厚労省は医薬品の供給不安時の流通在庫を含めた供給情報把握に向けてガイドラインや手引きの作成に向けた検討に入る。医薬産業振興・医療情報企画課が６月16日に開かれた「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」に報告した。供給不安が長引く一因として、医薬品の供給情報が共有されていないことが課題とされている。特に、医療機関・薬局の在庫情報は把握されておらず、医薬品の偏在の一因と指摘されていた。検討会の下部にワーキンググループを設置。2024年度の改正感染症法、改正医療法の施行を見据えて議論を深め、年度内にも議論をまとめる方針。

◎改正感染症法、改正医療法施行見据え議論　年末頃にもWGが中間報告

医薬品の供給不安はコロナ禍で顕在化し、この対策として感染症法と医療法の改正に踏み切った。昨年末成立した改正医療法では、医薬品の供給不安については、国から製造販売業者への聴取を可能にするとともに、応答義務・違反の罰則、国による聴取についての情報の公表義務が規定されている。

検討を開始するのは、「感染症対策物資等の確保等に関するガイドライン（仮称）」に加え、事例なども交えた「医薬品に関する情報収集の手引き（仮称）」、「医療機器に関する情報収集の手引き（仮称）」。24年度の改正感染症法、改正医療法の施行を見据え、11～12月に中間報告を取りまとめ、23年度中に結果を安定確保検討会に報告する方針。

◎“適正在庫”の考え方も検討課題に　

同省は検討会に、現行の供給不安時における情報共有の問題点を提示した。 医薬品の供給不安時には、製造販売業者から厚労省、医薬品卸、日本薬剤師会・医師会、日本製薬団体連合会（日薬連）など、多くのステークホルダーへの情報共有が求められる。一方で、日本薬剤師会・医師会に報告している製造販売業者は10～20％にとどまるなど、情報提供の手段や報告相手にバラつきがある。また、医療現場からニーズの高い、供給不安の解消時期が含まれていない情報が多いなど、内容も標準化されていない。このため、医療機関・薬局から医薬品卸、製薬企業への問い合わせが相次ぎ、対応の増加につながるなど、悪循環に陥っている。

厚労省は手引きの策定などで、報告内容を標準化するなどして、課題に対応する方針。医薬品の供給情報をめぐっては、日薬連を通じて製造販売業者に調査を行っているが、医療機関・薬局の在庫情報も把握する方向性を示した。情報の共有化に際し、「緊急時に限るなど、その条件の設定や、医薬品の範囲や共有の対象を限定するなど、適用範囲の検討」する必要性も示した。“適正在庫”の考え方を整理することにも踏み込む姿勢を示した。

◎情報の標準化、スピードも課題に　各社からの情報提供バラツキ解消へ

製造販売業者からの情報共有については、製造販売業者の報告先の一元化などで、情報のバラツキを減らすほか、報告内容の整理と標準化を進める考えも示した。一方で、報告する側の負担軽減の観点から、対象医薬品の範囲限定や、カテゴリ分けなどの必要性も指摘した。また、製造販売業者のうち、供給不足発生から１週間以内に情報提供を行っている企業は40～60％にとどまっていることから、「望ましい報告・情報更新頻度を整理」することも論点に盛り込んだ。

現在は、厚労省が予算確保した「医療用医薬品供給情報緊急調査事業」により、日薬連が実施する供給状況調査の頻度をこれまでの３か月に1回から毎月に向上。公表までの期間を短縮できるよう、調査体制を強化している。調査・集計作業の業務フロー改善や、調査項目や公表情報の拡充などの改善も行っている。ただ、情報提供する企業が少ないことから、未報告企業への働きかけを十分に行うほか、負担軽減策を検討する必要性も指摘した。

◎日薬連・土屋構成員「見える化に力」　各社に情報発信も

検討会でも、医療機関や薬局での偏在化を訴える声があがり、「（供給情報の共有により）現場としても、不安心理や見込みが立たないことによって過剰な市場在庫を買い取らないということが起きないというのは非常に重要だ」（安部好弘構成員・日本薬剤師会副会長）など、情報共有の必要性を強調する声が複数あがった。

土屋直和構成員（日薬連安定確保委員会委員長）は、「業界団体としては、一刻も早く供給不安を解消するために、見える化にいま力入れて進めている」と説明。「見える化を進めることによって何が今本当に足らないのかというところは、各社に対して情報発信をしていきたい」と述べた。