財務省主計局は11月7日の財政制度等審議会財政制度分科会に、2023年度薬価改定について、「物価高における国民の負担軽減の観点から、完全実施を実現すべき」と主張した。毎年薬価改定の初回となった21年度改定は限定的な実施となったが、「医薬品市場は拡大しているとの指摘もある」と強調。高齢化のピークが近づき薬剤費が増加傾向にあることに加え、物価高騰が国民の生活にのしかかるなかで、国民負担軽減の重要性を強調した。全品目に対して、すべてのルールの適応を提案。後発品などで安定供給をめぐる課題が顕在化するなかで、「不採算品再算定」の適用を求めた。
◎財務省主計局の問題意識「薬剤費総額は経済成長を上回って推移している」
増加傾向を続ける薬剤費に財務省主計局は問題意識を表明する。この日の財政審では、「既存薬価の改定率は例年マイナスとなっているが、薬剤使用量の増加や新規医薬品の保険収載により、薬剤費総額は、経済成長を上回って推移している」と指摘した。また後期高齢者では薬剤費が増加することを示し、高齢化の進展に伴って薬剤費のさらなる増加が見込まれるとした。新型コロナワクチン・治療薬の購入に際し、「多額の予算が計上されていることにも留意すべき」とした。
こうしたなかで、物価やエネルギー価格の高騰が国民生活を直撃している。製薬業界からは物価高騰を踏まえた薬価上の下支えを求める声も上がっているが、財務省主計局は、米国では物価上昇のなかで国民負担を軽減するため、特例的に医療保険 (メディケア)の薬価を引き下げる法案を成立させたことをあえて紹介し、日本も例外でないとの認識を滲ませた
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◎毎年改定のなかで「2年に1度しか適用されないルールあるのは説明が困難」
21年度薬価改定では、乖離率5%超(平均乖離率8%の0.625倍)、約7割の品目が改定の対象となった。財務省は、「価格乖離の大きな品目に限定」して実施したと説明。適用ルールは、実勢価改定と連動してその影響が補正されるもののみとなった。財務省主計局は、「毎年薬価改定が行われるなかで 、2年に1度しか適用されないルールがあるのは説明が困難」と指摘し、「実勢価改定と連動しない算定ルールについても全て適用すべき」と主張し、2年に1度の改定と同様の改定を行う“完全実施”を求めた。
21年度改定で適用されなかった主な薬価算定ルールである、不採算品再算定については、「不採算品再算定が適用されないことにより、保険医療上必要性が高い品目について、製造等の継続が困難になり、安定供給に影響を及ぼすおそれ」があると2年に1度しかルールが適用されない弊害を指摘した。また、「新薬創出等加算の累積額の控除」については、「上市のタイミングの差で、加算期間で最大 2年間程度の適用の差が生じる」として、「収載のタイミングによる不公平も生じる」と指摘した。このほか、小児や希少疾病の効能追加時の加算や、長期収載品のG1・G2ルールなどを含めたすべてのルールの適用を求めた。
◎調整幅「少なくとも段階的縮小を」 既存医薬品の保険給付の範囲のあり方検討も
調整幅については、合理的な根拠のないまま、一律2%という水準が20年間手固定されていると指摘。「薬価改定の効果を目減りさせ、保険料負担・患者負担・公費負担を嵩上げしていることは妥当ではない。可及的速やかに、廃止を含めて制度のあり方を見直し、少なくとも段階的縮小を実現すべき」と提案した。このほか、既存医薬品の保険給付範囲のあり方を検討する必要性も指摘した。
◎国民負担軽減で米国では薬価引下げ 日本でも「特に異論はないのでは」
出席委員からは、「日本の医薬品メーカーの国際的プレゼンスが低いことが問題だ。薬価に守られて、イノベーションが生まれづらくなっているのではないか。その観点からも薬価を下げた方がいい。また、最近の物価高の中で国民負担を軽減していくということも重要だ。薬価の引き下げはアメリカもやっているし特に異論はないのではないか。今回の薬価改定において対象品目を限定しないで幅広くルールを適用していくことに賛同する」との意見があがったという。
◎新型コロナ治療薬「薬事承認がされた治療薬は早期の薬価収載を働きかけるべき」
このほか、新型コロナ治療薬・ワクチンについても言及。新型コロナ治療薬については、感染症拡大時に備えて大量に国が予算措置を講じてきた。財務省は、「足元では 治療薬の8割程度が残っており、これらは順次使用期限が到来する」と指摘。「今後は、他の疾病との公平性や効率的な流通を確保する観点からも、薬事承認がされた治療薬については、早期の薬価収載を働きかけることとが必要ではないか」とした。また、「新たに治療薬を購入する場合には 、早期の薬価収載を求めるともに、現場での有効性の検証や使いやすさ(併用禁忌が少ないなど )も見極めつつ、一度に大量に購入するのではなく薬価収載までに必要な数量を段階的に購入するようにすべきではないか」と提案した。なお、治療薬の購入に関して20年度以降の執行見込み額は1兆1155億円にのぼっている。
◎新型コロナワクチン 接種費用の全額国費「特例的な措置は廃止すべき」
新型コロナワクチンについては、「重症化率や他の感染症とのバランス等をみながら 、定期接種化を検討すべきではないか」と提案。現状ではワクチン接種のすべての費用を全額国費で賄っているが、「他のワクチン接種と比較して特例的な措置は廃止すべきではないか」としている。日本ではブースター接種の対象範囲が広く、回数も多い。人口当たりの接種回数も伸びている状況だ。一方で、ワクチン接種の体制整備も含めて多くの予算が投じられている。重症度が季節性インフルエンザを下回るとの指摘もあることを踏まえ、ウィズコロナを見据えた接種体制の構築が必要とした。
研究開発については、国産ワクチンの開発する5社の大規模臨床試験などの実施費用について支援しているが、「1社は開発を中止し、4社も開発には至っていない」と説明。「ワクチン開発の支援にあたっては、各企業の人材、規模、海外企業との連携も含め研究開発能力があるか十分チェックすべきではないか」と指摘した。また、ワクチン開発はグローバル企業4~5社の寡占状況となっており、国内ワクチンメーカーの売上に比べ、「海外の主要ワクチンメーカーの売り上げは 、多くの場合1ケタ以上の差があり 、こうしたグローバル市場における企業規模の問題を考えていく必要」があると指摘した。治療薬・ワクチンの支援については、一部内容が重複している部分があるとして「今後、役割を整理したうえで、個々に必要性を判断すべき」と指摘。「国費だけでなく 、研究成果により受益する可能性がある 民間企業に拠出を求める枠組についても検討が必要」とした。
◎リフィル処方箋の医療費効率化効果「早急な検証が必要」
このほか、22年度診療報酬改定で導入されたリフィル処方箋については、導入・活用促進で、医療費効率化効果を▲0.1%(医療費で470 億円程度)としていたが、「その早急な検証が必要」と指摘した。日本保険薬局協会(NPhA)が実施した調査では、リフィル処方箋の受付割合は0.053%で(関連記事)、単純推計では▲0.005%程度(医療費で20億円程度)にとどまるとしている。