ノバルティス ファーマ 鳥居正男取締役会長が8月で退任 日本法人社長4社28年間のキャリアにピリオド
公開日時 2021/07/21 04:53
ノバルティス ファーマの鳥居正男取締役会長は本誌取材に応じ、取締役会長を8月に退任する考えを明らかにした。鳥居氏は、1971年に日本ロシュに入社し、製薬業界でのキャリアをスタートさせた。その後、4社の外資系製薬企業の日本法人社長を通算28年務めた。外資系製薬企業の社長在任期間として過去最長だ。社長職以外にもPhRMAとEFPIAの副会長職をそれぞれ務め、厚労省、医師会、医学会、患者団体等との対外的な活動にも貢献した。製薬業界に身を置いて50年。そのキャリアにピリオドを打つ。
◎ローヌ・プーラン ローラー、シェリング・プラウ、日本ベーリンガーの社長歴任
鳥居氏の外資系製薬企業の日本法人社長としてのキャリアは、1993年のローヌ・プーラン ローラーの日本法人の代表取締役社長就任から始まる。1995年には米国のシェリング・プラウから日本法人の社長を依頼され、15年間を務めた。その後、MSDによる買収が決まるのと同じタイミングでドイツのベーリンガーインゲルハイムから声が掛かる。日本法人社長は当初4年の契約だったそうだが、2年延長して欲しいということで トータル6年務めた。ベーリンガーの社長就任時に63歳だった鳥居氏も、「これで現役卒業か」と思ったそうだ。その後にノバルティスホールディングジャパン(当時)の社長就任要請の話がくる。鳥居氏は、「これこそ最後の奉公と思って引き受けた。ここでも当初は2~3 年程度を想定していたのだが、結果的に5年間やらせてもらうことができた」と強調した。
◎絶妙なタイミングで会社のトップを移る ”運“があったのだと感じている
鳥居氏は本誌取材に対し、「通算28年間、外資系製薬会社の日本法人社長を勤めあげたことは、本当に幸せだ。加えて、絶妙なタイミングで会社のトップを移ることができたことも、本当に“運”があったのだと感じている」と振り返った。
◎どの会社にいても組織に恵まれた 「トップが本気を出せばいい会社になる」という信念
外資系製薬企業の社長を28年間務めたことへの感想を求めた。鳥居氏は、「どの会社にいても組織に恵まれた。頑張れば会社が変わるし、社員の頑張りが見える。頑張れば頑張った以上の結果が返ってくる」と胸を張った。また、自身の信条として「私は外資系のトップでありながら心は大和魂を貫いた」と述べ、「グローバル本社に対して、私が防波堤となって社員を守ると約束し、社員は顧客に対して製品やサービスを思う存分提供して欲しいとのメッセージを常に発した。私は、トップが本気を出せばいい会社になるという信念を持っている」と熱く語ってくれた。
◎一番苦労したのはグローバル本社の信頼 “本社のグリップが強くなった”
一方で、「仕事の面で一番苦労したのはグローバル本社の信頼だ」と明かした。鳥居氏は、「日本法人のトップが本社の信頼を得ていなければ成り立たない。日本人をトップにした場合、商習慣や文化も違うので、いわゆる日本のブラックボックス化を本社は懸念する。法人のトップとして、本社から心配されないように心がけることが結構大変だった」と振り返った。グローバル本社との関係では、「日本に対する信頼が揺らいでいると感じたことがあった」と明かしながらも、その時こそ、頻繁なコミュニケーション、透明感、それからデータや数字を使って納得感のある説明で乗り切ることができたと語った。グローバル本社の変遷についても触れ、「(最近は)本社が先読みして行動することが多くなった。本社のグリップがだいぶ強くなった。日本だけが違うということが減っている」と述べ、もはや「日本だけが」という発想がグローバルビジネスで通用しなくなっていることに警鐘を鳴らした。
◎日本の相対的地位が落ちるとグローバル治験で“日本飛ばし“が起きる可能性を指摘
日本の製薬産業の課題にも触れた。鳥居氏は、「高齢化が進み、社会保障費の増加を押さえないと立ちいかないということは理解するが、良い製品が売れると薬価を下げる。これではイノベーションの評価とはならない。日本の相対的地位が落ちるとグローバル治験で“日本飛ばし“が起きることも無きにしもあらず」と強調した。
鳥居氏は、イノベーションに関して「国の本気度はどうなのかと思う。アカデミアの基礎研究への国の支援は必要だ。オプジーボやアクテムラは日本の基礎研究から生まれた」と指摘。「日本の科学技術予算は約4兆円弱だ。中国は凄いペースで伸びており、22兆円を超えている。米国も15兆円規模。基礎研究を支える日本の科研費は2300億円たらず。米国のNIHは3兆円。日本の科研費は米国の13分の1に止まる。この辺が課題だと思う」と述べた。
※ミクス編集部からのお知らせ
ノバルティス ファーマの鳥居正男取締役会長へのロングインタビューを行いました。取材記事はMonthlyミクス8月号と、ミクスOnlineのプレミアコンテンツとして掲載する予定です。記事では、ノバルティス ファーマ会長の退任にあたって、日本の製薬産業が抱える課題、イノベーションの評価をどう伝えるか、製薬業界で働く人たちに向けたメッセージ-などを一問一答の形で掲載する予定です。ご期待ください。