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東大・岩坪教授 認知症薬の開発や医学研究に「患者・市民の意見」取入れる必要性強調 PPIがカギ

公開日時 2024/10/15 04:51
第7回ヘルスケア・イノベーションフォーラム(PhRMA、日本イーライリリー共催)が10月11日に開催された。ビデオ参加した神戸市の久元喜造市長は「認知症神戸モデル」を紹介。それを踏まえたパネルディスカッションでは、認知症患者と共生するまちづくりや政策的意義などをめぐり議論した。東京大学大学院医学系研究科神経病理学分野の岩坪威教授は、「アルツハイマー病の課題は巨大だ。個別のステークホルダーだけで解決できない」と強調。「ペイシェント・アンド・パブリック・インボルブメント」(PPI)の考え方を示しながら、医薬品開発や医学研究に患者・市民の意見を取り入れる必要性を強調した。元厚労省老健局長で藤田医科大学の三浦公嗣特命教授は、「早期に認知症の発生率を下げることができれば、いまの医療保険の中で賄うことは制度的に可能なのか議論できるのでは」と提起。65歳以上に(認知症の)新薬を「毎回使うことが直ちにいかないのは自明」としながらも、対応策の検討は求められると強調した。

◎神戸市・久元市長から「認知症神戸モデル」が紹介

ディスカッションに先立ち、神戸市の久元市長から「認知症神戸モデル」が紹介された。神戸市では2018年に「認知症の人にやさしいまち作り条例」を施行し、2019年から「認知症神戸モデル」を開始した。診断助成制度では、65歳以上の市民を対象に、第1段階として地域の医療機関による認知機能検診を行い、認知症の疑いがあるかどうかを判断している。認知症の疑いがあると判断された場合は、第2段階の専門医療機関による認知機能の精密検査を行う。この両方の検診はいずれも自己負担が無料。認知症と診断された方には自己救済制度が適用される。神戸市が保険料を負担して加入する賠償責任保険で、賠償責任の有無に関わらず、事故に遭われた方に支給する見舞金の2階建て方式となっている。

◎今年度から認知症治療薬の適応も「認知症神戸モデル」に組み込み

久元市長によると、2019年の制度開始から24年3月末までの約5年間に診断助成制度の第一段階の認知機能検診を約7万8000人が受診。「神戸市医師会の全面的な協力により市内約470か所の医療機関で実施がされている。地域に身近な医療機関において無料で検診を受けていただける。受診のハードルを低くしたことが特徴」と久元市長は紹介した。

さらに、久元市長は「今年度から新たに認知症新薬への対応も行っている」と明かし、「認知症新薬の投与対象となる可能性がある場合に、新薬が適用されるかどうかの診断もこの制度の中に組み込むなどスムーズな流れを作っている」と強調した。

◎米リリー・リックス会長兼CEO 神戸モデルに「感銘」 制度適応がイノベーションを増強する

米・イーライリリー・アンド・カンパニーのデイビッド・A・リックス会長兼最高経営責任者は、「神戸モデルに関して本当に感銘を受けた」と表明。「検出診断を上昇させることによって、患者さんに治療を届けられる。我々もこのチャレンジのためにサポートしていきたい」と強調した。リックス会長はまた、「(認知症領域で)新薬が出るということは、公衆衛生の制度を適用させていくという変化が必要」と述べ、こうした制度的な変革や環境整備が「将来の医療的なブレークスルーにつながる。そしてケアとイノベーションをさらに増強することができる」と強調した。

続けてリックス会長は英国の事例を例示し、「(がん領域の)新薬の採用が遅れたことで、グローバルの標準治療が遅れたという事例がある」と紹介。「他の先進国に比べて診断やスクリーニング検査のプロトコルやガイドラインの整備が遅れた」と述べ、「日本はこの機会を捉えてこうした問題を認識いただき、アルツハイマー病の分野においても革新的な治療を採用するリーダーとなって欲しい。我々も認知症研究にさらに投資をしていきたい」と述べた。

◎東大・岩坪教授 「アルツハイマー病の臨床的問題、社会的問題は非常に巨大」

東京大学大学院医学系研究科の岩坪教授は、「アルツハイマー病の臨床的問題、社会的問題は非常に巨大である。これは個別のステークホルダーの努力だけではどうにもならない」と指摘。日本国内だけでなくグローバルに世界中がつながるようなエコシステムの構築が求められていると強調した。また、その際には多くの知見を共有するオープンイノベーションの必要性を唱えながら、当事者(患者)を中心に据えた「ペイシェント・アンド・パブリック・インボルブメント」(PPI)のような思想を取り入れていけるかがカギを握っているのではないかとの見解を披露した。

◎元厚労省老健局長・三浦藤田医科大特命教授 アウトカム評価の方向は現実的ではないか

元厚労省老健局長で藤田医科大学の三浦特命教授は、「日本の研究開発の状況を見ると明らかに落ちているのは企業の研究。企業の成果物が減っているのが現実だ」と指摘。「企業の皆様方には頑張っていただきたいと思うし、それが必要ならば原資となる薬価について、自分たちの研究開発が具体的に進められないぐらいの薬価になっているというのであればそういう議論をすることも重要なポイントではないか」と述べた。

フォーラム終了後の記者会見で三浦特命教授は、認知症領域におけるバリューベース、アウトカム評価について、「研究ベースで行われているものと理解している。財務当局からは、もっとそういったものをしっかりいれるべきだという議論がある」と明かしながら、「その前に手法の研究開発が必要になる」と指摘した。その上で、「いまの診療報酬の評価についても、体制の評価からアウトプットの評価、そしてアウトカムの評価という形で対象となるものを組み替えてきているというのが現実だ。そういう方向にいくというのは現実的ではないか」と語った。
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