多発性骨髄腫(MM)の治療薬市場が近年、新薬の登場で治療成績が向上していることを受け、急速に拡大している。
従来、MMはステロイド剤のプレドニゾロンと一部のアルキル系抗がん剤との併用療法か、自己末梢血幹細胞移植ぐらいしか治療法がない状態で、寛解に持ち込んでも再発などで予後が悪く、90年代前半までの全生存期間(OS)は2.5年程度。しかも、このOSは70年代から四半世紀にわたって改善傾向は認められなかったという絶望的な状況だった。
しかし、薬害問題となったサリドマイドに血管新生効果があることなどが新たに発見されると、状況は一変する。米国ではセレジーン社が99年にMMを適応としたサリドマイドの承認を取得すると、OSは改善傾向を見せた。その後も、サリドマイド誘導体のレブリミッド(一般名:レナリドミド、セレジーン)、プロテアソーム阻害薬ベルケイド(一般名:ボルテゾミブ、ミレニアム・武田薬品)が発売され、現在ではMMのOSは4年程度と大幅な延長が得られている。
これとともに、治療薬の売上も急増。レブリミッドは07年当時で7億7300万ドルだった売上高が08年13億ドル、09年17億ドルと年ごとに伸率2桁台を記録し、10年についてもセレジーン社では前年比25%増を見込んでいるほどだ。
MMの市場規模について正確なデータはないものの、現在MMを適応とするプロテアソーム阻害剤carfilzomibを開発中のOnyx Pharmaceuticals社CEOのアンソニー・コーレ氏は1月に開催されたJPモルガンのヘルスケア会議で「ベルケイド上市前のMM治療薬市場は年間5億ドル程度だった」と指摘。これが同社の推計値によると、10年は初発患者で40億ドルにも上り、さらに再発患者で10億ドル、合計約50億ドルと8年で10倍に市場規模が拡大している。
◎寛解後の維持療法も市場拡大のカギに
これに加えて近年、寛解後の維持療法も今後の市場拡大のカギとなっている。従来、MMの維持療法はステロイドとインターフェロンは有効との報告はあったものの、両薬剤とも副作用を勘案することが必要なため、長期投与が難しく、臨床医の間でも維持療法には否定的な意見が多かった。
しかし、近年行われたメルファラン+プレドニゾロン(MP療法)、メルファラン+プレドニゾロン+レブリミッド(MPR療法)、MPR療法+レブリミッド維持療法を比較したMM-015試験では、維持療法群で有意な無増悪生存期間の延長効果が確認されており、米国National Comprehensive Cancer Network(NCCN)は先ごろMM治療ガイドラインで、インターフェロンやプレドニゾロンと並んでレブリミッド単剤を維持療法として新たに推奨する改訂を行った。
一方、ベルケイドでも維持療法により完全寛解率が従来の2倍近くまで上昇するとのデータが発表されている。
こうしたことなどからコーレ氏は「MM市場はアンメット・メディカルニーズに対する意義と大きなチャンスを兼ね揃えた市場に成長する」と評している。
(The Pink Sheet 2月15日号より) FDAと米国製薬企業の情報満載 “The Pink Sheet”はこちらから