今後の展開が注目される多発性骨髄腫治療薬市場
公開日時 2013/05/31 05:00
慢性骨髄性白血病(CML)については、チロシンキナーゼ阻害剤(TKIs)の登場はCMLによる死亡をほぼ100%近く減少させたが、多発性骨髄腫(MM)は、難治性で手ごわい腫瘍だ。しかし、2000年から2010年の間にMM治療薬としてVelcade(ボルテゾミブ)、Revlimid(レナリドミド)、Thalomid(サリドマイド)が承認され、患者に余命が3.5年から7年(中央値)に延長された。今後は、併用療法がMM患者の寿命を改善するものと思われる。
現在、メイヨクリニック医大によると、新規にMMと診断された患者の治療は、患者が幹細胞移植の候補になるかどうかで決まる。幹細胞移植が決定すると、初期治療は、RevlimidもしくはVelcadeと低用量デキサメタゾンの併用となる。これが不能な場合は、メルファラン、プレドニゾンおよびRevlimidもしくはVelcadeと低用量デキサメタゾンの併用となる。
だが、新たな併用療法が台頭を表して来つつある。低用量で単剤と比較して有効性を改善、副作用を減少させる3剤以上の併用療法が期待されている。
治験担当医師らは、この特殊な患者集団に最も有効な治療法を決定するために熱心に併用療法の試験を行っている。
最も積極的に最前線を走っているのは、Velcade、Revlimid、デキサメタゾンの3剤併用である。この新展開は、昨年、Onyx PharmaceuticalsのKyprolis(carfizomib)が承認されたことに伴い、熱心な医師らがハイリスク患者にKyprolisとRevlimid、デキサメタゾンの3剤(KRd)をフロントライン療法として関心を持ったことである。
また、治験担当医師らは、最も有用な維持療法や維持療法の理想的な期間などの選別を行っている。Revlimidやその後継品であるセルジーンのPomalyst(pomadlimid)は、2-3年の維持療法となる場合、皮下注あるいは静注のVelcadeや静注のKyprolisよりも明らかに優れている。しかし、これら2剤についても経口剤を開発中である。
KyprolisおよびPomalystは、昨年、迅速承認を受けた。治験担当医師らは、これら薬剤が既存治療よりもオプションを増やし、アウトカムも改善させると期待しているものの、すでに次世代の治療法に期待している。それは、現在主流となっているRevlimid、Pomalystのような免疫調整剤やVelcade、Kyprolisのようなプロテアソーム阻害剤とは異なった新規作用機序の薬剤だ。
IMSヘルスによると、2013年第1四半期では、Kyprolisは米国で21%のシェアを獲得、Velcadeはプロテアソーム阻害剤のなかでは79%のシェアを持っている。Velcadeは、米国では武田薬品子会社のミレニアム社が販売、2012年の売上は、8億8600万ドル。Kyprolisの売上は、米国では昨年7月発売以降、1億2800万ドルに達している。
一方、併用療法による疾患の改善や延命が図られるなど治療法の変化に伴い、行政や保険支払者に一定の困惑がみられる。行政サイドでは、現行の標準療法(SOC)に対する比較有効性試験を確立することは、SOCが変わることにより難しくなりそうだ。このことは、新たに追加される治療の承認を遅らせ、サードラインからのランクアップを遅らせ、結果的に患者に対するフロントラインになることを遅らせる。
いくつかの治療オプションが具体化し、維持療法を受ける患者人口が増加すると、支払者がより制限を設ける結果になる。メディケア患者の担当医師らは、少なくとも、(オバマ大統領の)ヘルスケア改革がフルに導入されるまでは、静注薬を使う傾向を一層強めるとみられる。その理由は、メディケアパートDの給付におけるカバレージギャップが経口剤の選択を阻喪させるものだからである。外来の静注薬は、パートBによってカバーされる。
調査会社Decision Resource社によると、新薬の登場やそれによる患者の生存の延長などで、世界的なMM治療薬市場は、2018年までに、2011年の52億ドルから約2倍の102億ドルに成長するとみられている。今後のMM市場の動向が注目されている。
開発中のMM治療用モノクローナル抗体一覧。一般名(開発コード)、開発企業、開発ステージ、摘要/作用機序の順。
*Elotuzumab、ブリストルマイヤーズスクイブ(BMS)/アッヴィ、フェーズ(P)III、骨髄腫細胞に高く発現する細胞表面タンパクCS-1に結合
*Bexxar (ヨウ素I 131 tositumomab)、グラクソスミスクライン(GSK)、PII、
CD20に対する放射性標識モノクローナル抗体
*BHQ880、ノバルティス、PII、新規診断によるハイリスク患者に対して試験中の坑DKK-1抗体
*BT062、Biotest、PII、坑CD138 モノクローナル抗体/細胞毒性剤
*Daratumumab、Genmab、PII,CD38を標的としたヒトモノクローナル抗体
*IPH2101、Innate Pharma/BMS、PII、NK細胞により骨髄腫細胞の殺活性を向上させる坑KIR剤
*Milatuzumab、Immunomedics、PII、CD74を標的とするよう指示されたヒト化モノクローナル抗体
*Siltuximab、ヤンセンバイオテク、PII、坑IL-6モノクローナル抗体
*Tabalumab、イーライリリー、PII、B細胞を活性化させるタンパクに対する抗体
(出典:Multiple Myeloma Research Foundation)
The Pink Sheet 5月13日号