諮問会議 24年度予算編成に向けた議論スタート 生産性向上とイノベーション推進で自律的投資拡大へ
公開日時 2023/07/21 04:52
政府の経済財政諮問会議(議長・岸田文雄首相)は7月20日、2024年度予算編成に向けた議論を開始した。内閣府が提示した年央試算では、23年度のGDP成長率は実質1.3%程度、名目4.4%程度と下方修正したものの、24年度は実質1.2%程度、名目2.5%程度と見込み、「民間需要主導の緩やかな成長」に期待を寄せた。これを受け民間議員は国内投資の拡大による供給力強化を求め、「生産性向上とイノベーション促進による供給力強化に向けた民間投資を引き出し、自律的な投資拡大」による経済成長の絵を描いた。一方で歳出改革の重点施策ではコロナ禍からの脱却を掲げると同時に、公的投資を通じた民間投資の拡大や全世代型社会保障制度の構築をあげた。
24年度予算編成に向けた議論が本格化する。政府の諮問会議に先立ち、与党・自民党も前日19日に政調全体会議を開き、概算要求の基本的な方針を了承した。まずは、24年度予算概算要求に向けた政府・与党間の“目線合わせ”が焦点となる。
◎診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬のトリプル改定に早くも注目
製薬業界・医療界が関心を寄せるのは、24年4月の診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬のトリプル改定の行方だ。医療・年金など社会保障関係費は、人口の高齢化に伴う増加分(自然増)を加味した範囲内に収めるというのが通例。ただ、近年は物価高やエネルギー価格の高騰などの社会経済情勢が、社会保障の恩恵を受ける高齢者や一般生活者の家計に影響を与えており、コロナ禍を経て緩やかな成長が見え始めた社会経済とのバランスをどう取るかが課題となっている。この日の諮問会議で民間議員は、「構造的賃上げと投資拡大の継続に向けて、今が正念場」と表現しながら、「資源配分の重点化や機動的なマクロ経済運営を行うべき」と政府に求めた。
◎社会保障関係費の財源調整は年末 「生産性向上やイノベーション促進」はDXで
24年度予算編成において、社会保障関係費の財源調整は例年同様、年末の予算案決定まで「袋詰め」の恰好で持ち越される見通しだ。ただ、今回の予算編成においては、岸田首相の掲げる少子化対策の推進と「歳出改革」のバランスが焦点となりそうだ。特に医療については、地域包括ケアシステムの総仕上げが近づいているほか、24年4月の医師の働き方改革や医療DXの推進など、それぞれの施策やテーマが深く絡み合っていることから、日本医師会をはじめ医療関係団体も必要財源の確保を政府に求めることは必至の情勢だ。
諮問会議で民間議員からは、コロナ禍を経て上向きかけた民間需要と国内投資の拡大による供給力強化のための施策として、「生産性向上やイノベーション促進」を旗印とするDX(デジタルトランスフォーメーション)や経済安全保障などへの期待を込めている。もちろん、この視線の先には医療分野も含まれており、医療者の働き方や患者の利便性などを目的としたDX化の推進への期待感も見え隠れしているところだ。
◎創薬力強化へのビジネスモデル転換促進がカギ 骨太方針のメッセージ
一方、製薬産業にとっても、創薬力強化に向けて「研究開発型のビジネスモデルへの転換促進」を骨太方針2023(6月16日閣議決定)に刻み込み、「保険収載時を始めとするイノベーションの適切な評価などのさらなる薬価上の措置」や、「国際共同治験に参加するための日本人データの要否の整理」、「小児用・希少疾病用等の未承認薬の解消に向けた薬事上の措置と承認審査体制の強化」などの推進を盛り込んだ。例年の予算編成は薬価改定の行方(改定率)ばかり気になるところだが、昨年らい議論のあった厚労省・有識者検討会での議論や、それを受け実行フェーズの議論の場として新設した各種検討会などの議論も側面的に影響を及ぼしそうだ。結果的に、製薬各社が、骨太方針のメッセージをどこまで達成したかで、将来のインセンティブが左右される可能性もあり、製薬ビジネスそのものの産業構造改革や、それに伴う社会貢献、経済貢献を含めた新たな価値評価の行方なども注目されるところだ。
◎岸田首相 「民間投資を引き出し、一過性でない構造的賃上げを後押したい」
岸田首相はこの日の諮問会議で、「日本経済は、コロナ禍からの経済社会活動の正常化が進み、緩やかに回復している。足下では30年ぶりの高水準となる賃上げが実現し、企業の高い投資意欲が示されるなど、前向きな動きが着実に生まれている」と強調。「民需主導の持続可能な成長を確実なものにすることを目指し、2024年度予算に向けて、骨太方針に盛り込まれた取組を現実の政策にしていくことが必要だ。潜在成長率の引上げや社会課題の解決につながる民間投資を引き出し、また、一過性でない構造的賃上げを後押したい」と述べた。