【中医協薬価専門部会 10月18日 議事要旨 新薬創出等加算に関する論点と質疑】
公開日時 2023/10/19 05:02
中医協薬価専門部会は10月18日、新薬創出等加算に関する論点が示され、診療・支払各側が意見した。本誌は各側委員の質疑について議事要旨として公開する。
【資料・新薬創出等加算に関する論点】(中医協薬-1 資料37ページ)
(論点)
• 新薬の収載後の価格について、新薬創出等加算の平成22年度薬価改定における導入当初の目的、平成30年度薬価制度抜本改革における制度改正の経緯も踏まえ、以下の点について、どのように考えるか
① 企業要件・企業指標について、どのように考えるか。特に、現行のルールにおいて特例の対象となる医療系ベンチャーが区分Ⅰとなっておらず、薬価が維持されにくいことに加え、当該特例に該当しない多くのスタートアップ企業も同様の状況であることについて、どのように考えるか。
② 品目要件について、どのように考えるか。特に真に革新性・有用性のある医薬品の範囲を広げることについて、どのように考えるか。(※小児等の個別の議論は別途行う)
③ 加算の考え方について、どのように考えるか。特に、計算式により、区分Ⅰであっても乖離率によっては薬価が維持されない場合があることや、平均乖離率を超える品目の取扱いについて、どのように考えるか。
④ 新薬創出等加算の累積額控除を行う時期について、どのように考えるか。
⑤ ①~④のほか、新薬のライフサイクルに着目すると、薬価制度の観点からの創薬環境の整備、制度導入当初の目的であったドラッグ・ラグの解消の意義等も踏まえつつ、新薬である期間中の価格のあり方、後発医薬品収載後の価格のあり方について、本制度の見直しも含め、どのように考えるか。
安川部会長:それではただいまの(事務局)説明につきまして、ご意見ご質問等ございましたらお願いいたします。では長島委員お願いいたします。
長島委員:はい、ありがとうございます。まず、資料の5ページ(薬事承認から薬価収載までの日数「H30.4~R 5.8収載分」)、資料6ページ(海外における承認から薬価収載までの日数等)に私の要望に答えていただき、新薬の薬価収載までの期間のデータを載せていただきありがとうございます。
資料6ページの表を見ますと、制度が全く異なる米国を除けば、日本は他の国と比べて、薬事承認された品目のうち上市された品目の割合が99.1%と極めて高く、薬事承認から保険収載までの平均期間が2.4か月と圧倒的に短いということが明らかになりました。これを見れば、日本における予見性がいかに高いかということが見事に表れていると考えます。
さて、事務局に質問です。資料6ページの表で、フランス、英国では、上市されていない品目が多く、また保険償還までの期間が長い結果となっております。これらの背景、理由について教えてください。
続いて、資料37ページの論点、5つに沿って順にコメントいたします。まず論点①です。ベンチャー企業やスタートアップ企業であることで、無条件に「区分1」とすることは、少し飛躍があるように思います。新薬創出等加算の趣旨である革新的新薬の創出や、ドラッグ・ラグ対策等の評価が骨抜きにならないように配慮しつつ、どのようなベンチャー企業であれば評価に値するのか検討が必要だと考えます。
論点②です。品目要件については、小児用医薬品等の議論を別に行うとすれば、前回、前々回の改定で、業界要望を聞いて対応しており、現在の内容で、革新性、有用性の高い医薬品はカバーされているように思います。
その他にどのような品目が考えうるのか。真に革新性、有用性のある医薬品の評価という観点から、丁寧に議論すべきと考えます。なお、小児の対応については、従前の加算がありながらも、小児適応拡大がされてこなかったことは、被験者の確保や治験実施体制などの加算以外の問題があると考えます。
論点③です。乖離率には、市場での評価も反映されていると理解すれば、平均乖離率を超えている品目について薬価を下げていく現行の対応方法は一定の合理性があると考えます。
論点④です。薬価改定は、2年に一度の診療報酬改定と同時期に行うことが基本であり、最近の毎年改定がドラッグ・ラグ/ロスに与えた影響も考えれば、中間年における累積額控除については、慎重に検討すべきと考えます。
最後に論点⑤です。新薬創出等加算の導入およびその見直しの際に、これで開発が促進されるかどうか、薬価専門部会や総会において何度も確認させていただき、その回答は「する」ということでした。結果として、業界が想定した通りに、未承認薬・適応外薬の解消ができないということは、業界において、別の要因があったと考えるべきなのではないでしょうか。
平成25年度から試行を経て導入された新薬創出等加算が、2回の見直しを経て、だいぶ精緻化が進んできましたが、革新的な新薬は評価するという基本に立ち戻って、シンプルにできるところがないか、検討していくことも考えられるのではないでしょうか?私からは以上です。
安川部会長:はい、ありがとうございました。今ご質問が出ましたドイツ、フランス等におけるデータの背景について、事務局からお願いいたします。
薬剤管理官:薬剤管理官でございます。集計した数値に関して、その背景とかそういったところまでは正直申し上げますと、具体的なところまではこちらは承知しておりません。
ただ実態として、各国の保険制度、医療制度全体の中で個別の判断の中で出てくる結果だろうと思っております。むしろ日本の今の制度の方が、要は薬事承認されたものが基本的には一定期間のルールの中で薬価収載されている。それが大半なものを承認されている範囲で基本的には保険収載されるという前提に立って、今まで手続きを行っているというところが、むしろきちんとしたルールに基づいて行っている国だったというところがあると思います。
いろんな背景がある結果ではこういったデータになっているだろうというふうに推測しているとこでございます。以上です。
安川部会長:長島委員よろしいですか。
長島委員:ありがとうございます。もし、今後も何か情報が収集できましたら、お願いいたします。
安川部会長:はい他にいかがでしょうか。では森委員お願いいたします。
森委員:ありがとうございます。論点についていくつか発言させていただきます。
まず①の企業要件、企業指標についてですが、令和2年に企業規模によらず評価されるような見直しを行いましたが、区分の実績を見ると、医療系ベンチャーやスタートアップ企業は厳しい状況であり、企業規模の影響を受けやすくなっているように感じます。
既に特例の対象となっている医療系ベンチャーのみならず、医薬品開発を始めたスタートアップ企業にとっても、不利になりすぎないよう、何かしらの見直しや配慮があっても良いのではないかと考えます。また、企業要件、企業指標が、企業にとってうまく機能していないようであれば、撤廃も含め、企業の開発促進をより促す形に改めることも一つと考えますが、平成22年度の試行的な導入当初から未承認薬や適応外薬の解消のために、企業を促していた側面もありますので、その点は専門委員や業界の意見も聞きながら議論していくべきと考えます。
次に、論点②の品目要件についてです。特に真に革新性や有用性のある医薬品の範囲を広げることに異論はありませんが、ドラッグ・ラグ/ロスの解消に向けた視点が必要です。別途議論することとなりますので、その時に改めてコメントいたします。
次に論点③の加算についての考え方ですが、区分1、平均乖離率以内であっても、必ずしも薬価が維持されていない。区分2、区分3を含めて、もう少し薬価が維持されるよう計算式の見直しや配慮が必要と考えます。その際、メリハリをつける観点から、高く売られているものについては、薬価を維持しやすくする一方で、安く売られているものについては加算額を減らすといった形に改めることも一つと考えます。
次に論点④の新薬創出等加算の累積額控除を行う時期についてです。現状の2年に1回のサイクルで行われているもので、影響もある程度大きいため、慎重に見て影響などを議論しつつ、新薬の薬価の維持とあわせて検討していくべきものと考えます。
最後に論点⑤についてですが、医薬品のサイクルなど、企業の予見性をさらに高め、ドラッグ・ラグ/ロスの解消につながるよう、もう少しシンプルな形に見直すことや、メリハリをつけていくことは一つの対応と考えます。私からは以上です。
安川部会長:はい、ありがとうございます。他にご意見、ご質問はありますでしょうか? 松本委員お願いいたします。
松本委員:どうもありがとうございます。それでは新薬創出等加算のあり方につきまして論点に沿ってコメントいたします。
論点①のベンチャー取り扱いについてですが、まず公平性の観点が最も重要だというふうに考えております。薬価が維持されにくいからということではなく、イノベーション努力に対する評価が不当に低いということであれば、企業指標のポイントで考慮することも考えられますけども、ベンチャーだからという理由だけで一律に「企業区分1」にすることが果たして妥当なのかどうかについては、長島委員からもございましたけども、同様の意見でございます。
続きまして論点②の品目要件についてです。ドラッグ・ラグ/ロスが生じたのであれば、患者アクセスを確保する観点で議論をすることは否定いたしませんけども、これまでも申し上げてきました通り、評価と適正化はセットで議論すべきであり、論点④とセットで検討が必要だということを改めて強調させていただきます。
続きまして論点③です。少なくとも平均乖離率を超える品目の場合、それなりに値引きをして販売されているということが明らかでありますので、それでも薬価を維持する妥当性については乏しい、とこれについては言わざるを得ないというふうに考えております。
論点④でございますけども、後発品が上市された場合に速やかに先発品の市場を譲るという基本的な考え方のもと、年2回ある後発医薬品の収載時に累積額を控除することが最も公平だというふうに考えております。少なくとも毎年の薬価改定時に累積額を控除することは、特許期間中に新薬の薬価引き下げを猶予する条件だというふうに考えます。
最後に論点⑤でございます。これについては、そもそも製薬業界が財政中立で薬剤費の上昇を抑える前提でご提案された内容が新薬創出等加算のベースになっているという認識でございます。その後、革新的な新薬の開発状況等の企業努力を反映したものに修正されましたけども、その考え方は必ずしも間違ってはいないというふうに感じております。
したがいまして基本的には新薬創出等加算の枠組みを維持した上で、保険財政の持続可能性の確保とイノベーションの評価が両立できる仕組みに改善すべきだというふうに考えます。私は以上になります。
安川部会長:はい、ありがとうございます。他にご意見、ご質問ありますでしょうか? では眞田委員お願いいたします。
眞田委員:私からも1点コメントさせていただきたいと思います。薬価につきましては、先ほど松本委員が発言したように、国民皆保険の持続可能性の確保と、イノベーションの促進との両立が大変重要だというふうに認識しております。
新薬創出等加算の趣旨につきましては革新的な新薬開発やドラッグ・ラグ解消に取り組むインセンティブであるということに鑑みれば、ドラッグ・ラグ/ロスが再燃されている中、何らかの対応が必要ではないかというふうに考えます。
国民負担への配慮はもちろんでありますけれども、いかに企業のイノベーションを適切に評価するかという観点で必要な見直しを検討すべきかというふうに考えております。今回論点となっている①の企業要件、企業指標につきましては、ベンチャー企業に関して、革新的な新薬の開発を行ったとしても、企業規模によって不利になるような現状があるのであれば、制度上の工夫をするということは必要ではないかというふうに考えております。以上でございます。
安川部会長:ありがとうございます。他にご意見、ご質問ありますでしょうか? 今いろいろとご意見を承りましたが、企業要件、あるいは品目要件など、製薬業界の方にとっても大変重要な論点かと思います。もし専門委員の方からご意見等ございましたらうかがいますがいかがでしょうか?はい、では石牟禮専門委員お願いいたします。
石牟禮専門委員:はい、ありがとうございます。専門委員の石牟禮でございます。ただいまの議論の中でも企業要件についてのご議論がいろいろございました。
私どもからも、論点①の企業要件についてコメントさせていただきたいと存じます。元々企業の立地・規模、あるいは得意な領域ですとか、最近では新たなモダリティを用いた開発の調整など、医薬品の研究開発をめぐる状況につきましては多様かつ変化し続けております。そういった中で、一定の指標で企業の優劣をつけるということにつきましては、ある程度の限界があるのではないかというふうに感じます。ただ今ご議論がありましたようなベンチャー企業の評価について議論があるということも、企業要件による評価の限界を示しているのではないかというふうに専門委員としては認識をしているところでございます。
ご案内の通り、新薬創出等加算につきましては、新薬の薬価を維持することで企業にとりましては、投資回収を早めるという形で革新的な新薬、有用性の高い新薬の研究開発を促進する制度であると認識しておりますが、現状ドラッグ・ラグ/ロスといった課題も多い表出しているところでございます。
前回、業界代表からもご説明申し上げました通り、もはや長期収載品からの収益は期待できない状況で、新薬から得られる収益を次の新薬の創出に向けて回していくサイクルを加速させなければ、企業は存続できないという危機感を持っていると私どもは認識しております。
このように各社それぞれ研究開発に取り組んでいるにもかかわらず、相対評価によって決められる企業区分によりまして、75%の企業の品目では薬価が維持されないという仕組みは、私どもにとりましては、むしろディスインセンティブが与えられているというふうにも感じているところでございます。
新薬創出等加算が収載された新薬の革新性を評価する仕組みとなったことにより、企業指標、企業区分というのは、その役割を終えているのではないか。こういった新薬を開発しているという結果をもって評価していただければ十分ではないか、というふうにも考えております。
そういうことも含めて、先日の業界意見を踏まえて、企業要件、企業指標の撤廃をご検討いただくべきというふうに考えております。
もう一点、平均乖離率以上の乖離率についてです。先ほど申しましたように、新薬からの収益が非常に重要だということでございまして、なるべく値引きはしない形で販売しているのが実態ということはデータからも見ていただけたかと思います。
ただ一方、その上市時の評価によって、新薬創出等加算の対象となった品目でありましても、薬価差に高低が生じるという理由は、医薬品の特性や競合状況、取引量など複数の要因があるというふうに推察いたします。結果として現在のルールにおいて、平均乖離率を超えた品目に減算という仕組みが設けられていること自体は、元々業界が当初を提案した考え方を踏まえますと、致し方ないものというふうにも、専門委員としては感じております。以上でございます。
安川部会長:はい、ありがとうございました。ご意見ご質問等いかがでしょうか? 他にご質問等もないようでしたら、本件に係る質疑はこのあたりとし、今後事務局におきまして本日頂戴いたしましたご意見を踏まえて、対応いただきますようによろしくお願いいたします。
本日の議題は以上です。次回の日程につきましては、追って事務局より連絡いたしますので、よろしくお願いいたします。それでは、本日の薬価専門部会はこれにて閉会といたします。長時間どうもありがとうございました。