疾患啓発(DTC)研究会 業界初の「疾患啓発綱領」策定 製薬企業に6項目の行動基準を示す
公開日時 2020/07/27 04:52
疾患啓発(DTC)研究会(秋和真一代表理事)は7月22日の定時総会に、新たに策定した「疾患啓発綱領」を報告した。インターネットの普及に伴い、患者やその家族が疾患関連情報をネットから入手するケースが増加している。ただ、ネット情報には根拠に乏しいものも混在しており、治療の遅延や症状の悪化につながりかねない。一方、製薬企業も患者中心の医療を掲げ、様々な形で情報発信を行っているものの、疾患啓発の行動基準が明確化されておらず、活動そのものに誤解が生じることがある。疾患啓発綱領では製薬企業の活動について6つの「行動基準」を明確化した。疾患啓発綱領策定委員会の高橋義宣委員長は定時総会で、「会員企業への周知徹底にとどまらず、業界団体や広告代理店などに説明し、周知する」と述べ、綱領の普及活動に努める考えを明らかにした。
DTC 研究会が製薬企業を対象に行った実態調査(20年2月〜4月実施、43社から回答)からは、疾患啓発活動を行う際に参考にした「情報源」の第1位が「Webサイトの情報」(65%)で、次いで「広告会社の担当者」(63%)となり、疾患啓発活動の拠り所が業界外の慣例や情報となっている実態を浮かび上がらせた。
このため今回の疾患啓発綱領の理念には、「疾患啓発活動が社会に与える影響の重大さを認識し、製薬企業本来の社会的責任を果たすことを使命とする」と刻み込んだ。また「序文」には、「製薬企業が疾患に係わるさまざまな啓発活動をともに進める団体・組織や協力会社とともに、それぞれの立場を尊重し、お互いに協力して使命を達成するため、基本原則となる行動基準を定めて疾患啓発活動に関わる倫理の向上に寄与することを目的とする」と明記した。
◎行動基準の筆頭は「患者さん中心」
疾患啓発綱領は次の6つの「行動基準」で構成される。①患者さん中心、②公明正大、③偏りのない情報、④分かり易い表現、⑤ 不安・不快にさせる表現や繰り返しの排除、⑥自由意志の尊重-。行動基準の筆頭に記した「患者さん中心」では、疾患啓発活動に携わる者の定義に触れ、「患者さんやそのご家族が最適な行動を取るために必要な情報を提供しなければならない」と指摘。「疾患に対する患者さんの不安や治りたいという望みを理解し、より健康につながる方法を示すことで、患者さんの利益を守ることを最優先」すると強調した。
◎関係法令、業界の自主規範、 倫理規定などの遵守を明記
「公明正大」では、そもそも疾患啓発活動が「順法(法律に背かない)、 公明正大、誠実、科学的、客観的でなければならない」と定義。「関係法令や業界内自主規範、倫理規範、社会一般常識を遵守し、多くの有識者が認めるエビデンスに基づく公正な内容を提供する」とし、業界ルールや法令遵守を明記した。
◎自社の利益より「患者・家族」の立場を最優先に
「偏りのない情報」では、「自社の利益を優先した情報に偏ることなく、患者さんやそのご家族が置かれた状況や立場を最優先に考えて提供しなければならない」とした。また、「考え得る全ての治療選択肢や薬物療法以外の健康的なライフスタイル(食事療法や運動療法)についても合わせて情報提供を行う」としている。「分かり易い表現」では、伝える情報について、「患者さんやそのご家族が理解しやすいよう、わかりやすい文章表現を心がけなければならない」と規定。患者さん向け資材は、「それを見る人の視点で 作成し、医学的なデータは分かりやすく平易に解説することで、治療を 続ける動機づけにつなげる」とした。
「不安・不快にさせる表現や繰り返しの排除」では、「患者さんやそのご家族の不安をあおるような恐怖訴求は厳に慎み、治療を進めた後に目を向けさせる前向きな内容が望ましい」とした。「またコミュニケーションの頻度は適度なバランスを考え、 患者さんが必要とするタイミングに合わせて情報を提供する」とした。「自由意志の尊重」では、「疾患啓発活動に携わる者は、健康水準を高めるために医学的に望ましいと考える意思決定を、患者さんが自由意志 のもと選択できるよう活動しなければならない」とした。また、「患者さんを中心に据え、最終的に患者さん本人の判断を最大限に尊重すること」も明記している。