中外製薬 「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を発表 デジタル技術でビジネス革新実現へ
公開日時 2020/04/01 04:53
中外製薬は3月31日、「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を発表した。各プロセスでのAI(人工知能)活用やリアルタイムな安全性情報の提供、医療貢献に向けた新たなソリューション開発など、すべてのバリューチェーンにデジタル技術を活用し、同社のビジネス革新を実現する新たなビジネスプラットフォームの創出に取り組む。加えて、これを実現するデジタル人財の育成・確保にも注力する方針だ。2030年に向け、いわゆる、“デジタルトランスフォーメーション”の実現に舵を切る。
「AI(人工知能)を含むデジタルは社会を変える、産業を変える、中外製薬を変える」―。小坂達朗代表取締役社長CEOは1月30日の決算会見で、デジタル革新に対する熱い想いを語っていた。医療や社会を取り巻く環境変化が激しいなかで、製薬企業にとっても変革の時を迎えている。デジタル化が避けて通れないなかで、デジタルトランスフォーメーションに挑み、2030年に向けて、新たな製薬企業像を打ち出す方針をビジョンでは打ち出した。
「デジタル技術によって中外製薬のビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーター」―。同社が2030年に見据える姿だ。これに向け、ビジョンでは、①デジタル基盤の強化、②すべてのバリューチェーンの最適化、③革新的新薬の創出―を基本戦略の柱とした。
◎「AI×デジタルバイオマーカー×RWD」で真の個別化医療を実現
革新的新薬創出に注力する同社だが、「AI× デジタルバイオマーカー×リアルワールドデータ(RWD)」のケイパビリティ向上と、革新的技術を融合させることで、DxD3(Digital transformation for Drug Discovery and Development)を実現し、真の個別化医療を目指すとしている。従来の治験では、患者の生体データを把握できるのが、病院受診時に限られていたが、ウエアラブルデバイスの活用で把握する、いわゆる“デジタルバイオマーカー”の確立にも注力する。これにより、リアルタイム、かつ継続的に疾患の状態と紐づけて測定することが可能になる。すでに複数製品の開発で、データ把握に際し、ウエアラブルデバイスを活用しているという。また、ePRO(患者情報アウトカム)を活用し、血友病患者を対象とした臨床研究では、薬剤投与や出血の記録に加え、スポーツ内容を記録し、運動と出血との関連性を評価している。
◎ゲノム×臨床データで新たな知見 ロシュグループと連携
こうた取り組みにはデジタル基盤の充実が欠かせない。数千人規模のデータサイエンティストを抱えるロシュ・グループと連携を進める。特に、Foundation Oneを軸にゲノムデータを有する米・Foundation Medicine(FMI)社と、電子カルテを有する米Flatiron Health社が共同で構築した“Clinico-Genomicデータベース”により、ゲノムデータと臨床データの統合解析することなどで、新たな適応が見出せるなどライフサイクルマネジメントへのインパクトも大きい。リアルワールドデータ/エビデンス(RWD/RWE)の活用による承認申請戦略の拡大や臨床開発戦略、実臨床におけるエビデンス高度化などに取り組むとしている。
また、Amazon Web Servicesを活用し、大容量のデータに安全にアクセス、移動、保管する基盤“Chugai Scientific Infrastructure(CSI)”を構築。高いセキュリティレベルが求められるゲノムデータを安全に取り扱えるほか、アカデミアや医療機関、パートナー企業等、外部の共同研究プロジェクトを迅速に推進する研究環境を提供することなども期待できるとしている。
◎“コンサルティングプロモーション”をさらに高度化
情報提供やコミュニケーションツールとしても、デジタルの活用に注力する。医師向け会員サイトの開設や、24時間対応のチャットボットの活用、患者さん・医療関係者向けの疾患アプリの開発、個人視聴型ウェブ講演会の開催などを視野に入れる。MRなどが医療従事者に最適なソリューションを提供できるよう、社内データを利活用するデータ基盤も構築し、“コンサルティングプロモーション”を高度化させたい考えだ。また、リアルタイムに安全性情報を提供できるツールを構築し、医療関係者と患者さんとのオンラインコミュニケーションアプリなど、緊急時に必要性の高い安全性情報をスピーディに提供するデジタルプラットフォームを拡充する考えだ。
このほか、研究、生産、営業の各バリューチェーンのプロセスでAIを活用して最適化を進めるほか、研究所での薬剤分子デザイン~化合物管理~ハイスループットスクリーニングや薬効評価~データ解析といった一連の研究プロセスを統合するIT基盤を整備などで、効率化や革新的新薬創出につなげたい考えだ。