ジャヌビア 10月に処方患者数ベースでアクトス抜く JMIRI調査
公開日時 2011/12/14 04:03
チアゾリジン系経口糖尿病治療薬のアクトス(一般名・ピオグリタゾン、武田薬品)のシェアが今年7月以降急減していることが医療情報総合研究所(JMIRI)の調べで分かった。アクトスについては、6月にフランスとドイツで服用患者での膀胱がん発生リスクが高まる可能性があるとの理由で、相次いで単剤および配合剤の新規処方を中止するという決定が下されたが、今回のシェア減少はこうした安全性に対する懸念が反映されていると見られている。
糖尿病薬治療薬上位5ブランドの服用患者数シェアの推移は→こちら
JMIRIが調剤薬局からの処方せん情報をもとに、処方患者数ベースで市場分析を行っている「JMIRIウェブ処方インサイトDYNAMICS」のデータによると、糖尿病治療薬の服用患者数ベースシェアは、11年5月時点まではスルホニル尿素(SU)薬のアマリール(一般名・グリメピリド、サノフィ)がトップで次いでアクトスという順位だった。両薬とも11年1月のDPP-4阻害薬ジャヌビア(一般名・シタグリプチン、MSD)の長期処方制限解除以降、シェアは漸減しつつあったが、アクトスに関しては6月の19.8%から7月には16.6%と3ポイント強減少。その後もシェアは減少を続け、10月には13.5%となり、ジャヌビアの14.2%に初めて追い抜かれた形となった。
◎メトグルコ 経口血糖降下薬市場でシェア2位に
加えて海外と同等の高用量使用が可能になったメトホルミン製剤のメトグルコ(一般名・メトホルミン塩酸塩、大日本住友製薬)の長期処方制限が解除になり、大日本住友がメルビン(一般名・メトホルミン塩酸塩)の販売中止とメトグルコへの切替を推進したことをきっかけに同薬のシェアが急伸し、11年10月時点ではジャヌビアをも上回る17.2%のシェアを獲得。この結果、現在の経口血糖降下薬シェア順位は、シェア24.8%のアマリールを筆頭に、メトグルコ、ジャヌビア、アクトスという順位に大きく変貌し、アクトスのプレゼンスは大きく低下している。
アクトスについては国内での特許失効に伴って11年6月に後発品が初上市されたが、JMIRIによると、10月時点でのアクトス後発品のシェアはわずか3%にとどまり、先発品のシェア減少は必ずしも後発品上市のみが原因ではないことが示唆された。
◎アクトス切替先薬剤 後発品はわずか4割 残りは他のクラスの薬剤に
実際、11年7月時点でのアクトスからの薬剤切替先内訳については、43%がアクトスの後発品とトップだったものの、続いてメトグルコ、ジャヌビア、グラクティブ、エクアの順で、ビグアナイト系製剤やDPP-4阻害薬など、明らかにクラスの異なる薬剤への切替が過半数超(Monthlyミクス11年11月号に掲載)。11年7~10月までの累計で見ても後発品への切替は約53%に過ぎなかった。
一方、JMIRIの同データから過去の経口血糖降下薬の動向を抽出したところ、SU薬アマリールでは、10年11月に後発品が登場。翌12月には継続患者の激減と切替患者の激増という現象が見られたが、この際の切替患者の処方内訳の実に83%がアマリール後発品への切替であり、現在のアクトスの切替状況とは明らかに異なっていた。
◎膀胱がんリスク情報の影響大の可能性
そもそも前述のフランスでの新規処方中止決定は、フランス保健製品衛生安全庁(Afssaps)の国内保健データベース(SNIIRAM)に登録された糖尿病患者(40~79歳)約150万人のうち、06~09年のデータを用いて行ったレトロスペクティブな疫学研究・CNAMTSの全体解析に基づくもの。同研究によると、アクトス投与患者約16万人では、非投与患者約133万人に比べて、ハザード比1.22で膀胱がんの発症率が有意に高い結果が得られた(95%CI:1.05 - 1.43)。
ドイツがフランスと同様の処置をとった直後、欧州医薬品庁(EMA)はこの問題について検討を開始。最終的にEMAのヒト医薬品委員会(CHMP)は7月21日、アクトスの膀胱がん発症の可能性に関するリスク・ベネフィットの評価について、同剤のベネフィットはリスクを上回ると結論付け、膀胱がん既往もしくは現在膀胱がん患者あるいは、未検査の肉眼的血尿のある患者には禁忌とし、こうした適切な患者選択や慎重投与により同薬使用続行を推奨すると発表した。
FDAや厚生労働省も服用患者で膀胱がんリスクが増加する可能性がある旨の使用上の注意の追加を行ったのみで、全体としてはそれほど否定的ではない結論となっている。
しかし、JMIRIではアマリールとの比較などをもとに「糖尿病治療、とりわけ高齢者では、既存薬で安定している場合は後発品への切替はあっても、基本的に薬剤のクラスそのものを変えることは少ない」とみており、今回のアクトスのシェア急減がこの膀胱がんリスク情報の影響を受けている可能性が高いとの分析を示している。