

佐藤 システム構築にあたっての課題とはどのようなものですか。

 

田中 開業医のネット環境にまだバラつきがある。一方で、開業医の先生方が抱く関心という点で言えば、診療所で紹介状を書いて送り出した患者より帰ってきた患者に対する意識は高い。もし地域ということであれば、逆でなければいけない。我々の検査データを基に治療が始まる。このデータを開業医だけでなく、訪問看護ステーションなどで見られるようにすることが大切だ。開業医を巻き込むなら、もう一弾の展開が必要となろう。

 

佐藤 京都第二赤十字病院としての取り組みについてお聞かせください。

 

田中 当院では医療情報システム端末に加えて、ほぼ全部署にインターネット専用端末を展開して利便性を図っている。これによって全ての医療者の相互依存度が高まってきた。端末についてはiPadなどのタブレット端末もあるが、まだデスクトップが主体だ。プリンターとの共有が可能なためだ。やはりデスクトップでの展開が主体となるのではないか。

 

当院は2016年1月に日本医療機能評価機構の病院機能評価を受ける予定だ。この時までに、診療室にある全ての医学書や学会ガイドラインなどの書物を机の上から排除したいと考えている。すでに日本循環器学会の診療ガイドラインはすべてネット上に置かれている。そうなると書籍も必要なくなるということだ。診療に使用する必要な情報は全てネット上から得る。これだけ社会インフラが整備されてきたというのであれば、こうした情報と電子カルテを直結することには大いに意味があると考える。

 

佐藤 何故、これまでこの機能ができなかったのでしょうか。いままでは、電子カルテを見ながらドキュメントを作成したりしていましたよね。

 

田中 かつては電子カルテも分断されており、効率が悪かった。現に、最近のように専門医制度が進むと、内科の専門医のサマリー登録も全部Web上で行うことになる。それぞれを分離するというのでは利便性が悪い。電子カルテとつなぐことに慎重意見もあるが、我々の過去9年間の経験を振り返っても、セキュリティー的な脅威はなかった。

 

 

MR活動は根本的に見直す時期

 

佐藤 こうした医療情報ソリューションが進化するなかで、製薬企業側のサポートに変化はありましたでしょうか。

 

田中 院内のシステムにおいて医薬品情報については固定型のデータベースにDI表示がある。このため院内の採用薬品については困らない。ジェネリック(GE)品についての環境も整っている。このような中で製薬企業の情報として必要なのは、やはり新製品だと思う。そこはMRを通じた情報提供ということになるのではないか。

 

ただ、ちょっと苦言になるが、MRの業務について誤解を恐れずにいうと、ちゃんと考え直す時期にあるのではないか。当院は4年前にMRは廊下に立つなというルールを導入した。しかし、院長が代わると元に戻ってしまった。そのほかにも新薬の情報提供に際し、本来は薬剤部に宣伝許可を取るべきなのに、それを飛び越えた活動をしている企業もある。それは良いことでない。これを続けている限りは意味がない。根本的に変える時期に差し掛かっているのではないだろうか。

 

佐藤 最近のMR活動は、リアルに医師を訪問して新薬の情報を伝える以外に、医師同士のコミュニティーをサポートする場合がある。Web講演会などでデジタル情報を活用して“Dr to Dr”を重視する傾向にあると思う。その辺はどうお感じなっていますか。

 

田中 最近の製薬企業から発信される情報はWebへの依存度が高まっている。臨床医もエムスリーなどの3rd Partyを活用しだしており、それを目にする機会も増えている。確かにデジタルコンテンツが増えているようだが、であるならば製薬企業同士でお金を出し合って構築する中立的なポータルサイトのようなものがあっても良いのでないか。その上で製薬企業個々がマルチチャネル・マーケティングを行うためのリンクを貼るというのも一考だ。Web講演会や新薬リストなどから飛んで行けるようなポータルを用意して欲しい。

 

一方、MR活動という点で言えば、薬剤情報に関する標準フォーマットを作成し、提供することが求められる。医療環境も先述したような地域包括ケアが台頭することを考えるならば、保険薬局に対する情報提供をもっと厚くすべきだろう。社会的に残薬問題が指摘されるが、もしヤル気があるなら、在宅に対応する保険薬局と製薬企業のコラボをやって欲しい。そこでナレッジを高めるような情報提供を行って欲しい。

 

これまでのMR活動は対象を医師に絞ってきたことに問題がある。医師は新薬について必要に応じ自分で勉強する。むしろナレッジを埋めるという点では、保険薬局で在宅医療を支える薬剤師と組むことが求められるのではないか。

 

佐藤 最近のMRも専門性を高めるための活動をしているので、そこで役立てることは可能かと思う。医療情報ソリューションが今後急速に浸透するなかで、製薬企業として取り組むべき課題は何でしょうか。

 

 

製薬企業は保険薬局とのタイアップ強化を

 

田中 例えば、医薬品の包装にバーコードを印字している。何らかのアプリでバーコードを読むと薬効が表示されるなどの工夫が欲しい。製薬企業はそこに薬剤情報を流すこともできる。また、もっと平易な表現で患者向けのデータベースを作ることも可能ではないか。

 

また、薬の「一包化」に絡めて言えば、錠剤分包器にバーコードを印字し、それを読めば患者が何を服用しているか分かるような仕組みも求められよう。ITというのはそう使われるべきだ。PTPのバーコードは患者自身が使える方法論が必須。日本は高齢化するので、製薬企業と保険薬局がタイアップして一包化の袋にバーコードを打つなどの工夫をすべきだ。

 

厚労省の言う地域包括ケアは医療職、介護職が足りなくなるから、皆で支えろという意味も込められている。いまの製薬企業の情報提供では、これに逆行するだろう。製薬企業は医療者・介護者が使える薬剤情報データベースを提供し、そこにつなぐ導線をつくることが役割になるのではないかと思う。

 

佐藤 田中先生のお話を聞いて、改めて地域に貢献するような取り組みがやはり必要だと感じた。病気を知らせることも企業にとってのミッションだと思う。患者を見つけることも大切。経済合理性にもつながるのではないだろうか。疾患啓発も大切な役割になるのではないだろうか。本日は長時間にわたりありがとうございました。

 


マルチチャネル3.0研究所とは:(MC3.0研究所)
「地域医療における製薬会社の役割の定義と活動スタイルを定義することを目的にして、製薬企業の新たなる事業モデルを構築し地域社会並びに患者や医師をはじめとする医療関係者へのタッチポイント増大に向けたMRを中心とするマルチチャネル活用の検討と実践を行う研究機関」である。設立2015年4月主宰 佐藤正晃

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