アイパークインスティチュートの藤本利夫代表取締役社長は4月13日のメディア説明会に臨み、現時点で160の企業・団体、2414人の就業者数が集うコミュニティに成長したと報告した。直近の活動実績は、新規コラボレーション1700件超、新規特許申請は約150件。資金調達も約500億円に上り、「最近は大きな額を調達するベンチャーも増えてきた」と強調した。投資面ではベンチャーキャピタル（VC）やコーポレートベンチャーキャピタル（CVC）、製薬企業、バイオテック、総合商社など約20社が参加する「日本VCコンソーシアム」を通じ、代表的なスタートアップへの投資をめぐり会員間の実践的な議論を行っていると紹介した。

アイパークインスティチュート（iPi）は、4月1日付で武田薬品からの吸収分割によりiPi設立準備会社が運営事業を承継したもので、武田薬品が保有していたiPi準備会社の株式の一部が産業ファンド投資法人、三菱商事に譲渡され、この3社が主要株主となった。また準備会社の商号も4月3日付で「アイパークインスティチュート」に変更し、事業開始に至った。

◎日本でのVC投資額　米国、中国、欧州に「大きく後塵を拝している」

藤本社長は、「創薬の主体が新興バイオファーマを中心としたベンチャー企業に移っている」と指摘。グローバル的にみても、「人材や技術、資金は限られた都市に集中してエコシステムを形成している」と述べ、日本のバイオクラスターの一角を占めるアイパークインスティチュートの今後の役割に強い期待感を表明した。一方で、日本の課題として、日本でのVC投資額は米国の約２％（22年）に過ぎず、かつ中国や欧州にも「大きく後塵を拝している」と指摘。さらにベンチャー取り引きも、「欧米とは桁違い。気を吐いて資金調達しても、並行した開発ができず、長期的な見通しを描くことが難しい」などの課題があるとした。

◎新規コラボレーション件数は「指数関数的に増えている」　コロナ禍の協業加速を評価

湘南アイパーク内での活動実績については、開所初年度の新規コラボレーションが2018年時点の15から、19年143、20年913、21年1700超まで大きく成長したと強調した。藤本社長は、「指数関数的に増えている。これを見ると一つ屋根の下で、コロケーションすることがコラボレーション協業につながっていくということが実感を持っておわかりいただけるのではないか」と強調。特に、この間のコロナ禍における協業加速を高く評価した。

一方で投資やライセシングに関する議論とノウハウの共有として「日本VCコンソーシアム」を設立し、会員間でノウハウの共有などを行っているとした。すでに、「第1期」（20年7月～21年6月・参加企業10社）はデジタル医療、オリゴ核酸のデリバリー技術、「第2期」（21年7月～22年9月・25社）はBio-Informatics、New Chemical Space、「第3期（22年10月～23年9月・21社）はプラットフォーム技術をテーマにディスカッションしていると紹介した。

◎「大学のシーズを企業、産業界が興味を持つレベルに育て上げるインキュベーター必要」

藤本社長は今後のVC戦略の可能性について、「ベンチャーが次々に育つアメリカのような状況に（日本は）なっていないと思う。文科省を中心に大学の研究に対する投資も進んでいると思うが、それが育って企業やVCが興味を持つレベルまで育つにはかなりの時間がかかるのではないかと思う」との認識を表明。続けて、「早期にキャッチアップするにはアカデミアで育ったシーズをいち早く企業が見て、産業界が興味を持つレベルまで育て上げてしまうようなインキュベーターの力が今後どんどん必要になってくると思う」と述べた。

また、世界のエコシステムをリードする米国ボストンとアイパークのコラボレーションについては、「まだステージが違い過ぎる」と率直な印象を述べながらも、「先方も、日本から何か面白いものが出てくるってことはよくわかっている。だから、きちんとエコシステムが発展して、大学も企業のスタートアップの技術も育つような環境ができて、情報が集約さればもっと彼らからのアプローチも盛んになってくるかなと思っている」と期待感を示した。