【World Topics】送迎サービスも医療サービス?
公開日時 2020/03/09 04:50
“No-Show”という表現がある。医療では「予約時間に患者が来ない」ことを言う。要するに予約の”すっぽかし”だが、直前のキャンセルいわゆるドタキャンもここに含める。
医療業界はキャンセル料を取らないのが通例だから“No-Show”は医療機関や医師にとってはそのまま収入減に直結する。試算によれば、逸失収入は医師1人“No-Show”1回平均あたり$200(医師の専門により約$100から$1,000までの幅がある)と言われ、米国全体では年間150ビリオンドルにのぼるという。医師や医療機関側の逸失利益は“No-Show”の患者が支払うはずだった金額だけではない、結果的に空き時間となった予約スポットに他の患者を入れていれば得られたはずのオポチュニティ・コストも考慮されなければならない。
https://www.scisolutions.com/uploads/news/Missed-Appts-Cost-HMT-Article-042617.pdf
しかし実は“No-Show”は患者にとってより深刻な問題だ。受診しない患者は当然ながら必要な治療を受けないことになるからだ。予約時間に医療機関に行かなかった(行かれなかった)という確率は、患者によっては5%から55%にもなるという。一方では予約が取れずに待っている患者も考慮しなければならない。米国の専門医不足は深刻で初診患者の平均待ち時間は3週間から3ヶ月と言われている。“No-Show”が解消されれば待ち時間が短縮でき、新患に朗報だ。
期待されているソリューションは医療機関とオンライン配車サービスの提携である。医療機関が患者の診療予約に合わせてあらかじめ移動手段も予約してしまうことによりって患者の“No-Show”を予防する仕組みである。たとえばカリフォルニア州のContra Costa Health ServiceはRoundtripと提携してメディケアやメディケイドの患者などに送迎予約サービスを実施している。
医療機関はオンライン配車サービスと提携することで、患者の“No-Show”率を下げることができるだけでなく、提携配車サービス企業のデータベースに蓄積されるデータから予約をミスしがちな患者についてのより詳細な情報を入手・解析でき、さらに配車サービス導入によるROIの分析等も可能になると期待している。効果が実証されれば医療サービス(医療保険から支払い償還)としていく考えである。
医療送迎に特化した企業にはRideHealth(https://www.ridehealth.com)あるいはLogistiCare(https://www.logisticare.com/transportation)などがあるが、配車サービス大手のリフト(https://www.lyftbusiness.com/industries/healthcare )やウーバー(https://www.uberhealth.com)も医療に特化したサービスを開始している。
なお、米国では、これら配車サービス事業者も医療対応サービスでは患者の個人情報を扱うため、HIPPAコンプライアンとなる必要がある。(医療ジャーナリスト 西村由美子)