中医協 高額薬剤対応でゾコーバ錠の薬価収載議論をスタート 支払側「留意事項通知の対応も」
公開日時 2023/01/26 05:30
中医協薬価専門部会は1月25日、新型コロナ治療薬・ゾコーバ錠が年間1500億円超の市場規模となる可能性を否定できないことを踏まえて議論し、薬価収載に向けて同剤に限った対応を行うことを了承した。厚労省保険局医療課は、同剤について新型コロナの感染動向の影響を受けることから、予測販売額の設定が難しいなどの特殊性があると説明。市場拡大再算定や費用対効果評価などでは急激な市場規模の拡大に迅速に対応できないことも示した。支払側の支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「留意事項通知等で患者を制限した上で市場規模を見込むということも考えられる」と述べた。今後は、製薬業界団体などのヒアリングを踏まえて、検討を進める。
◎22年度薬価制度改革での高額医薬品への対応を初適用
今回の議論は、2022年度薬価制度改革骨子で、高額医薬品への対応として、「年間1500億円の市場規模を超えると見込まれる品目が承認された場合には、通常の薬価算定の手続に先立ち、直ちに中医協総会に報告し、当該品目の承認内容や試験成績などに留意しつつ、薬価算定方法の議論を行う」ことが盛り込まれたことを踏まえたもので、初めての適用となる。
ゾコーバ錠については2022年11月24日の供給開始以降、1月16日時点での投与患者数は累計約1万7500人。新型コロナの新規陽性者は年間約2700万人で、約0.2%の陽性者に投与されている。
薬価専門部会に先立って開かれた総会で、厚生労働省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は、経口新型コロナ治療薬としてすでに薬価収載されているラゲブリオカプセルを引き合いに、「仮に9万円の医薬品が昨年と同程度の感染者数で、そのうち1、2割の患者さんに使用されたと仮定すると、試算上は2430億円から4860億円と数千億円規模になる」とした。1治療当たりの薬価が9万円を下回ったとしても、投与患者数によっては年間1500億円超となる可能性があると説明。高額医薬品への対応ルールにのっとって議論することの是非を総会に諮った。診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)が「医療保険財政への影響を考慮した対応であり、診療側として評価する」と述べるなど、診療、支払各側が了承。薬価専門部会での議論に移った。
◎市場規模拡大時も市場拡大再算定や費用対効果評価では迅速な対応難しく
厚労省保険局医療課は薬価専門部会に、ゾコーバ錠の薬価収載に向けた論点を提示した。市場規模が急速に増大した場合などへの対応として現行制度では、市場拡大再算定や費用対効果評価により、市場規模が大きい品目の価格調整が行われている。ただ、新型コロナでは感染動向の予測が難しく、患者数の急激な増減が生じる。このため、「感染者数を踏まえた投与患者の推計や市場規模予測が非常に困難だ。使用が増大しない段階での市場規模予測も難しい」と説明。市場拡大再算定については、NDBデータに基づいているが、集計や評価などに時間がかかり、「実際に市場規模が拡大してから改定後の薬価が適用されるまでには8ヶ月程度の期間を要する」と説明。急激な市場規模の拡大への迅速な対応が難しいと説明した。費用対効果評価については、「急激な市場規模の拡大に迅速に対応する趣旨のものではない」とした。
◎診療・支払各側 市場拡大時にスピーディーな対応求める 再算定のルール見直し求める声も
診療側の長島委員は、「感染者数や薬剤の使用量が推定できるデータの活用や、機動的な販売数量の把握のためには、製造販売業者から出荷数量を入手するなどして投与対象者数や市場規模予測をタイムリーに推計したうえで迅速に価格調整を行うべき。さらに、当然ながら収載後、費用対効果評価もしっかり行うべき」と述べた。診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)も、「国民皆保険の持続可能性の観点からも患者数が急増し、市場規模が高額となると想定された場合には速やかに中医協で判断できるよう、何かしらの推計値を用いるなど、スピード感を持った対応が行える仕組みが必要」と述べた。
支払側の松本委員は、「ゾコーバが新型コロナで初の国産新薬ということは事実だが、支払側、保険者の立場としては、今後も続くであろう、極めて厳しい財政状況を大前提として、この範囲内でイノベーションを評価せざるを得ないということは強く主張する」と強調。ゾコーバ錠については、学会から重症化抑制のデータがないことなどから、既存の新型コロナ治療薬と位置づけが異なる点を考慮する必要性を指摘。「学会から症状が強い場合に処方を検討することが推奨されており、そもそも重症化リスクのない軽症患者の薬物治療は慎重に判断することも指摘されている。留意事項通知等で患者を制限した上で市場規模を見込むということも考えられる」との見解を示した。
支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は、「投与患者数の推計や市場規模予測が極めて困難であるため、医療保険制度の持続可能性を高めるためには、やはり現行の市場拡大再算定のルールを見直し、薬価収載後の価格調整を現行より以上に迅速に行えるような仕組み、環境を整えていく必要がある」と述べた。
◎診療側・長島委員 緊急承認品目は「本承認時に使用状況踏まえて改めて算定でもよいのでは」
薬価収載時の薬価算定については、類似薬効比較方式が原則となっており、同剤は類似薬の候補が存在する。ただ、対象疾患や薬理作用の類似性から新型コロナ治療薬を類似薬とした場合と、呼吸器感染症に対して重症化リスクに関わらず投与される抗ウイルス薬として抗インフルエンザ薬を類似薬とした場合で、薬価に大きな開きがある。また、ゾコーバの対象患者が「軽症から中等症1の患者」とされており、既存治療薬よりも投与対象が広がることが想定される。
診療側の長島委員は、「臨床成績はプラセボ群と比較して、5つの症状が回復するまでの期間が24時間程度短縮される程度のもので、その点も踏まえた薬価となるよう留意すべき」と述べた。また、比較薬については新型コロナ治療薬のベクルリー点滴静注(1治療当たり、25万3368 円)やラゲブリオカプセル(9万4312円)を「類似薬とするのは適当ではない」と述べた。また、同剤が緊急承認された経緯を踏まえ、「安定供給への見通しに対する配慮の観点からも早急な価格算定を行うことが適当だ。このように算定された薬価については薬機法における本承認の際に承認事項や評価されたデータ、その間の使用状況等も勘案のうえで薬価算定を改めて行うという取り扱いにすることでも良いと考える」と述べた。
支払側の安藤委員も、ラゲブリオは類似薬に当たらないとしたうえで、「インフルエンザに用いる抗ウイルス薬剤を比較薬としたうえで、市場拡大再算定、そして費用対効果評価の組み合わせで対応するというのが基本のラインであると考えている」と表明。「その際に考慮に入れておく必要があるのが、新薬開発へのイノベーションを起こすことへの意欲を阻害しないようにすることも重要」と述べた。
支払側の佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)は、「既存の抗ウイルス薬とは投与対象患者や投与目的が異なるというゾコーバの位置づけや、臨床的な効果も踏まえつつ、本来は患者にとってなくてはならない選択肢となりうるのかといった患者からの視点も踏まえながら、慎重な検討が必要」と述べた。
◎支払側・松本委員 業界ヒアリング「個別企業の意見を聞く場ではないことに留意を」
このほか、業界ヒアリングについて支払側の松本委員は、「あくまで業界としての意見を調整するものであり、個別企業の意見を聞く場ではないということには十分留意いただきたい」と釘を刺した。