国がんと量研放医研 放射性治療薬でP1開始 悪性脳腫瘍患者を対象
公開日時 2018/07/18 03:51
国立がん研究センターと量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所は7月17日、放射性治療薬64Cu-ATSMについて、悪性脳腫瘍患者を対象に医師主導で第1相臨床試験をスタートしたと発表した。悪性脳腫瘍は、再発時に有効な治療法が確立されておらず、新たな治療法が求められていた。現在承認されている放射性治療薬4製品はすべて海外で製造されており、日本で放射性治療薬を治験用に製造・供給したのは初めて。
国がんと量研放医研が共同開発した、64Cu-ATSMは、従来の放射性治療薬で使用されるベータ線に加え、がん細胞DNAを効果的に損傷できる「オージェ電子」も放出する。低酸素環境にあるがん細胞に高集積し、治療効果を発揮するのが特徴だ。一方で、正常脳には低集積。悪性脳腫瘍は、腫瘍内部が低酸素化することが既存治療で十分な効果が得られない原因として指摘されていたことから、同剤の有効性が期待されていた。がん細胞株を免疫不全マウスに移植した動物モデル(CDX)の実験では、低酸素状態にある悪性脳腫瘍の増殖を抑制し、生存率を改善することが示されたという。また、臨床推定投与量での重篤な毒性もみられなかった。同剤は半減期が12.7時間と長く、製剤化できれば国内で他施設への提供も可能だ。
試験は、用量漸増試験を行うことで安全性の評価を行い、最大耐用量と第Ⅱ相試験への推奨用量を決定することを目的として行われる。同試験の対象は、▽標準治療終了後の再発膠芽腫・再発神経膠腫GradeⅢ▽再発中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)▽放射線治療や手術の適応のない転移性脳腫瘍、▽手術適応のない悪性髄膜種の患者(WHO-GradeⅡ/Ⅲ)―で、12~30例を集積する。最終治療例のプロトコール治療終了から1年間追跡する。試験期間は、2018年6月から21年3月までの約3年間の予定。
具体的には、用量レベルを30MBq/Kgから漸増し、最大150MBq/Kgまでの安全性を確認する。投与間隔は1週間を1コースとして、1日目に1回経静脈投与する。用量制限毒性(DLT)の状況に応じて、投与間隔の変更や試験中止を検討する。投与は最長4コースまで、もしくはDLT発現まで。
量研放医研分子イメージング診断治療研究部の吉井幸恵主幹研究員は、64Cu-ATSMについて「革新的な治療法を提供できると期待している」と強調。低酸素環境にあることが知られ、集積が高いことが確認されている肺がん、頭頚部がん、子宮頸がんなどへの応用にも期待を示した。
また放射性治療薬は、輸入に頼っているのが現状で、経済的な負担の増加や、将来的な供給不安などのリスクが懸念されている。国立がん研究センター中央病院放射線診断科の栗原宏明医長は、「薬が日本で製造できれば日本の産業になる」と述べ、期待を寄せた。
なお、同試験は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的医療シーズ実用化研究事業等の支援を受けて実施される。