ロシュ Humer会長が2014年で退任へ
公開日時 2013/03/19 04:00
スイス・ロシュグループのFranz B Humer会長は3月5日の同社年次株主総会で、2014年の会長選任については立候補しないことを発表した。これにより、同氏は会長を退任することが決まった。同社は、2013年秋までに後任者を決める予定。後任者は代表権のない会長職で、従来どおり、会長職と最高経営責任者(CEO)職とは兼任させない。
Humer会長は、総会の席上、「ロシュは素晴らしい形となり、将来の課題解決に良いポジションにある。今は、後継者に譲る絶好機だ。私は、あと12ヵ月、熱意と意欲を持って会長としての職務を果たしたい」と挨拶した。
同会長は、1946年オーストリア生まれ。インスブルック大学で法律を学び、薬業界でのスタートは、1973年のシェリングプラウ(現・米メルク)入社から。1981年から1985年まで英グラクソ・スミスクラインで勤務。南ヨーロッパ地区マネジャー、最高業務責任者(COO)などを歴任。1991年にロシュ入社。直ちに、取締役、医薬品事業部長に就任。1996年COO就任、1998年CEO就任。2001年には、CEO兼会長となった。2008年、Severin Schwan氏がCEOに就任、その後は、会長職のみ務めてきた。
同会長在任中、2002年には中外製薬の過半の株式を取得、グループ会社に収め、2009年には米バイオベンチャーのジェネンテック買収を行い、抗体医薬開発の基盤強化を図るなどし、中外、ジェネンテックなどの自主性を尊重、成果を上手く引き出し、今日の抗がん剤分野でのリーディング・メーカーの地位を構築した。さらに近年は、個別化医療(パーソナライズド・メディシン)の推進を図り、グループ会社ロシュ・ダイアグノスティクスと協力、同事業を軌道に乗せている。同社はR&D投資を重視、2011年のR&D投資額は、投資額トップのノバルティスの95億8300万ドル(対売上比16%)に次いで、2位の94億3700万ドル(対売上比20%)と高水準である。なお、3位は米ファイザーの91億1100万ドル(対売上比14%)。(数字は、ミクス医薬ランキング2012年版)。
後任者については、まだ、未定だが、ロイター通信は、ジェネンテクの前CEOおよび現会長で米アップル会長のArthur Levinson氏の可能性に言及している。同氏ならば、Humer氏のR&D戦略をよく理解しており、踏襲するのでないかと見ている。
米投資顧問会社Vontobelのアナリスト、Andrew Weiss氏は、「Art Levinson氏ならば、イノベーションがコアとして継続される機会がある」と話し、継続性が確保される可能性が高いとの見解を示している。個別化医療の推進に熱心なロシュが、最先端技術をキープし、あるいは他社から導入、あるいは基盤技術買収などを続けながら、邁進するには、Humer氏が自らいうように、「素晴らしい形」を作ったようだが、それを適切に維持することは並大抵ではないと思われる。今後、Schwan氏と新会長の舵取りが注目される。
一方、Humer氏とCEOのSchwan氏とのバイオシミラーについての見解の相違が表立ってくるとの見方も報じられている。
Humer会長はバイオシミラーの開発には否定的だといわれているが、Schwan氏はその可能性について提起したことがあると伝えられている。Humer会長が退任後、どうなるか注目されている。先月、ノバルティスのDaniel Vasella会長が退任した。同じスイスの多国籍製薬企業の大物経営者の相次ぐ退任発表となった。両経営者とも、スイス医薬品産業ばかりでなく、国際的医薬品産業の隆盛の時代を構築した立役者といえよう。いま、世界の医薬品産業が世界各国の医療費抑制策や各社主力品の特許切れなど様々な課題を抱える中で、その退任の発表に接し、1つの時代が終了したことを感じる。