ファイザー 事業再編を加速 動物薬と栄養事業の売却を計画
公開日時 2011/07/15 04:00
医療用医薬品売上高世界ナンバー1の高脂血症治療薬・リピトールの特許切れを間近に控えたファイザーが事業再編を加速化させている。
同社は7日、動物薬事業部門と栄養事業部門の売却計画を明らかにした。同社はイアン・リード最高経営責任者(CEO)が2月に非創薬事業部門の見直しを発表。4月には、カプスゲル事業の売却を公にしている。これら3事業の2010年総売上高は61億9400万ドルで、同社の総売上高に占める割合は9.1%。また、同社はこの他にも研究開発部門を含む、大幅なリストラを行っており、「事業の最適化により株主利益の最大化を図る」とその理由を説明しているものの、市場からはその効果を疑問視する声を上がっている。
そもそもファイザーがこうした大規模なリストラに向かう転帰となったのは、10年12月に同社を06年から率いてきたジェフリー・B・キンドラーCEO兼会長の退任と当時のバイオ医療用医薬品事業部門長イアン・C・リード氏を社長兼CEOに選出したことに始まる。
経営のプロとしてファイザーに迎えたれたキンドラー氏だったが、在任期間中にワイスとの合併という難事業を実現しながらも退任までにファイザーの株価は20%以上も下落した。キンドラー氏の退任自体が日曜日に日曜日に突如取締役会を開き、夜が更けてから公表という不自然さなどから、この退任は事実上の「解任」だったとの見方もあるほどだ。
医薬品ビジネス生え抜きのリードCEOの着任以後、ファイザーはまず研究開発費について大ナタを振るった。2012年の当初計画値だった研究開発費80~85億ドルを65~70億ドルに削減。これに伴い、同社が有するヨーロッパ最大規模のR&Dセンターであるイギリス南部のサンドウィッチ研究開発センターの2年以内の閉鎖を決定した。
同センターは、勃起不全(ED)治療薬・バイアグラ(一般名・シルフィナデル)や高血圧治療薬・ノルバスク(一般名・アムロジピン)、緑内障治療薬のプロスタグランジンF2α誘導体・キサラタン(一般名・ラタノプロスト)、抗真菌薬・ジフルカン(一般名・フルコナゾール)を生み出したファイザーにとってのドル箱。
この決定は関係各方面に大きな衝撃を持って受け止められ、イギリスのデービット・キャメロン首相までもが「極めて悪いニュース」とコメントするほど。また地元のケント州議会なども計画延期を訴えた。
同センターでは従業員が約2400人いたが、最終的にファイザーは計画通り閉鎖を実施し、2000人超の人員を削減する方針を示している。
また、こうした研究開発のリストラに伴い、同社はリリカ (一般名・プレガバリン) の全般性不安障害と術後疼痛への適応拡大や急性冠症候群(ACS)を対象にしたアピキサバン、肺動脈高血圧を対象にしたテリン(一般名・シタキセンタン)などといった申請中や第3相試験中のものも含む、15の開発プロジェクト中止を決定した。
こうした研究開発の再編は当然ながら人員削減という形も伴う。ワイス買収時、両社合計の約13万人の全世界従業員の15%にあたる2万人弱を削減する方針を明らかにしていた同社だが、2010年10月3日付でアメリカ証券取引委員会に提出した四半期業績報告書の「COSTS AND EXPENSES」の項目で人員削減について言及し「我々は当初の15%の人員削減目標を超えると予測している」と記述。同報告書に明記された第3四半期末での全従業員数は11万1500人。買収が明らかになった09年1月時点での両社の従業員合算は約13万人であり、既にその時点から換算すると人員削減割合は14%弱。2010年末時点では11万600人まで圧縮しており、今回の事業再編やサンドウィッチ研究開発センターの閉鎖も含めれば、限りなく10万人体制へと近づきつつある。ウォールストリート・ジャーナルなどによると同社はさらに人員削減なども含め、2011年中に年間5億ドル、2012年には年間10億ドルの経費削減を目指していると伝えられる。
これに対して04~07年にファイザーの研究部門長だったJohn LaMattina氏は、「リード氏の研究開発費削減計画では2012年の売上高に占める研究開発費は10~11%となり、世界トップの製薬企業としては極めて低い数字。歴史的に見れば、世界トップランクでは15~20%は必要」と指摘。「短期的には株主利益を生み出すかもしれないが、4、5年後、あるいは10年後にファイザーが最良のポジションにいるとは確信できない」と批判的な見方をしている。
また、Sector & Sovereign Research のアナリストであるRichard Evans氏とScott Hinds氏は、事業再編を行ったとしても現在のファイザーが直面する業界内でのプレゼンス低下への決定打にはならないとの評価を下している。