厚労省WG 高齢者の医薬品適正使用の指針を了承 安全性からも減薬の流れ強まる
公開日時 2018/02/22 03:52
厚労省の高齢者医薬品適正使用ガイドライン作成ワーキンググループ(秋下雅弘主査)は2月21日、高齢者医薬品適正使用の指針(総論編)を大筋で了承した。指針では、高齢者のふらつき・転倒や記憶障害などの原因に薬剤が存在する可能性を指摘し、医師や薬剤師に不適切な医薬品の中止や減量を考慮することを求めた。2018年度診療報酬改定では、保険薬局への評価として、医療機関と連携して6剤以上の内服薬を2種類以上減薬した場合に算定できる服用薬剤調整支援料を新設するなど、医療保険剤財政の観点からポリファーマシーにメスを入れた。指針の策定で、かかりつけ医とかかりつけ薬剤師を中心に多職種が連携し、安全性の観点から適正使用推進の流れがさらに加速する。
◎医師と薬剤師中心とした多職種連携求める 専門医も「他領域については非専門医」
複数の疾患を合併し、複数の医療機関、保険薬局を受診する高齢者では、結果としてポリファーマシーに至るケースがある。医療現場では、薬剤起因性で起きた有害事象に対して、薬剤で対処し続ける悪循環に陥ることも指摘されている。寝たきりなった患者の症状が薬剤の服用をやめることで改善するケースも少なくない。全国の保険薬局を対象とした調査で、同一の薬局での7種類以上処方されている75歳以上の患者は約1/4、5種類以上は4割を占めているとのデータもある。
指針では、患者の受診するすべての診療科・医療機関や老年症候群などの合併症、生活環境、他院やOTCを含めた使用薬剤などの情報を一元的に把握することの重要性を強調した。地域包括ケアシステム構築に向けて医療現場が動く中で、医師・歯科医師、薬剤師を中心に、看護師、栄養士など多職種で情報を共有し、医薬品適正使用の輪を医療機関から介護施設や在宅医療、外来まで広げる姿を視野に入れる。
「専門医も他領域については非専門医である」と指摘。これまで症状に応じて服用薬剤が増加する現状があったが、専門医にも、疾患治療の優先順位への配慮や薬物治療によるリスク・ベネフィットバランスの検討を求めた。特に、服薬アドヒアランスの低下原因については薬剤師や看護師、介護職員と連携し、生活状況や残薬、服薬状況を確認することを求めた。
指針は、医師・歯科医師だけでなく、薬剤師を“主たる利用者”としている。医薬品の安全性の要を司る薬剤師には、減薬などで医師に処方提案を行う際に指針を活用することも期待される。看護師には、服用状況や服用管理能力、薬物有害事象が疑われる症状、患者や家族の思いなどの情報を収集する役割を求めた。
減薬の方向性が強まることになるが、「ポリファーマシーを回避するような処方態度を心がけることが大切であり、ただの数合わせで処方薬を減らすことは求めるべきではない」とも指摘。服用回数の減少や配合剤の導入は服薬アドヒアランスの改善には有効だが、有害事象の回避を目的推する場合は、「各薬剤の適応を再考」することも求めている。
◎降圧薬や睡眠薬・抗不安薬などが転倒や記憶障害の原因にも
65歳以上の高齢者、特に服用薬剤の多い75歳以上の患者について、ふらつきや転倒、記憶障害など、薬剤との関係が疑わしい症状・所見があれば、処方をチェックし、中止・減量を考慮することを求めた。具体的な症状(カッコ内は、主な原因薬剤、指針より抜粋)は以下の通り。
▽ふらつき・転倒(中枢性降圧薬、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、てんかん治療薬、抗精神病薬など)
▽記憶障害(降圧薬、睡眠薬・抗不安薬、抗うつ薬(三環系)、てんかん治療薬など)
▽せん妄(パーキンソン病治療薬、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬(三環系)、抗ヒスタミン薬、降圧薬など)
▽抑うつ(中枢性降圧薬、β遮断薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬、抗甲状腺薬、副腎皮質ステロイド)
▽食欲低下(NSAID、アスピリン、緩下薬、抗不安薬、抗精神病薬、パーキンソン病治療薬、SSRI、コリンエステラーゼ阻害薬、ビスホスホネート、ビグアナイド)
▽便秘(睡眠薬・抗不安薬、抗うつ薬(三環系)、過活動膀胱治療薬、抗ヒスタミン薬、αグルコシダーゼ阻害薬、抗精神病薬、パーキンソン病治療薬)
▽排尿障害・尿失禁(抗うつ薬(三環系)、過活動膀胱治療薬、腸管鎮痙薬、抗ヒスタミン薬など)
薬剤の基本的な留意点も明記。ベンゾジアゼピン系薬剤は、依存を起こす可能性を指摘し海外のガイドラインでは投与期間を4週間以内としていることや、三環系抗うつ薬は高齢者のうつ病に対する慎重投与を求め、BPSDへの投与は控えることなどを明記した。また、逆流性食道炎(GERD)へのPPIの漫然投与についても注意喚起した。
今後は、WGで出席委員から出た文言修正を加えた後、3月9日に開かれる高齢者医薬品適正使用検討会に報告。パブリックコメントを経た後、4月以降に安全対策課課長名で、都道府県に通知を発出し、全国の医療機関、保険薬局に周知を図る見通し。2018年度には、疾患領域別もしくは療養機能環境別の指針の策定に取り組む。