中外製薬は７月15日、全社的なデータ利活用基盤を構築し、社外の研究者と100件の共同研究プロジェクトの運用可能な研究開発環境を2020年末までに整備すると発表した。基盤技術には「アマゾンウェブ サービス ジャパン」（AWS）を採用した。デジタルの利活用に際し、セキュアな環境を整備することで、アカデミアや医療機関、ベンチャーなどとのオープンイノベーションを加速させ、新たなエコシステムの場としたい考えだ。これにより、革新的新薬の創出に加え、開発の迅速化やコストの低減などの効率化も視野に入れる。さらに、研究開発だけでなく、生産や営業・マーケティングまで一連のバリューチェーンの効率化も視野に入れ、デジタルトランスフォーメーション（ＤＸ）を加速させる。

「デジタル技術によって中外製薬のビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターになる」－。中外製薬が今年３月に公表した「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」ではこうした同社の姿が描かれている。この日、ウエブ会見に臨んだ志済聡子デジタル・ＩＴ統轄部門長は、「まず、私たち自身があらゆる分野でデジタルを活用し、革新的医薬品の創出すること。その投資を最大化するためにも、多くのバリューチェーン、研究、開発、生産、コマーシャルに至るまであらゆるバリューチェーンを大幅に効率化していく」と述べた。

◎ゲノム情報やデジタルバイオマーカーなどRWDを利活用

この日発表したデータ利活用基盤「CSI（Chugai Scientific Infrastructure）」は、デジタルトランスフォーメーションの基盤となる。同社が強みを有する、オンコロジー領域では、ゲノム情報やデジタルバイオマーカーなどのRWDの利活用による個別化医療の重要性が増す。個人情報保護も課題となるなかで、データの利活用に際して、セキュリティも重要な課題になる。こうしたなかで重要になるのが、デジタル基盤の強化だ。

CSIの構築により、大容量のデータを安全に利用、移動、保管することができる。例えば、アカデミアや医療機関などから、ゲノム情報などであってもセキュアな環境で受け渡しが可能になる。21年末までには、アカデミアや病院との共同研究プロジェクトの基盤として、プロジェクトを迅速に進められる研究環境の提供を目指す。

◎ベンチャーとの協業「スピード、コミュニケーション、ROIの面から有利」

さらに、パートナーシップを組むことを想定するベンチャー企業や、大手グループ会社との協業も視野に入れる。志済氏はAWSを採用したメリットの一つとして、「ＡＩや機械学習などの最先端の研究を行っているベンチャー企業や大手グループ会社はAWSを開発プラットフォームとしていることが多く、協業に当たり、スピード、コミュニケーション、コスト（ROI）の面から有利」としている。例えば、アカデミアの共同研究先や社外ＩＴベンダーなどと共有可能なＩＴ環境を払い出し、アプリ開発を行うことも視野に入れる。

開発期間の短縮やコスト削減も視野に入る。実際、同社は共同研究に必要なＩＴ」リソースの調達期間を６か月から２週間に短縮、導入コストを従来と比べ90％削減したという。

◎人財も重視「社員自らがチャレンジを」　

志済氏は、「ＩＴ企業は、ヘルスケアのエリアは新しいエコシステムができていく場だと考えている」との見解を表明。今後のパートナーシップについて、「顧客接点というなかでオンライン診療のプラットフォームなど、顧客接点、患者や医療従事者へのサービスが拡大していく」との見方を表明。「これまで製薬企業や医療のヘルスケアのメーンプレーヤーではなかった企業やアカデミア」が存在感を増す可能性も指摘した。そのうえで、「プラットフォームの根幹となるのが色々なデジタル技術。そういった先を見据えた絵姿にむけてどんなエコシステムが起こり、そこに中外としてどういうスタンスがかかわっていくかについては注視していきたい」と述べた。

変化も大きいなかで、人財育成も重要な視点になる。「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」でも、2021年までのフェーズ１に「ヒト・文化を変える」を掲げる。志済氏は、社員の自由なアイデアを後押しする“デジタルイノベーションラボ”などの取り組みを進めていることも紹介。「イノベーションラボもそうだが、社員も外の人とのかかわりなども幅広く見ていくということが必要だと考えている」との見解を表明。「社員自らがチャレンジする、そういう文化を構築していきたい」と意欲をみせた。