【World Topics】子どものスポーツとけが
公開日時 2014/10/09 03:50
「よちよち歩きのときからバスケットボールを投げていた」という武勇伝の持ち主タイラーは小学校3年生、今年8歳だ。今でもバスケットボールが大好きだが、ゲームに出ることができない。一般に”ACL Injury”として知られる右膝の前十字靭帯をいためて手術をし、ほぼ1年近くリハビリ生活を送っているからだ。手術した時には、タイラーの靭帯はすっかりすり減って、ほとんどなくなってしまっていたという。(医療ジャーナリスト 西村由美子)
米国ではタイラーのようなケースが急速に増えている。フィラデルフィア小児病院の研究者らの調べでは、この10年間で小学生の靭帯損傷ケースは4倍に増加している。膝に限らない、肘(”UCL Injury”)、股関節など、特定のスポーツに集中的に取り組んで特定部位を酷使することに起因するスポーツ傷害が子どもの間で増加しているという。
「最近の子どもには自由遊びの時間も機会もないことが問題」だと専門家は指摘する。現代っ子は、小さいときから、地域の遊び仲間と遊ぶかわりに、お金を払って通うスポーツ・チームにいれられる。しかも、かつての旧き良きアメリカの伝統:すなわち子どもたちは野球のシーズンには野球を、バスケットボールのシーズンにはバスケットボールを、フットボールのシーズンにはフットボールをというふうに、1年を分割していろいろなスポーツをやる者とされていた慣習が失われてしまい、最近では一年中同じ種目だけに取り組む子どもが増えた。才能があると、なおさら集中的に練習させる親が多い。結果がスポーツ傷害だ。
小さいうちは、スポーツは「楽しめる」程度に。そして時には休むこと。長い目で見れば、こうしたやり方がよい運動選手を育てる、と専門家は言うのだが、果たして教育熱心な親たちの耳に届くだろうか。