旭化成の小堀秀毅社長は11月25日、都内で記者会見に臨み、米国の製薬企業Veloxis Pharmaceuticals Inc.（ベロキシス社）を約1432億円で買収すると発表した。タクロリムスの徐放製剤「Envarsus XR」に加え、米国医薬品市場のプラットフォームを獲得するのが狙い。日米両国で医薬品・医療機器のエコシステムを構築する強みを活かし、ベンチャーとの連携を強化、イノベーションへのアクセスを最大化させたい考えだ。患者のQOL向上に向けた多面的な価値を提供することも視野に入れる。医薬品事業の成長力・競争力強化することで、「健康長寿社会に貢献できるグローバル・ヘルスケア・カンパニーを目指す」と意気込んだ。

◎米国市場に軸足で「革新的イノベーションにアクセス」

買収の背景には、米国市場での事業展開を強化する狙いがある。米国市場は市場規模約53兆円の世界最大のマーケットだ。加えて、成長率も年率７％の伸びを見込む成長市場だ。加えて重要なのが、ベンチャーやアカデミアから数多くの革新的イノベーションが産まれている場だということだ。

坂本修一取締役専務執行役員ヘルスケア領域担当（旭化成ファーマ会長）は、「我々は、市場規模、成長性に着目しているだけでなく、数多くのイノベーションが早いスピードで、アメリカで起きているということをあわせて注目している」と述べた。米国に専門の社員を置き、少額投資やコーポレートベンチャーキャピタルの積極的な活用を進めているという。坂本氏は、「イノベーションにどうアクセスするか、イノベーションを起こしているチームとどうかかわっていくか、常に考えている」と述べ、こうした活動が今回の買収にもつながったと説明した。

医療機器では米ZOLL 社を買収したことで、米国市場をはじめ成長を遂げている状況にある。リチャード・パッカー専務執行役員ヘルスケア領域担当は、医薬品事業でも同様にエコシステムを構築することの重要性を強調。そのうえで、「米国だけにとどまるのではなく、世界において発展的に活用していくことも可能になるのではないか」とグローバルへと裾野を広げることにも意欲を見せた。

◎グローバル・ヘルスケア・カンパニーへ加速　2025年度に売上高6000億円目指す

こうした取り組みを通じ、同社の目指す「存在感のあるグローバル・ヘルスケア・カンパニー」の実現へと加速したい考えだ。医薬品・医療機器と多様な成長ドライバーを有することで、高齢化社会に突入するなかで患者のQOL向上に向けた多面的な価値を提供することも可能になる。ベンチャーなどとの連携も強化されるなかで、新たなイノベーションを生み出す姿を描く。また、制度・政策の影響を受けやすいビジネスであるなかで、将来の不確実性への対応力を高める狙いもある。

同社は、2025年度には売上高6000億円、営業利益800億円を目標に据え、段階から倍増させる計画だ。これにより、ヘルスケア領域をマテリアルや住宅に続く「第3の柱」としたい考え。今後もM&Aの活用を視野に入れるという。

◎高度施設・専門医に特化した情報提供で「高い効率性と収益性」

今回の買収で獲得する「Envarsus XR」は、独自のドラッグデリバリー技術の活用で、最高血中濃度の上昇を抑え、有効成分の濃度を長期間保つことを可能にした薬剤。１日１回の服用ですみ、副作用の軽減も期待できるという。同剤の特許期間は2028年までで、ピーク時売上高700～800億円を見込む。同社の強みである免疫・神経領域を強化。20人の営業人員で、全米で約200ある高度医療施設市場・専門医にフォーカスした情報提供活動などを実施することで、高い効率性と収益性を有するプラットフォームを構築したい考えだ。

株式公開買い付けは、ベロキシス社を100％保有するVeloxis DK社（デンマーク）に対して、12月中に開始することを想定する。公開買付け価格は、1 株当たり 6.00 デンマーククローネ（約 97 円）。すでに上位２株主、取締役・経営陣など発行済み株式・ワラントの約81.2％に相当する同意を取得済という。同社買収後、23年度までに償却し、営業利益で黒字化を見込むとしている。