日本総研 ポストコロナに望まれる日本の医療保険制度で「3つの提言」公表 価値に基づく医療の実装を
公開日時 2021/05/12 04:51
日本総研は5月11日のWebシンポジウムで、「持続可能で質の高い医療提供体制構築に関する提言」を発表した。提言は、①プライマリ・ケアチーム体制整備、②価値に基づく医療を実装、③必要な医療財源の確保-の3点で見解を示したもの。持続可能で質の高い医療提供体制を構築するために「求めたい変化」として、多職種連携で一生涯の健康を診る身近な医療チームの整備や、これまでの医療提供量をベースとした評価から、提供した医療の価値評価へのさらなる移行、そして必要な医療財源を確保するための国民に対する理解の獲得などの考え方を示した。なかでも“医療の価値評価”(Value-based Medicine)では、RWDやデジタル技術を活用した既存医療の有効性再評価や、価値に基づく医療予算の再配分制度の実装なども提言した。
提言は、日本総研の「持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム」が取りまとめたもの。米国研究製薬工業協会(PhRMA)が協賛している。この日のシンポジウムでは、研究チームの川崎真規シニアマネジャーが内容を説明した。
◎一生涯の健康を地域多職種連携で診るプライマリ・ケアチームの整備
「提言1」は、コロナ禍だからこそ見直すべき「かかりつけ医」の役割として、国民の一生涯の健康を地域多職種連携で診るプライマリ・ケアチーム体制整備の必要性が強調された。国民一人ひとりが「一生涯の健康を診るチームを持つ」という発想。ケアチームの体制は、医師だけでなく、看護師や薬剤師、介護士、ケアマネジャーなどで構成し、必要に応じて専門医や自治体などに「橋渡し」する役割も担う。これにより医師の負担軽減や外来機能の分担、入院患者の早期退院などが期待される。さらにAI(人工知能)やアプリなどを用いた多職種連携による治療支援や、患者情報や投薬情報を多職種で分析し、診断を支援することなどで、「一人ひとりに適した個別化医療」をプライマリケアのベースで実現できるとした。
◎価値に基づく評価・報酬制度の整備がカギ 医療産業の研究開発を促進
「提言2」は、デジタル化が可能にする質の高い医療の選択を加速化することをテーマに、価値に基づく医療の実装が求められた。医療の提供量を評価した時代から、提供した医療の価値中心の評価へと転換を促すものだ。質の高い医療の速やかな導入と、逆に質がそれほど高いとはいえない(有効性が高いとはいえない)医療の新陳代謝を進めることで、医療の高度化と技術革新を図るというものだ。これにより製薬企業や医療機器メーカーのイノベーション評価も促進され、医療産業そのものの研究開発も促進されるという画を描いている。同時に、「価値に基づく評価・報酬制度の整備がカギ」とも指摘している。もちろん、ここには診療報酬や薬価についても、“Value-based Pricing”の概念も含まれる。こうした考え方を用いて価値を評価する仕組みを構築し、医療の質向上に活用すべきとも提言した。
◎中長期的な「あるべき医療の姿」を提示 それに見合う提供体制や給付を精査
「提言3」は、国民皆保険を将来世代に引き継ぐために、コロナ禍の今こそ考えるべき医療財政について明示した。あるべき給付を精査し、給付に見合った負担を確保するというもの。この日のシンポジウムでは、日本総研が行った調査結果から、「国民は給付と負担の現状理解を望んでおり、給付と負担の説明前後を見ると、説明後は将来世代のための選択肢を選ぶ方が増加した」との結果も示された。また財源を論ずる際には、「赤字前提の財源」から考えるのでなく、中長期的な「あるべき医療の姿」を提示し、それに見合う医療提供体制やあるべき給付を精査すべきとした。
また3つの提言を通じた「ポストコロナに望まれる日本の医療のあるべき姿」に言及。コロナ禍で国民や社会の関心が高い今だからこそ国民目線での医療のあるべき姿の検討に向けた「考え方の転換」が必要だと強調。国民目線に基づく医療制度全体での提供価値向上と、国民皆保険制度を維持するために 財政の健全性確保が求められるとのメッセージを発した。