東大病院・門脇院長 SGLT2阻害薬 肥満傾向の患者や既存治療で効果不十分例に適す
公開日時 2014/02/03 03:51
東京大学医学部附属病院の門脇孝院長(写真)は1月31日、新規経口血糖降下薬であるSGLT2阻害薬についてのメディアセミナー(アステラス製薬主催)で講演し、同阻害薬が適する患者像として、肥満傾向の患者や既存治療での効果不十分例を挙げた。既存薬と異なる作用で血糖を下げるほか、脂肪減少作用による体重低下が見込まれることがその理由。SGLT2阻害薬は全6成分がほぼ同時期に開発され、今年中に相次ぎ発売となる見込みだが、門脇氏は販売する企業に対して、安全性の検証をないがしろにせず、適正使用に向けた取組みを重視するよう訴えた。
同セミナーを主催したアステラスは、SGLT2阻害薬としてファーストインクラスとなるスーグラ錠(一般名:イプラグリフロジン)の承認を1月に取得した。同剤はMSDと共同販促する。薬価収載は4月となることが見込まれている。
SGLT2阻害薬は、腎臓でのグルコース再吸収を抑制することで体内の余分な糖を尿と一緒に排出する経口薬。糖尿病治療薬の多くがインスリンにフォーカスした薬剤なのに対し、新しい切り口の薬剤となる。門脇氏は、SGLT2阻害薬が脂肪減少作用や糖排泄時の浸透圧利尿作用を有することから、血糖降下作用だけでなく体重や血圧への「好ましい影響」があると説明した。また、罹病期間が長い患者ではケトアシドーシスのリスクが高まる恐れがあるため、インスリン分泌が保たれている発症早期の患者が適しているとの見方も示した。
◎定期的な腹囲測定推奨 脱水など体液量減少の早期発見に
SGLT2阻害薬の副作用リスクとしては、口渇や脱水などの症状を伴う体液量減少や、尿路・性器感染症リスクを挙げた。特に、体液量減少の影響と考えられるヘマトクリットの上昇が認められる点についての懸念を示し、高齢者や脳血管障害既往者、痩せた患者には慎重な管理が必要と強調した。体液量減少による有害事象は、投与後1カ月以内に多く発生することから、投与時には定期的な腹囲測定を行い、腹囲が不変であるのにもかかわらず持続的な体重低下がみられる場合は、脱水傾向を疑って早めに対応することを推奨した。
また、尿路感染症や性器感染症については、国内治験でプラセボ群を上回るリスクの上昇は示されていないものの、海外のデータでは感染リスクが示されている。門脇氏は、診療現場では医師への申告をためらう患者も多くいることが考えられるとして「注意して診ていく必要がある」と見解を述べた。
◎6成分間の差は少ない
SGLT2阻害薬をめぐっては、国内で6成分が同時期に開発され、スーグラ錠の発売後1年以内に他の5成分も登場してくることが予想される。この状況に門脇氏は、「1、2社が発売する場合は、その企業が安全性の検証に責任を持つが、(SGLT2阻害薬では)多数の企業がかかわるためその意識が薄まるのではないかと懸念していた」と述べるとともに、日本糖尿病学会理事長として開発企業や規制当局への働きかけを行ってきた経緯を説明した。
スーグラ錠では65歳以上を対象にした全例調査(発売後3か月間に登録)が予定されているほか、1月24日に厚労省薬食審の部会を通過し、2番手の発売が見込まれるフォシーガ錠(一般名:ダパグリフロジン、共同販促=アストラゼネカ、小野薬品)でも同様の調査が行われる見通しとなっている。門脇氏は市販直後調査とは別に全例調査も行われる点について「発売を前に製薬企業側の安全性への意識が高まっている」と評価したが、適正使用の推進に向けた企業の取り組みを改めて求めた。
6成分の違いについては、「DPP-4阻害薬と比べても差は少ない」と述べたが、SGLT1の抑制作用に成分間で違いがあるため、その臨床的意義が明らかになれば使い分けの根拠になる可能性があるとの見方も示した。
◎「合併症を確実に予防できる診療レベル」の実現を
糖尿病の治療については、2000年以降に持効型インスリン製剤やDPP-4阻害薬など新薬の登場が続いた。SGLT2阻害薬が発売されれば治療選択肢がさらに広がることになる。その意義について門脇氏は、2型糖尿病診療での血糖管理レベルが改善傾向にあるものの、いまだに半数程度の患者が合併症を予防する管理目標値(HbA1c値7.0%未満)に達していない現状を挙げ、既存薬と異なる作用を有するSGLT2阻害薬が適正に使用されることで、糖尿病診療の水準が「合併症を確実に予防できるレベル」に到達することへ期待を寄せた。