アステラス製薬 DXでデータドリブンな経営判断を目指す アナリティクスとモデリングで価値最大化
公開日時 2023/03/28 04:52
アステラス製薬の新社長に就任する岡村直樹代表取締役副社長経営戦略担当(CStO)は3月27日のメディア説明会で、同社が目指すDXの姿について、「経営判断から個別プロジェクトまで、あらゆるデータが有機的に接続され、“価値”を最大化している状態だ」と強調した。すでに研究開発戦略では「Focus Areaアプローチ」として、科学の進歩を価値に変えるアナリティクス(解析)とモデリングが意思決定をサポートしている。加えてポートフォリオのプロファイリングからビジネスモデルを示唆するデータドリブンな経営DXにも注力する方針だ。
◎アナリティクスを使うことで、経営、意思決定の効率化につなげることができる
「デジタルトランスフォーメーション(DX)は必ずしもビジネスの部分だけではない。実はアナリティクスという技術を使うことで経営そのもの、あるいは意思決定の効率化につなげることもできる」-。岡村副社長はこう強調した。続けて、「変化する医療の最先端に立ち科学の進歩を患者さんの価値(Value)に変えることができる」と述べ、同社が目指すDXの姿を鮮明にした。
同社は、①遺伝子治療、②がん免疫、③再生と視力の維持・回復、④ミトコンドリア、⑤標的タンパク知る分解誘導-を研究開発戦略のプライマリフォーカスに位置づけている。さらに“Focus Areaアプローチ”として、科学の進歩を「価値」に変えるアナリティクスを最先端のバイオロジーと革新的なモダリティ/テクノロジーの組み合わせに応用し、柔軟かつ効率的な創薬機会の特定に応用している。岡村副社長は、「非常に最先端の科学で不確実性が高く、かつそれぞれが絡み合っていて同じプライマリフォーカスの中だけもプロジェクトの優先順位が変わってくる。非常に複雑な形で、この単純な数値だけで経営していけるかというとなかなかそういうわけにはいかない」と述べ、「ポートフォリオを構成していくためには、アナリティクスとモデリングが不可欠な要素となっている」との見解を示した。
◎データやアナリティクスを活用して全社横断でDXを担う部門「AIA」を設置
同社は全社横断の経営課題について、データやアナリティクスを活用してDXを担う部門として「アドバンストインフォマティクス&アナリティクス(AIA)」を設置している。高度なデータ解析を得意とする部署で、2023年度中に情報システム部と統合することが決まっている。
伊藤雅憲アドバンストインフォマティクス&アナリティクス・シニアディレクターは、「不確実性が高い一方で、巨額の投資が必要になる。何にいつ投資すべきか、非常に難しい判断が求められる」と指摘。「Focus Areaアプローチを通じ、最先端のバイオロジーやモダリティテクノロジーの組み合わせを駆使し、アンメッドメディカルニーズの高い疾患に対する革新的な医薬品の創出に取り組む」と強調した。また具体的な取り組みとして、「アステラス製薬はデータ駆動と仮説思考型シミュレーションの両方を活用して経営のDXを進めている。これがアステラスの競合優位なアナリティクスのケイパビリティだと考えている」と述べた。
データ駆動利用したDXの事例では、プロジェクトの進捗管理におけるデータの見える化として、「戦略目標に紐づくプロジェクトの進捗状況を視覚化し、プロジェクトの優先順位付けやトレンドの抽出を可能にしたことで、データ入力から分析結果までの期間を3日から15分に削減できた」と報告した。このほか、製品の安定供給のための需要分析(サプライチェーンマネジメント)や、アーリーステージのプロジェクト進捗と投資判断などの取り組み事例を紹介。「プロジェクトのステージが早期であればあるほど、戦略的に撤退したり、逆に適応疾患を拡大して価値を飛躍的に増大したり、状況に応じた多彩な意思決定ができる余地が大きくなるということ。言い換えると、失敗した場合のコストを小さくできる一方で、成功した場合の価値を大きくできる機会が多いことを意味する」と述べた。