アレクシオン aHUS部門の営業体制見直し MRゼロで再スタート 2019年1月から
公開日時 2018/12/27 03:52
アレクシオンファーマ合同会社はaHUS治療薬・ソリリス(一般名:エクリズマブ)の営業体制を見直し、2019年1月から非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)部門にMR(同社ではMCCと呼称)を配置せず、再スタートする。同剤をめぐっては、二次性TMAをソリリスの適応と誤認させる情報提供があったことを本誌が報道し、その後、厚労省から口頭指導を受け、問題が指摘された資材の回収を行った。一方で同社が管理・運営する疾患情報サイトは、厚労省の指導後も、適応を誤認させる研究会・講演会の動画が一時掲載されていたが、12月26日までにすべて削除され、診断基準や治療のフローチャートなどのコンテンツが全て一新させた。
この問題は、同社の販売するソリリスで、2015年に日本腎臓学会や日本小児科学会が策定した「aHUS診療ガイド」の改訂版とは異なる「鑑別診断の流れ」を図示した独自のプロモーション資材を作成し、MR(MCC)を通じて情報提供していた。100万人に2~5人といわれるaHUSに、同社は前年比180%の売上目標を課し、MRに獲得症例ごとの報奨金も支給していた。
ソリリス問題は、9月28日の厚労省・厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会で取り上げられ、同省の森和彦大臣官房審議官(医薬担当)が、「適応の選択について、現場に対する情報提供のあり方に問題があるという指摘は重く受け止めている」と発言。情報提供資材を含めて早急に調査し、「その上で是正すべきものがあれば厳しく指導する」とコメントしていた。その直後に厚労省医薬・生活衛生局はアレクシオンに対し、口頭で指導を行い、同社はMRの手持ち資材に加えて、医療機関や医師への配付済み資材についての回収も行っていた。
◎疾患情報サイトもリニューアル 診療ガイドに沿った診断基準を掲載
すでに疾患情報サイトもリニューアルされ、関係学会が策定した「aHUS診療ガイド」の改訂版に準じた診断基準と治療のフローチャートが掲載されている。これによりソリリスの適応が補体制御異常によるaHUSに限定されることが明確に示された。一方で営業体制については、年明けからaHUS部門の専属MRは配置せず、担当MRは全員他部門に異動することになった。
【Focus:ソリリス問題から見えた課題と教訓】
ソリリス問題の第一報を伝えた9月26日のミクスOnlineには、奇しくも厚労省が前日に公表した「販売情報提供活動ガイドライン(GL)」の記事も掲載されていた。編集部が意図的に双方の記事を同日に掲載したわけではない。ところが同じタイミングで2本の記事が掲載されたことで、読者の多くから様々な憶測や反響を招いた。すでにGL公表から3か月が過ぎ、製薬各社ともGL施行に向けた準備に入っている。社内体制の整備や、MRを含む人財教育などに余念がない。
厚労省の販売情報提供活動GLでは、経営陣の責務を明確化し、すべての面でリーダーシップを発揮するよう求めた。なかでも情報提供資材の適切性の確保、MRの評価や教育、業務記録の作成・管理、不適正な活動への対応等については、社内ガバナンスを強化し、未然に防止するカルチャーを社内で醸成するよう促した。同時に経営陣は全従業員の業務上の行動に責任を負うことも求めている。
今回のソリリス問題は、厚労省の販売情報提供活動GLを運用する上で様々な課題を投げかけた。未承認・適応外薬の情報提供についてGLでは、あくまで「医療関係者から求めがあった場合」に限るという前提で、8項目の基準を設けた。その筆頭には、「通常の販売情報提供活動とは切り分けること」の一文が明記されている。すでに同社の疾患情報サイトも学会が策定した「aHUS診療ガイド」(改訂版)に即した内容にリニューアルされ、その点で適応を誤認させるような内容は全て排除されている。
さらにGLではMRの評価に言及している。厚労省は販売情報提供活動GL案の段階でパブコメを広く求めた。この中にあったコメントの中に、「根本的な背景には、MRをはじめとする製薬企業社員の評価・報酬体系が売上至上主義であったことに他ならない」との意見が含まれていた。これに対して厚労省の見解は、「売上至上主義により設定されるMRの評価体系は不適切と考えている」と応えている。今回のソリリス問題でも症例獲得を結果的に促すことになるMRへのインセンティブ(報奨金)が問題視された。まさに厚労省もこの点に警告を発しているのだ。
最後にMR活動の「業務記録」にも触れたい。GLのパブコメで寄せられた意見の中に「不適切な口頭説明を行ったことをMR等が自ら報告することは合理的に期待できない」として、業務記録の作成を削除すべきとの意見があった。これに対する厚労省の見解は、「不適切事例の事実確認及び対応を迅速かつ正確に行うために、業務記録の作成は極めて重要である」としている。加えて、「MRが説明等を行った内容の記録は、MR自らの誤認や企業からの誤った方針に基づく不適切事例の検証にも寄与するものと考えている」として、活動日報を含む業務記録の作成は必須との立場だ。
今回のソリリス問題を厚労省の販売情報提供活動GLに照らしただけでも、多くの課題が浮かび上がる。GLは2019年4月施行、監督部門など社内体制の整備は10月施行となる。今回の問題が投げ掛けた課題は、どの企業にも当てはまる可能性を秘めている。不正事案の内容は時代とともに変化している。製薬ビジネスもグローバル化が進み、欧米先進国に止まらず、アジア・南米などに市場を拡げる活動はますます活発化するだろう。ただ、日本に限って言えば、国民皆保険制度の下で経済活動している特殊性も再認識する必要があるのではないか。地域単位に実診療データを可視化し、アウトカムで医療を評価する時代が迫っている。これまでの企業活動において、MRは売上(販売実績)がKPIだった。ビッグデータを医療に利活用する時代だからこそ、MRの評価は実処方数と安全対策・適正使用で評価すべきではないか。マーケットサイズに見合う適正な情報提供活動と安全対策で製薬各社が競う時代はもう目前に迫っている。(沼田佳之、望月英梨)