厚生労働省保険局は12月15日の中医協総会に、医療機関からかかりつけ薬剤師に対して検査値や診療上の留意点について情報提供をした場合の医療機関側の評価を提案した。高齢化が進み、複数の疾患を合併し、医療機関も複数受診するケースも増加する中で、かかりつけ薬剤師が“ハブ”としての機能を担い、かかりつけ医とかかりつけ薬剤師が協働して適正使用を推進する絵を描いた。しかし、この日の中医協総会では、診療側の松本純一委員（日本医師会常任理事）が、「検査値を基にチェーン薬局などの営利企業が様々な商品を患者に売りつける心配がある」などと述べ、反対する姿勢を示した。

◎服薬指導や処方の質向上を描く

高齢化が進み、腎機能低下例が増加する中で、患者の状況に合致した医薬品の選択や用量選択の必要性が高まっている。実際、薬剤師が行う疑義紹介で処方が変更されたケースも腎機能検査値に応じた用量調節が多い。こうした現状を踏まえて厚労省は、医療機関からかかりつけ薬剤師に対する検査値や診療上の留意点などに関する情報を提供した場合の医療機関側の評価を提案した。かかりつけ医とかかりつけ薬剤師の連携の観点から、かかりつけ薬剤師がフィードバックを受け取る連携担当者や窓口の明確化を要件とすることも提示した。

厚労省保険局医療課の中山智紀薬剤管理官は、「薬物療法の質を向上させるために、かかりつけ医から患者を通じて薬局に必要な情報を提供する取り組みを進めるもの」と説明した。迫井正深医療課長も、「このような取り組みは、医療機関の規模やかかりつけ薬剤師の分布を含めて様々な地域差がある。本来あるべき服薬指導や処方の質を上げていく観点から、取り組みを進めていく必要があるのではないか」と述べた。


◎すでに25％の医療機関が検査データを提供


厚労省の調査によると、実際すでに25.1％の医療機関が外来時に保険薬局に患者情報を提供。保険薬局側も58.5％が情報を受け取ったことがあるという。

しかし、診療側の松本委員は、「医師がデータを持って薬剤師へ行きなさいと指示することは考えにくい」と指摘。さらに、かかりつけ薬剤師を評価する観点から、「かかりつけ薬剤師が本当に捕まえられるかどうかが問題だ。かかりつけ薬剤師の条件を整えた上で議論すべきであり、評価するのはもう一歩先の話だ」と述べた。

診療側の松本吉郎委員（日本医師会常任理事）も、「かかりつけ薬剤師がいても実際に患者がどこへ行くか分からない。副作用やデータなどについては、医師がしっかりと限られた時間の中で患者に説明を行う。薬剤師が万一気が付いた点についてフィードバックすることは通常業務内で行えばよい」と新たな点数上での評価に反対した。診療側の島弘志委員（日本病院会副会長）も「本来やるべきことをやっていればほとんどないことなので、それに対価を払うことは理屈に合わない気がする」と述べた。

一方、支払側の吉森俊和委員（全国健康保険協会理事）は、「薬物療法、服薬指導などでかかりつけ医とかかりつけ薬剤師が連携し対応することで、より実効性が上がるということは非常に重要だ」と指摘。さらに「患者の同意取得が最重要ポイント」と述べた。支払側の幸野庄司委員（健康保険組合連合会理事）は、「きちんと様式を定め、統一の様式で双方向のコミュニケーションが出来るような仕組みを作った上で、評価の対象とすることは特に否定すべきではない」と述べた。

◎診療側・安部委員「客観的なチェックができる仕組み」

これに対し、診療側の安部好弘委員（日本薬剤師会常務理事）は、「検査値の説明や治療方針は主治医が行うことだ」とした上で、「医薬分業で薬局が一元的・継続的に患者の服薬状況を把握すること、特に薬物療法の再チェック、二重チェックの中で、より客観的なチェックのできる仕組みだ」と検査データを薬剤師が知ることの必要性を強調した。日医の委員から健康食品についての指摘が出たことから、これにも触れ、生薬である甘草が肝機能に影響を及ぼすリスクがあることを引き合いに、「使ってはいけないと指導することにも検査値は使える」との考えも示した。