MSD・15年業績 売上3400億円、9.7%減 GE影響、眼科製品譲渡などで
公開日時 2016/03/25 03:51
MSDが3月24日に発表した2015年(1月~12月)業績では、売上3400億円、前年比9.7%減だった。同社売上トップ製品のDPP-4阻害薬ジャヌビアは売上を堅持し、気管支喘息・アレルギー性鼻炎治療薬シングレアなど主力品も堅調に売上を伸ばしたが、後発品の浸透に伴う長期収載品の売上急減や、眼科製品の譲渡といった減収影響などを吸収できなかった。16年も薬価改定によって厳しい業績が続く見通し。しかし、トニー・アルバレズ社長は同日開催した事業説明会で、新薬群の成長や、がん免疫療法薬の抗PD-1抗体ペムブロリズマブが国内申請に至ったことなどから、「強力な成長トレンドの入り口にたっている」と述べ、中長期的な成長に自信をみせた。
同社では個別製品の売上は開示していないが、同社売上に占める製品別売上シェア(薬価ベース)は明らかにした。シェアの上位5製品はジャヌビア(23%)、シングレア(15%)、高脂血症用薬ゼチーア(8%)、筋弛緩回復薬ブリディオン(6%)、アレルギー性鼻炎薬ナゾネックスと肺炎球菌ワクチン・ニューモバックス(各5%)――で、これら製品で同社売上の6割を占める。これら製品の15年売上の対前年比は、ジャヌビアが0.1%減、シングレアが6.1%増、ゼチーアが2.8%増、ブリディオンが7.7%増、ニューモバックスが0.9%減――。
アルバレズ社長はジャヌビアの売上が横ばいだったことについて、糖尿病治療薬市場及びDPP-4阻害薬市場でトップシェアで追われる立場にあるとしたうえで、「激しい競合の中でフラットで維持できたことは重要」と評価した。
15年度の主な減収要因には眼科製品の参天製薬への譲渡や、抗アレルギー薬クラリチンのバイエル薬品への販売移管がある。またアルバレズ社長は、インターフェロンフリーの経口C型肝炎薬が他社から発売されたことで、同社C肝薬の売上が「ほぼゼロになった」ことも減収要因に挙げた。具体的な製品名は明らかにしなかったが、ペグイントロン皮下注とみられる。急激に売上が落ちた長期収載品名も明らかにしなかったが、14年6月にGEが登場した降圧配合薬プレミネントとみられる。
■抗PD-1抗体ペムブロリズマブは16年の「最も重要な優先事項」
16年は、悪性黒色腫や非小細胞肺がんで申請中のペムブロリズマブの承認取得・上市成功や、糖尿病領域の成長拡大、ワクチンや不眠症用薬ベルソムラの最大化などに特に注力する。このうちペムブロリズマブは、「最も重要な優先事項」(アルバレズ社長)に位置づける。
白沢博満・副社長執行役員 グローバル研究開発本部長は会見で、ペムブロリズマブについて、「効果のある患者では長く効果が持続する傾向がある。治療している限り、日常生活を普通におくれる可能性のある画期的な治療薬」と説明し、患者によってはがんが慢性疾患に変わり得るとの見方を示した。今後、同剤の承認取得・上市成功に加え、治療効果を高める併用療法の研究やバイオマーカーの模索に重点的に取り組む方針。アルバレズ社長はバイオマーカーに関して、「(がん免疫療法薬は)非常に高額なため、個別化医療も追求しなければならない。(ペムブロリズマブが)適した患者を選定してベストなアウトカムを達成していく戦略であり、製品開発にあたり大変重要なポイント」と述べた。より効果が期待できる患者を見つけるとともに、限りある医療費をその患者に適正に使っていく考え方を示した格好だ。
ペムブロリズマブは15年12月に悪性黒色腫で、16年2月に非小細胞肺がんで申請し、▽膀胱がん▽乳がん▽胃がん▽頭頸部がん▽多発性骨髄腫▽食道がん――はフェーズ3、▽大腸がん▽ホジキンリンパ腫▽進行性固形がん――はフェーズ2段階にある。胃がんは厚労省の先駆け審査指定品目の指定を受けている。
■地域包括ケア対応で「地域志向」強める 人員配置柔軟に
アルバレズ社長は、国が進める地域包括ケアシステムに対応するため、本社から地域に権限委譲したり、地域医療の変化を収集して全社で共有する取り組みを1年半前から行っていることを明らかにした。「(高齢社会が進展して)慢性疾患が増え、地域で長期的な介護や在宅ケアが必要となる変化が起こっている」との認識を示した上で、「地域に基づいたビジネス体制に変えていく。各地域の変化に合わせて、その地域で人員配置などを決められるよう権限を与え、地域志向にする必要がある」と述べた。そして、「日本の医療は常に地域ベースで進化している。市場で起こっていることは常に知る必要がある」とも話し、地域での情報収集能力を育成・強化することの重要性も指摘した。
地域包括ケアシステムは、これまでの施設完結ではなく、地域完結で医療・介護・生活支援などを提供する仕組み。団塊世代が75歳以上となる25年を目途に、地域の特性や実情に基づきシステムを作り上げていく。新しい医療提供の流れになるといわれている。