中医協薬価専門部会が12月7日開かれ、日米欧製薬3団体からヒアリングを行った。23年度改定の焦点となっている後発品を中心とした安定供給をめぐり、支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は、「今回の中間年改定においては、特にその販売価格も低く、かつ製造コストの値上がりの影響が大きい後発品については、安定供給確保のために慎重な検討が必要ではないか」と述べた。薬価上の不採算品再算定の検討などに加え、年末の予算編成に向けて、診療報酬改定以外での対応の必要性も指摘した。このほか、改定対象からすべての新薬を除外すべきという製薬業界の主張に対し、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)が「やや具体性に乏しい根拠」と述べるなど、否定的な見解を示した。
◎支払側・安藤委員 安定供給の端緒にGMP違反「安定供給と薬価は別の問題」
この日の中医協に厚労省は、日薬連が安定供給確保について実施したアンケート調査結果を報告した。通常出荷は71.8%にとどまり、後発品では59.0%となっている(22年8月末時点、
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支払側の安藤委員は、医薬品の安定供給問題が小林化工や日医工の行政処分に端を発したものであると指摘し、「現在我々は中間年改定の薬価について議論をしているが、安定供給の問題と薬価とは別の問題と認識して議論をしなければならないのではないかと考えている」と述べた。「私は、安定供給を実現するためには薬価をただ単に下支えしても何の効果もないと考えており、そこは後発品業界全体の改変が不可欠であると考えている」との考えを示した。そのうえで、6割の通常出荷を続けるジェネリックメーカーについては、「GMP問題は発生させたメーカーに代わって代替生産を必死に行っているメーカーも存在する」として、後発品への対応の必要性を認めた。
ただし、「薬価改定全体的には特別に配慮すべき事情があるとまでは言えないのではないかというのは率直な感想」とした。物価高騰などへの対応については、「報酬改定以外の形で何らかの財政的支援を講じること、個別に対象品目の精査を行ったうえで、実勢価改定と連動しない措置を安定供給のために実施する等の工夫の余地はあるものの、21年度薬価改定の前例を踏まえつつ、現現時点では平時のルールに基づき改定すべき」と強調した。なお、実勢価改定に連動しない救済ルールとしては不採算品再算定がある。
◎GE薬協・高田会長 ジェネリックの産業構造やビジネスモデル転換「24年度改定で検討を」
業界再編の必要性が指摘されるなかで、日本ジェネリック製薬協会の高田浩樹会長は、「まずは、供給体制の強化を優先的に考えて取り組んでいる。今後、品目が多いというご指摘、集約化等の検討におきましては、24年度改定のなかで、産業構造あるいはビジネスモデル等の見直しも含めた薬価制度改革において検討をいただければと思っている」と述べた。
◎日薬連・岡田副会長 医薬品安定供給で改定品目すべてに一定幅の上乗せ措置を要望
なお、医薬品の安定供給をめぐり、製薬業界側は「特許期間中の新薬や安定確保医薬品などは改定の対象品目とすべきではない」と主張。直近の物価高騰などで採算性が著しく悪化している品目については、「23年度の薬価改定の実施に関係なく、安定供給確保のため緊急的に薬価を引き上げる措置を実施すべき」と述べた。日本製薬団体連合会(日薬連)の岡田安史副会長(製薬協会長、エーザイ)は、「直近の物価高騰や円安の影響は幅広い範囲の医薬品に影響を与えている。改定対象となる品目すべてにおいて、改定後薬価に対して一定幅を上乗せする。21年度改定でコロナ特例として0.8%の上乗せ措置がなされたが、例えばそういう措置が考えられるのではないか」と主張した。
◎原材料高騰などへの特別な配慮は「ヒアリングを拝聴する限り合理性に乏しい」 支払側・松本委員
22年薬価調査の結果として平均乖離率が7.0%だったことについて問われた、日薬連の岡田副会長は現行の市場実勢価格の課題を指摘。専門委員の赤名正臣氏(エーザイ)は、「薬価改定は平均乖離率まで調整をしているということになるので、薬価改定が起きたその瞬間であっても薬価差が生じている。半分というか加重平均なので、改定した段階でゼロクリアになるわけではなくて、改定した段階ではまだ乖離があるということからスタートしている。毎回7%が出ているということではなく、その雪の上に残っている部分が積み上がって変更されているということになる。若干乖離率の縮まる幅が少ないという指摘もあると思うが、根雪の部分を阻害すると、かなり改善しているのではないか。精査が必要かと考える」と述べた。
支払側の松本委員は、「例えば製造原価や流通経費の高騰が反映されて乖離率が縮小ということであれば、市場実勢価格が適切に形成されたと理解はするが、若干瞬間的な捉え方とか、特殊要因的なお話もあったので、もう少し理解を深める必要があろうかと思う」と述べ、原材料高騰などの影響が市場取引には影響ないことを確認した。そのうえで、「短期的な為替変動や原材料価格の高騰については、薬価制度として特別な配慮をする合理性というのは、ヒアリングを拝聴する限りでは乏しい」と述べた。
◎供給不安 診療側「医療機関側の負担増大」 支払側「国民、患者も不利益」
出荷調整が続いている状況に対し、診療側の長島委員は「まさにそのことを実感している。毎日の診療に使う医薬品が不足し、大変困った状況になっている。医療機関には全く何の責任もない理由によって、医療機関の負担が大幅に増大している。また結果としては、患者の皆様に大変大きなご迷惑をおかけしている状況にある。ぜひこの点を皆様の共通の認識としていただきたい」と強調した。これに対し、支払側の松本委員が「ご苦労はよく理解をしている。ただ、国民、患者にとっても日頃から使っている薬が入手できない、別の形で薬局を回らなければならないなど、不利益を被っていることに関してもぜひご理解を賜りたい」と応じる場面もあった。
◎診療側・長島委員 原価計算開示度の低さなども問題視 新薬すべてを対象除外に否定的
製薬業界はこの日も、改定対象から新薬を除外することを要望した。新薬創出等加算品だけでなく、“新薬すべて”を除外することを要望した理由を問われた、専門委員の赤名氏は、「特許期間中に新薬の薬価が維持されるということがグローバルではスタンダードであるということだ。こういったスタンダードが外れることによって、日本の市場の魅力が低下し、新薬アクセスの低下がもはや顕在化している」と述べた。
診療側の長島委員は、「特に中間年改定という対応という観点からは、やや具体性に乏しい根拠ではないかというような印象を受けた。イノベーションの評価は重要な視点ではあるが、例えば原価計算方式で算定される場合の原価の開示度が低いまま推移していることなど問題も指摘されているなかでは、前回の中間年改定である21年度改定を超える対応をするのは慎重に判断すべき」と述べた。
◎支払側・松本委員 イノベーション評価を中間年に導入するならば「ほかのルールも通常改定と同じに」
支払側の松本委員は、イノベーションの評価に理解を示したうえで、「イノベーションの評価というものに今回新たに踏み込むということは、中間年改定であっても他のものも全部しっかりやるということになる。実質的には、通常改定と同じルールになっていくということに私は受けとめるので、そのことだけコメントさせていただく」と釘を刺した。