厚労省・樽見保険局長 フォーミュラリを地域に広げる意義はある 3つの視点を披露
公開日時 2019/04/15 03:52
厚生労働省保険局の樽見英樹局長は4月14日、東大シンポジウムで講演し、地域フォーミュラリについて、「適切な医療提供」、「医療の効率化」、「流通・経済的」の3つの視点から意義があるとの見解を示した。「多職種が地域内で治療内容を(関係者間の)共通理解することになる」と表明。医療費削減だけでなく、薬物治療の標準化を推し進めることで、重複投薬やポリファーマシーの解消を通じ、医療の無駄を改善する意義があるとの考えを示した。地域フォーミュラリの策定については、都道府県の策定する地域医療計画との整合性を図る重要性も指摘した。その上で、議論の進め方にも言及し、医師をはじめとした地域内の医療従事者、地域住民に納得してもらい、地域で合意形成することが重要との考えを強調した。
フォーミュラリは、中医協の2020年度診療報酬改定の検討項目として、後発品の使用促進と並び、「医薬品・医療機器等の適正な利用のあり方」にあげられている。今後、診療・支払各側で本格的な議論が行われる。その一方で地域フォーミュラリを策定する動きも見られており、その代表格として酒田市病院機構(山形県酒田市)や、協会けんぽ静岡支部の取り組みが注目されている。
樽見局長はこの日の講演で、疾病構造が感染症などの急性疾患から生活習慣病へと移ってきたと説明。加えて少子高齢化が進み、高齢単身世代が増加するなかで、「我が国の医療・社会保障全体は地域がキーワードになる」と強調した。また、認知症の高齢者が2025年には約700万にも増加するとの推計を紹介し、これからの政策については、「医療・介護、生活支援それぞれが独立して提供されるのではなく、地域住民のニーズに合致した形で組み合わせて提供されることが必要」との考えを示した。
◎地域フォーミュラリは供給面で「経済的ロスをなくす」可能性も
樽見局長は、地域での多職種連携の重要性が増すなかで、これまでの院内フォーミュラリの取り組みを地域に広げることについて「前に進める一つのツールとなるのではないか」との考えを表明した。
医師や薬剤師も高齢化が進み、労働力が減少するなかで、“医療の効率化”も重要視される。樽見局長は、地域フォーミュラリの導入で、「後発品など、薬剤使用の標準化が行われることは意味があるのではないか」と述べた。さらに流通・経済的な視点からは、安定供給が重視されるなかで、「地域フォーミュラリという形で、医薬品の供給を安定的な形で行うことが、経済的ロスをなくし、労働力減少の観点からも重要だ」と語った。さらに、「地域フォーミュラリは地域での医療提供のあり方をどう考えるかと不可分だ」と強調。各都道府県が地域医療計画を策定するなかで、整合性を取ることの重要性を指摘した。樽見局長はまた、「地域で医療を提供する方との合意をいかに得るかが課題。患者の不安感を払しょくし、納得感を獲得しながら効率化、適切な医療提供体制を構築する観点から地域フォーミュラリを進めていくことが重要な観点だ」と述べた。
地域フォーミュラリの診療報酬上の評価についても言及した。樽見局長は、一つの考え方として、診療報酬・調剤報酬上での加算や減算のほかに、地域フォーミュラリに取り組む地域への予算措置や、データヘルス計画での都道府県への調整交付金などの評価手法を列挙した。そのうえで、「色々なやり方のなかで何が相応しいかをこれから考えていく」と述べた。
◎日薬・山本会長「地域特性に合わせた医薬品の供給体制を」
東大シンポジウムには日本薬剤師会の山本信夫会長も登壇した。山本会長は「医薬品を地域に過不足なく、必要とするところに的確に迅速に供給し、住民が医薬品を適正に使用できる体制を確保する」ことが薬剤師の使命だと語った。
医薬品医療機器等法(薬機法)改正議論のなかで、日本薬剤師会は、過疎地域や中山間地域を含めて医薬品供給を確実に行えるよう、「地域医薬品供給体制確保計画」(仮称)の策定を求めたことも説明。「地域特性に合わせた医薬品の供給体制を組んでいくのは大きな課題だ。すぐに作るのは容易ではない」としたうえで、改正薬機法を踏まえた議論の必要性を指摘した。
地域フォーミュラリについては、医師、薬剤師、地域の想いが異なる可能性に触れ、「薬剤師の想いだけでなく、診療する医師とコラボレートすることがないと難しいので、今後必要になるだろう」とも語った。