製薬企業に求められるこれからのオムニチャネルとは? (1/2)
医師と製薬企業の対談を通してオムニチャネルを考える
公開日時 2022/09/12 00:00
提供:株式会社HOKUTO
コロナ禍以降、デジタル化を中心とした医師への情報提供の多様化が急速に進む中、オムニチャネルへの取組みに注目が集まっている。そんなオムニチャネルの現状と課題、今後への期待について医師と製薬企業の視点からお話を伺った。
“スペシャリティ化で高まるオムニチャネルの重要性”
-コロナ禍も3年目に突入し、医師と製薬企業のタッチポイントが変化しているように感じていますが、その中で製薬企業のデジタルマーケティングはどう進んできたのでしょうか?
宮本:デジタルマーケティングの観点では、やっていること自体はコロナ禍前と大きく変わってないと感じています。実際、BMSでは医師の個別化したニーズに対応しようとコロナ禍以前よりLINEを活用した取り組みなどを進めています。また、この3年間で新しいデジタルチャネルが出てきたかというとそうでもないと思います。チャネルの種類などが変わったというより、デジタルに対する予算や注力度合い、あとは医師のチャネルに対する使用頻度や滞在時間が変化してきたのではないかと考えています。
-少し前まではマルチチャネルという言い方をしていたと思いますが、オムニチャネルについてはどのように捉えてらっしゃるでしょうか?
宮本:オムニチャネルとマルチチャネルの違いは、一言で表すとユーザー中心のコミュニケーションやエンゲージメントを作れるかが大きな違いと捉えています。我々もマーケティングプランやブランドプランを作る過程で、オムニチャネルをどのように構築するかについて話が出ます。その中において、どうしても「どのチャネルをどうするか」といった、チャネルミックスの話に終始してしまう部分があります。これは他の業界でも似ていて、自分達のリソース配分という戦略上の一番重要なことを考えると、どうしても自分達目線でのチャネルシフトやデジタルシフトの話になることが多い。しかし、これだとマルチチャネルを強化しているだけで、オムニチャネルへ移行できていないことになります。そのため、ユーザーからどういったデータをもらえるか、ユーザーとどうやってエンゲージメントを作れるかといったプロセスを重要視して進めています。
-BMSでの取り組みについて簡単にご紹介いただけないでしょうか?
宮本:詳しく申し上げられない部分があるのですが、価値あるデータを収集し、分析するプロセスをどう設計するかががオムニチャネルを実行する上での基礎体力として重要だと考えています。例えばVRを活用したソリューションなどを検討していますが、基本的にはデータをどうやって我々のもとに集約して、ビジネスをより良くするために活用するかを考えながら取り組んでいます。
-近年、医薬品は生活習慣病などのプライマリ領域から、スペシャリティ領域にシフトしてきています。その中で、マーケティング自体が従来型のシェアオブボイスの時代から大きな変化を遂げていると思いますが、スペシャリティーファーマとして気をつけているポイントなどあれば教えていただけないでしょうか?
宮本:2017年前後から需要喚起やコミュニケーションなどを目的としたプロモーションの媒体がTVからインターネットへ大きく変わり、それ以降どの業界でも個別化が始まったと捉えています。更に、スペシャリティ領域では求められる情報が細分化されていくため、(マーケティング手法と提供情報の)掛け算としての個別化がポイントだという印象を持っています。もちろん無制限にチャネルの利用やコンテンツを作れるわけではないので、個別化する需要をどうやって正確に把握するかがより重要であると考えています。
“医師視点でのオムニチャネルとは”
-宮本様からは製薬企業の視点でオムニチャネル化が重要であると伺いましたが、医師視点では情報取得に関してはどのように感じているでしょうか?
山下:宮本様のお話でも出ていた個別化をデータで特定し、それに対して複数のチャネルを使い分けて情報を提供するというのが理想型だと私も思います。しかし、医師からみると、それぞれのチャネルにおける個別最適化はされていても、それをどう組み合わせることで情報提供するかという全体最適を上手く実現できているケースは珍しいと感じています。
-コロナ禍以降でデジタルでの情報収集が増えたと思いますが、この点についてはいかがでしょうか?
山下:私を含め若い世代ではMRとほとんど関わりがない医師が増えています。そういった医師はMRから情報を受け取ることをイメージできていないため、デフォルトの情報収集がデジタルになっている先生が多いです。
また、上の世代の先生に対し、「コロナ禍でMRが訪問できないことをどう思っているのか?」と聞くと、「なんとかなっている」とおっしゃる先生が意外に多いイメージがあります。ただし、能動的にデジタルで情報収集することが苦手な先生や、今までMRから情報提供を多く受けていた先生からは、「もう少し来てくれた方がいいよね」という声も聞くため、情報の受け取り方は多様化が進んでいると考えています。
-そういった中で、どのような情報提供が望ましいかについてはどうお考えでしょうか?
山下:医師一人一人のユーザーエクスペリエンスに沿った情報提供が大切だと考えています。例えば、チャネルの種類を問わず、情報を受け取るときのタイミングも受け手としては重要です。昼食を食べながら説明会を受けている時と、目の前に患者さんが来ていてその情報を知りたいと思っている時では、同じ内容でも受け取り方が全然違ってくる。Google広告が検索データを駆使してユーザーが情報を求めるタイミングを狙っているように、同じ情報を同じ人に届けるにしても、受け取りたいタイミングで渡すことができれば多くの医師に好ましいと思われるでしょう。
-今、タイミングというお話がありましたが、どのようなタイミングでどういう情報提供があれば診療に役立つという実体験はありますでしょうか?
山下:例えば、細かい適応や投与量の計算方法、あるいは副作用をどう管理するかなど、MRから情報を受け取った時は「そうなんだ」くらいで、その場では覚えられず聞き流してしまうことが結構あります。しかし、診察や治療をしていて疑問に直面した時は、「MRの方がなんて言っていたかな」と説明を受けた時の資料を探すようなことが起きています。
ドクタージャーニーを考える際には、認知をさせる部分ももちろん重要ですが、こういった情報を必要なタイミングで提供することにもニーズがあります。
-今日のテーマはオムニチャネルですが、医師の「MRにちょっと確認したいな」というようなニーズに対する情報提供で心がけるべきポイントはありますか?
山下:医師目線では、欲しいと思った情報にアクセスするためのハードルが意外と高いなと感じています。自分に合った情報をどこからどのように仕入れたら最短で手に入るのかがわからない。だから、とりあえず知り合いのMRに連絡するであったり、Googleで検索するであったり、その時思いついた行動を取ってしまいます。この問題に対しては、それぞれの先生に合った、相互にリンクした情報提供経路をうまく構築する必要があり、どの経路からでも医師が素早く情報を入手できるようにするのが重要だろうと思います。