中医協薬価専門部会は7月17日、2025年度薬価改定に向けた議論を開始した。医薬品の供給不安が続く中で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「薬価改定の対象品目は医療機関、薬局の状況に加え、具体的な供給状況を勘案すべはきかどうか検討が必要」と指摘。支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「新薬創出等加算の累積額控除を25年度に適用することも強く求める」と主張。後発品の企業指標についても、「情報開示等が進んでいるものもあると思うので、最新の状況を反映した評価にバージョンアップすべき」とも述べた。次回の中医協薬価専門部会で、業界ヒアリングを行い、議論を深める方針。診療・支払各側から業界に対し、「具体的、建設的な意見」を要請する声があがった。
2025年度薬価改定をめぐっては、6月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針2024)に「イノベーションの推進、安定供給確保の必要性、物価上昇など取り巻く環境の変化を踏まえ、国民皆保険の持続可能性を考慮しながら、その在り方について検討する」と明記されている。
◎診療側・長島委員 「薬価財源の一部を診療報酬との密接な関係の中で捉えることが重要」
診療側の長島委員は、「医療の質向上には効率化も必要だが、財源もまた必要だ。抜本的な薬価制度改革を実施していきながら、適正な価格に引き下げることで生じた差額を全て国民に還元するという趣旨の中には、医療の質向上という形での還元という意味も含まれていると認識している」と説明。「医療の質向上の観点で見ると、薬価改定で得られた財源の一部を診療報酬との密接な関係の中で捉えることが重要であり、これをもって質向上につなげていくということを前提とした議論を積み重ねていく必要がある」と述べ、医療の質にかかわる診療報酬に財源を充当する必要性を強調した。
診療報酬改定のない年の改定として実施された21年度、23年度ではいずれも改定の対象範囲が乖離率の0.625倍とされたが、「様々な意見があるものの、あらかじめ基準を決めるというよりも、その時々の経済状況や財政状況、関係する医療機関、薬局の経営状況を勘案しながら、注意深く対応していくことを基本とすべき」と表明。さらに供給不安が続く中で、「薬価改定が行われることで対応してきている品目が再び安定供給が悪化するようでは意味がない。薬価改定の対象品目は、先ほど述べました医療機関、薬局の状況に加え、具体的な供給状況を勘案するべきかどうか検討が必要だ」と述べた。
◎診療側・森委員 慎重な検討求める 「7年連続の薬価改定で薬局の資産価値は目減り」
診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、中間年改定の発端となった4大臣合意がされた8年前と比べ、「医療を取り巻く環境は大きく変化していることを踏まえて、実施の可否を含めて検討すべき」との考えを示した。
「市場実勢価格を適切に薬価に反映するという趣旨は理解するが、薬局において、薬剤費は保険収入の約75%を占めており、消費税改定も含めて7年連続の薬価改定によって、薬局などの資産価値は目減りしている」と強調。また、「毎年の薬価改定の実施は、我が国の医薬品製造、流通にとって運営上負担の限界を超えるものとなっており、これ以上の過度な負荷は、生産体制の確保や人材不足に拍車をかける結果となる恐れがある」と述べた。そのうえで、「頻回の薬価改定を廃止することが望ましいが、25年度薬価改定については、少なくとも、現下の状況を踏まえて、その実施を延期するなど、実施の可否を含めた慎重な検討が必要」との考えを示した。
◎支払側・松本委員 「新薬創出等加算の累積額控除適用、強く求める」
支払側の松本委員は、25年度は診療報酬改定のない年であることから、「薬価制度そのものについて大きな改革は行われないという認識を持っている」との認識を示したうえで、「診療報酬改定のある年、ない年にかかわらず、市場実勢価格に連動するものだけでなく、政策的なルールを含め、現行の制度に則って、毎年粛々と薬価改定を実施するというのが私どもの基本的なスタンスだ」と述べた。国民負担の軽減の観点から、「物価高騰や安定供給問題があるとしても、値引販売が行われている品目についてはその薬価差を確実に国民に還元することが必要だ」と述べた。
具体的なルールとしては、「新薬創出等加算の累積額控除を25年度に適用することも強く求める」と強調した。製薬業界が累積額控除の時期はイノベーション評価とセットで検討すべきと主張したことに触れ、「24年度改革において、新薬創出等加算の要件を緩和したことを踏まえれば、特許が切れたら速やかに累積額を控除するということは当然だと考えている。仮に診療報酬改定がない年は実勢価改定と連動するものを原則とする場合でも、新薬創出等加算は、そもそも実勢価改定を猶予する仕組みで、累積額控除も実勢価改定と関連するものとして適用すべき」と述べた。
物価高騰や安定供給の観点から、23年度、24年度と2年連続で特例対応がなされた不採算品再算定にも言及。「こうした品目については値引販売が実施されることは、さすがにないと思うが、意図した効果が出ているのかしっかり検証し、特例措置の繰り返しとならないようにお願いする」と述べた。
24年度薬価改定で試行導入された後発品の企業指標については、「後発品の安定供給に関連する情報の公表」などは項目としては示されているものの、企業側の対応に時間が必要であることから24年度改定では適用されていない状況にある。松本委員は、「情報開示等が進んでいるものもあると思うので、最新の状況を反映した評価にバージョンアップすべき」と述べた。
◎業界ヒアリングに診療側・長島委員「具体的、建設的な主張を」
25年度薬価改定のあり方の検討に際し、環境変化を踏まえ、これまでの改定の影響を含めて関係業界から意見聴取を行い、議論を深めることも了承された。診療側の長島委員が「ヒアリングでは、業界としての具体的、建設的な主張をしっかりお聞かせいただいて、有意義なものになるようにすることを強く要請したい」と述べるなど、具体的に示すことを求める声が複数あがった。特に、24年度薬価制度改革で軸となったドラッグ・ラグ/ロスの解消に向けたイノベーション評価と、物価高騰下での医薬品の安定供給について具体的な議論を展開する必要性が指摘された。
診療側の森委員は、「ドラッグ・ラグ/ロスの解消を見据えた新薬開発、安定供給に与える影響について、業界からドラッグ・ラグ/ロス等への決意をうかがうとともに、中間年改定が医薬品流通などの観点からどのような影響を及ぼしているのか、具体的に示していただけることを期待する」と述べた。
◎支払側・松本委員「少なくとも企業マインドへの影響の検証は可能」
支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、「医薬品業界の構造的課題等の根本的課題について丁寧な議論を積み重ねていく必要があると認識している。特に医薬品の安定供給問題は、医薬品業界の構造的な課題に端を発するものであり、診療報酬上の評価による対応では問題の根本的な解決にはつながらないと考えている」と表明。「今後、関係業界等からの意見聴取等も踏まえ、実態をしっかりと把握しながら議論を積み重ねていきたいと思っている。本質的な課題、そのドラッグ・ラグ/ロスに対する本質的な課題が一体どこにあるのかがまだ見えてない実情もあると思うので、ぜひ今回はそのあたりを細かく見ていきたい」と話した。
支払側の松本委員は、「開発品目の増加や供給不安の解消といった目に見える形で効果が現れるまで時間がかかることは当然だが、少なくとも企業マインドにどのような影響が出ているかは検証が可能だと思う。業界ヒアリングの中でぜひ具体的にお示しいただきたい」と話した。
支払側の佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)も、「今後の議論が深まるよう、医薬品供給の実態や原材料の状況等、より詳細な資料をご提示いただき、具体的なご説明を求めたい」と述べた。
厚労省保険局医療課の清原宏眞薬剤管理官は、「24年度改定でイノベーションの評価、あるいは不採算品の対応など幅広くしていただいたということもあり、それに対する業界側の考え、あるいは今の状況等について“しっかり”、“具体的に”というお話がありましたので、そちらの方も対応していきたい」と応じた。
石牟禮武志専門委員(塩野義製薬渉外部長)も、「なるべくご要望にお応えできるよう、また今後の議論に資するような形での陳述となりますよう、業界として準備を進めたい」と応じた。
◎24年度薬価調査を了承 診療側・太田委員「薬価調査で一社流通品の分析」を要望
この日の中医協総会では、25年度薬価改定の基礎データとなる薬価調査について実施が了承された。販売サイドは保険医療機関及び保険薬局に医薬品を販売する医薬品卸売販売業者の営業所の全数の3分の2の約4400客体、購入サイドは病院の全数の40分の1の約200客体、診療所の全数の400分の1の約260客体、保険薬局の全数の120分の1の約520客体を抽出し、24年度中の1か月間の取引分を対象に調査する。前回の中間年改定に当たる22年度に実施する薬価調査と同様に、客体数を減少して実施する。
診療側の太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)は、「製薬メーカーが医薬品卸を一社に限定する理由に関して、医療機関として理解できる部分もあるが、我々は一社流通品が増加することにより、適切な医薬品の価格形成が阻害される可能性を危惧している」と一社流通に問題意識を表明。薬価調査において、「一社流通品に関して一度、適切な価格形成メカニズムが働いているかどうかに関して分析いただけないか、事務局でご検討をお願いしたい」と要望した。
厚労省医政局の医薬産業振興・医療情報企画課の水谷忠由課長は、一社流通が流通改善ガイドラインの改訂に際しても論点になったとして、「一社流通を行うことそのものが悪いわけではないが、一社流通を行う場合には理由等についてきちんと説明していくことが重要であること、卸も必要に応じて協力することでメーカーが説明責任を果たすべき、ということが議論になった」と説明。「当然のことだが、一社流通品であるから安定供給に生じることがあってはならない。一社流通品について安定供給に努めていただくことも議論された」と述べた。そのうえで、「一社流通品の実態を薬価調査の中で把握することが可能かということも含めて、事務局としてどのようなことが可能なのか少し整理をしてみたい」と応じた。