中医協総会は11月24日、長期収載品の使用を選定療養に位置付けることについて議論し、診療・支払各側から参照価格制度の導入に反対する声があがった。診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、過度な患者負担とならないよう「一定の率を定めることを検討すべき」と求めた。委員から、「3~4割」と具体的な数字を挙げる声もあった。導入する範囲については、後発品の安定供給が懸念される中で、出荷調整となっている医薬品を除いた「部分的な試行導入」を検討する必要性を指摘する声もあがった。このほか、選定療養の導入に際し、患者負担増加を抑制する観点からも、長期収載品の薬価ルール厳格化を求める声もあがった。
長期収載品をめぐっては、後発品との価格差を踏まえた保険給付のあり方が社会保障審議会医療保険部会で議論されている。イノベーション推進や医薬品の安定供給確保を方針に据えたうえで、長期収載品から後発品への置き換えを早め、先発メーカーの長期収載品依存からの脱却を促すことが狙い。
◎参照価格制に診療・支払各側とも反対姿勢 支払側・松本委員「後発品へ切り替え考える程度の負担を」
この日の中医協総会でも、後発品の薬価を超える部分を一律、全額自己負担とする“参照価格制度”の導入については診療・支払各側から反対の意見があがった。
診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「後発品の薬価を超える部分は一律に自己負担を求める参照価格制度については医療上の必要性を考慮しておらず、導入すべきではない」と指摘した。
診療側の森委員は、「参照価格制度のような差分丸ごとではなく、患者負担が過度にならないことが必要だ。個別の医薬品の薬価や処方日数等により、実際の自己負担額には大きな差が生じるため、そのあたりの配慮も必要だ。そのためには負担に関して一定の水準を設けること等も含め、一定の率を定めることを検討すべき」と述べた。診療側の池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)は、「選定療養になれば全額自費扱いになる。せめて保険給付額の3割、4割に少し足したくらいの形で激変緩和しないと患者が非常に困ってしまうのではないか」と指摘した。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、患者調査の結果で「少しでも安くなるのであれば(後発品を)使用したい」との回答が最多であったことを踏まえ、「患者が後発品へ切り替えようと考える程度の負担はあってしかるべきだが、過度な負担増も難しいだろう。参照価格制を導入する必要性は乏しい」と述べた。
◎診療側・長島委員「医師の処方権が前提」 支払側・松本委員「“ブランド選択”は選定療養に」
選定療養を導入する医薬品の範囲も議論の焦点となっている。医師調査では医師が先発品を指定する理由として、「患者が先発品を希望するから」が最多となっており、外用剤(貼付剤・点眼剤)などにおいて患者が使用感などで選択していることが多いことも指摘されている。
診療側の長島委員は、「この議論を進めるに当たっても、処方権は医師にあることを原則にすべき」と牽制。「この原則を踏まえれば、医師が医学的な判断により長期収載品を選択した場合は、患者さんの選択によるものではないので、選定療養の対象にすべきではない」と強調した。総会に先立って行われた薬価専門部会では、「現在の後発品を中心とした安定供給上の懸念、あるいは点眼薬等の外用薬において基剤や添加剤の違いにより、効果や副作用が異なることなどから、やむを得ず後発品への置き換えが進まない実態がある。そうした点について、一定の配慮が必要ではないか」と述べていた。
一方、支払側の松本委員は、「いわゆるブランド選択というようなものについては、選定療養と位置付けることで後発品の使用を促進することは十分に考えられる」との見解を表明。ただし、「医療上の必要については当然一定の配慮が必要であり、後発品が存在しないものや精神系の薬剤など後発品からの切り替えが困難な場合は選定療養から除外することが想定される」との見解を示した。医師の判断の重要性に理解を示したうえで、医師調査の結果で医師が先発品を指定する理由として、「後発品の効果や副作用に疑問があるから」が3割に上ったことに触れ、「これらを全て選定療養から除外することについては少し疑問がある。適正な運用という観点から医師による妥当な判断が行われることを担保する必要があると考えている」と述べた。
◎後発品の安定供給踏まえ「出荷調整成分は除外を」 部分的な試行導入も
後発品の安定供給が懸念される中で、診療側の森委員は、「出荷調整となっていない医薬品でも入手が困難な状況であり、少なくとも出荷調整となっている成分を対象にすべきではない」としたうえで、その状況が変化していることも指摘。「急に現場が混乱しないよう施行の時期なども含め慎重な検討が必要」との考えを示した。
公益側の飯塚敏晃委員(東京大大学院経済学研究科教授)は、「全ての医薬品に対して一律に導入するということは、規模的にも難しい可能性もある。部分的に試行的に導入するということも考えてはどうか」と提案。診療側の池端委員は個人差の大きさも指摘し、「現場の医師の判断に任せるしかないのではないか」と医師の処方権を強調した。
このほか、診療側の森委員は、1997年に薬剤一部負担金が導入された際に、現場が混乱したことを踏まえ、「現場に事務負担がかからないよう、システム上の対応も含め、なるべく簡素な形で実施するものと考える。関係者による国民への十分な周知や、そのための準備期間等も必要」と指摘した。
◎長期収載品の薬価ルール見直し 診療側は慎重姿勢
制度の導入に際し、現行の長期収載品の薬価ルールについても議論の俎上に上った。診療側は、「安定供給上の懸念や長期収載品の保険給付のあり方について方向性が定まった時点で議論すべき」(長島委員)、「これまでにない新たな対応で、患者、現場への影響が非常に大きく、実際にどのような影響が現れるのか想定しづらい部分もある。長期収載品に係る薬価上の措置の見直しを行うことはすべきではない」(森委員)など、慎重な対応を求める声が出た。
◎支払側・松本委員 Z2、G1・G2見直しは「不可欠」 患者負担増加抑制も
一方で、支払側の松本委員は、「長期収載品の薬価ルールの見直しは不可欠だ。限定出荷や欠品が生じている成分を選定療養から除外しつつ、安定供給が可能な後発品の使用がさらに増加することで、後発品企業にとっては経営上のメリットもある。患者の負担増によって生じた財源はイノベーションと持続可能性の両立に繋がるよう還元すべきだ」との見解を表明した。
総会に先立って行われた薬価専門部会で支払側の松本委員は、新薬創出等加算の提案がなされたことを踏まえ、「長期収載品についても、より早期に後発品のへの置き換えが進むよう、ルールを全体的に厳格化すべき」との考えを表明。Z2の適用時期前倒しや置き換え率に応じた引下げ強化に加え、G1・G2ルールについては「後発品薬価との倍率の刻みを少し小さくする等の工夫をしながら、確実に毎年適用することで、より迅速に後発品との価格差を縮小すべき」と述べた。
新薬創出等加算の累積額控除についても触れ、「長期収載品の薬価のあり方としても毎年実施すべき。患者負担の増加を極力抑えることにもつながる」と述べた。このほか、オーソライズドジェネリック(AG)の薬価の検討や、スイッチOTCの推進などの論点もあげた。
業界代表の石牟禮武志専門委員(塩野義製薬渉外部長)は、「現在、後発品の使用割合として数量80%を既に到達するなど効果があったことを踏まえると、現行の薬価ルールを変更する必要性は乏しいのではないか」と述べた。