米国研究製薬工業協(PhRMA)のダニエル・オデイ会長(ギリアド・サイエンシズ会長兼CEO)は11月27日、来日記者会見に臨み、2025年度薬価改定について、「中間年改定の拡大をやめるべき」と訴えた。新薬創出等加算の累積額控除などを引き合いに、「さらに踏み込んだ中間年改定は破壊的ダメージが大きい」と警戒感を露わにした。一方で、「長期収載品について、中間年改定が行われることはある程度考慮できる」とも述べた。年末の押し迫る11月になっても25年度薬価改定の全容が決まらない状況について、「予見可能性の欠如」と繰り返し、「“確実性をください”と政府にお願いしている」ことも明かした。
◎24年度薬価改定の「モメンタムの継続性が非常に重要」 もっと確実性を
25年度薬価改定をめぐっては財務省が財政制度等審議会財政制度分科会で全品目対象に実勢価改定を行うことを主張。市場拡大再算定や、新薬創出等加算の累積額控除を含め、「既収載品の算定ルールについて、全て適用すべき」としている。オデイ会長は、「中間年改定のルールを拡大する方向に向かっている」と警戒感を露わにした。費用対効果評価の分析対象を広げる議論もあることに触れ、「ドラッグ・ロスがどんどん酷くなる。せっかく進歩してきた医療制度が後退してしまう」と危機感を示した。日本の薬価制度が「医薬品のより迅速な開発、エコシステムのさらなる発展を妨げている。そしてドラッグ・ロスとドラッグ・ラグの原因になっている」と強調した。
24年度薬価制度改革では新薬創出等加算の見直しがなされ、特許期間中の薬価が維持されるようになった。オデイ会長は、「スタートポイントに過ぎない」として、「このモメンタムの継続性が非常に重要だ。それが日本の患者や創薬イノベーションのエコシステムの将来を左右すると思う」と強調した。「こういった確実性をもっと高め、特許医薬品は適切な収載時薬価で報われるということがわかり、特許期間中、10年、20年、30年と確実になれば、外資系企業はもっと日本に投資を行い、インキュベーター的な立場からスタートアップ企業にノウハウや知識を提供することができる」と述べた。
◎「11月になっても薬価がわからない」と“予見可能性”を指摘 新薬創出等加算の累積額控除に危機感も
25年度薬価改定が迫る中で、「11月になっても、日本の薬価がどうなるかわからない予見可能性の欠如が解決されなければならない。不確実性があれば、投資は控えてしまう」と指摘。政策プロセスの不透明感に対し、“予見可能性”という言葉を用いて批判を繰り返した。
PhRMAのシモーネ・トムセン在日執行委員会委員長 (日本イーライリリー代表取締役社長)も、「11月末になっても政府がどういう決定を下すのかわからないというのはおかしい。新薬創出等加算の累積額控除を行うのかもわからない。この10年間、毎年今頃になって来年どうなるのかがわからない状況に日本はおかれている」と指摘した。
◎スタートアップ育成に必要な”予見可能性”が日本は欠如 米国は「インフレ抑制法案あっても予見可能」
政府は、創薬力強化に向け、大学等のアカデミアとスタートアップやベンチャーなど民間企業との橋渡しを行い、民間投資を呼び込む体制を強化する方針を示している。オデイ会長はギリアドがスタートアップから成長した事例を、日本政府の描く一つの“青写真”として説明。成長に際して、米国の保険償還や特許など規制面の後押しが大きかったことを強調した。そのうえで、「規制の予見可能性、投資を行った場合の予見可能性はまず、マザーカントリーで確保されなければならない。日本がマザーカントリーであった場合に予見可能性が非常に低いことは問題だ。日本のスタートアップに素晴らしいサイエンスがあっても、規制の先行きそして保険償還制度がどうなるかが予見できなければ、アメリカでギリアドが成功したようには成功できない」との見方を示した。
日本だけでなく、米国でもインフレ抑制法に代表されるように医薬品に対する価格圧力が高まっており、先行き不透明な状況にある。こうした状況を問われたオデイ会長は、「米国では強力な特許保護があり、その下で経済合理性から医薬品の価格が決められている。市場競争があり、価格が適正でなければ、医薬品の価格に応じて価格を調整する必要がある。ただ、特許期間中は保護されている。特許期間後にはジェネリックが上市され、90%くらい薬価が引下げられる。これは非常に健全だと思う」と表明。「米国ではインフレ抑制法などもあるが、イノベーションに対する適正な評価がある。制度では特許期間が明確に決まっている。米国は十分に予見性があると思っている」と述べた。
一方で、日本では新薬の収載時の薬価算定は類似薬効比較方式が原則となっており、「収載時の薬価を我々が決めることはできない。プレミアも十分与えられるわけではない。いつ薬価が引下げられるのか。2年後なのか、1年ごとなのか。引下げ幅もわからず、予見性が全くない。日本はもっとはっきりと、イノベーションが価値評価されるのかということを明確にし、一貫したプライシングを行っていくべきだ」と述べた。
◎官民協議会に期待 迅速承認など国際的な規制調和の必要性も
日本が創薬分野で世界のリーダーシップを取り戻すためには、「大胆な国家戦略を策定し、創薬イノベーションエコシステムを再興していかなければならない。学術界、国内外のバイオ医薬品企業が連携をしていく必要がある」との考えもオデイ会長は示した。
そのうえで、来年にも予定される「官民協議会」に対する期待感も示した。常設の省庁横断組織を内閣官房の下に設置して国家的な戦略を策定する必要性を強調。KPIを積極的にモニタリングして進捗を管理し、対策を講じることを提案した。官民協議会には、学術界や世界のバイオ医薬品業界を含め、医療分野のステークホルダーが一堂に集う必要性も強調した。バイオベンチャー企業のための環境強化に加え、規制環境の改善、薬価制度などをフォーカスとすることも提案した。規制面では国際的な規制調和の必要性を指摘。米国の迅速承認(AA)を引き合いに、革新的医薬品については承認スピードを迅速にする制度の必要性なども指摘した。
トムセン在日執行委員会委員長は、「日本はポジティブな改革の可能性があり、投資を呼び戻す可能性は非常に高いと思う。そこで官民協議会が重要だ。省庁横断的な組織で協議するためには、経済全体に影響を及ぼすステークホルダーが集う必要がある」と述べた。また、「超高齢化社会で予算が限られている中で、政府がバランスをとって政策を推進する必要があるのはよく理解している。しかし、日本経済は成長する悲痛ようがあり、我々は日本のグループセクターになりたいと思っている」と強調した。
オデイ会長は来日後、石破首相や、加藤財務相、福岡厚労相らと面会し、意見交換を行ったという。