日薬連・製薬協 菅新政権発足睨み「薬価中間年改定」阻止で与党議員にロビー活動開始
公開日時 2020/09/15 04:52
日本製薬団体連合会(日薬連)と日本製薬工業協会(製薬協)は9月14日、「2021年度予算概算要求への要望」と題する資料を作成し、与党議員へのロビー活動を開始した。奇しくも自民党総裁選で菅義偉官房長官が安倍晋三首相の後継者として選出された日でもある。安倍政権下で菅氏が手腕を振るった毎年薬価改定(薬価中間年改定)について、陳情しており、その実施が新型コロナウイルス感染症の影響などで「困難な状況にあり慎重な対応をお願いしたい」と改めて訴えた。新型コロナウイルス(COVID-19)対策として、薬剤耐性菌対策にも触れており、「製造販売承認取得報奨制度」や「事前買取り保証制度(備蓄)」などのインセンティブ策導入に理解を求めた。
日薬連と製薬協は菅新政権の誕生を睨み、早くも動き出した。与党議員に向けた要望書の中で、製薬業界側は改めて中間年改定は困難な状況にあることを指摘している。要望書では、「COVID-19対応により、卸と医療機関・薬局との価格交渉の大幅遅延、医療現場の多大な負担、医薬品業界の医薬品の安定供給への努力を踏まえると、薬価改定は困難な状況にあり慎重な対応をお願いしたい」と訴えた。
実際、新型コロナウイルス感染症の影響で、病院・薬局経営が厳しさを増すなかで、流通当事者への価格へのプレッシャーも強いという。ただ、診療報酬に未妥結減算が導入されている影響で、9月中の妥結に論を俟たない状況にある。
独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)での4大卸の談合疑惑の影響もあり、製薬企業側からの流通政策も従来とは異なる状況にある。こうしたなかで、通常では価格の割れない革新的新薬でも下振れの傾向にあるといい、製薬業界の懸念も大きい。ただ、こうした状況下だからこそ、通常では見えない医薬品の本来の価値に見合った価格交渉・取引が行われているとの見方もあるところ。菅氏自身は官房長官時代から毎年薬価改定(薬価中間年改定)の実現に想いを募らせていただけに、与党議員が業界要望をどう受け止めるかが注目される。
◎「製造販売承認取得報奨制度」や「事前買取り保証制度(備蓄)」などで予算確保求める
国会議員への要望書では、新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬の研究開発の強化と安定供給についての予算確保を求めた。「新型コロナウイルス感染症の司令塔が、ワクチンや治療薬について、平時から研究開発・生産・供給まで一貫した戦略を立案・推進することが必要」とした。また、薬剤耐性菌(AMR)に対して、製造販売承認取得報奨制度や事前買取り保証制度(備蓄)など、「インセンティブ策」を導入し、市場環境を整備することが必要とした。製薬協は、同様の主張を明記した「感染症治療薬・ワクチンの創製に向けた製薬協提言」を6月に取りまとめ(
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製造販売承認取得報酬制度とは、「優先度の高い病原体に対する新しい治療薬・ワクチンが、研究開発を経て最終的に製造販売承認を取得した際に、当該企業が適切な利益を確保できるよう、政府または適当な公的機関より適切な報奨(補償)を受け取ることができる制度」と説明。「新規開発への貢献に対する報奨という観点から、その財源は通常の診療報酬制度とは切り離して運用されるべき」、「報奨金額および支払方法(一時金、分割等)は、国と当該企業の間で透明性をもって決定される必要がある」としている。
◎製薬協・中山会長 「平時から感染症に向けた備えを」
製薬協の中山讓治会長(第一三共常勤顧問)は9月11日の医療科学研究所主催のセミナーで登壇し、新型コロナウイルス感染症に対し、ワクチンの生産などで既存とは異なるアプローチを各社が行っていると説明している。同氏は、「もっと平時から感染症に向けた備えを作っていかないといけない。将来に起きたときにより迅速な対応ができるようにしないといけない」と主張した。
この延長としてAMR対策に触れ、「AMRはすでに危ない菌がわかっているが対策が進まない。これがコロナとの違いだ」と説明。対策を取らないことで、「もう一段COVIDの脅威が高まる。是非この問題解決に取り組むべきだ」などと述べ、理解を求めていた。
日薬連と製薬協の要望は、①COVID-19等感染症ワクチン・薬の研究開発の強化、②医薬品安定確保のための原薬等設備整備の支援拡充、③薬価の中間年改定は困難な状況、④研究開発税制の拡充、⑤全ゲノム解析実行計画の迅速な推進、⑥アジア医薬品・医療機器規制調和グラインドデザインの推進、⑦セルフメディケーションの推進―の7項目。